事業退去を促す効果はあったドコモのツートップ戦略

日本の場合、事業が失敗しても思い切った経営の決定がなされず、撤退することなく、ずるずると赤字を積み上げてしまいがちですが、いよいよ事業構造に手を付ける、また再編を行うチャンスがやってきているのかもしれません。もしかすると、ドコモのツートップ戦略は日本の経営体質を変える歴史の一コマを開くことになるのでしょうか。

auやソフトバンクモバイルへの顧客流出に歯止めがかからず、新規契約から解約を差し引いた純増数は約8万7千件と前年同期の3分の1に激減。さらに経費増で、4~6月期連結決算が営業利益が前年同期比5.8%減となってしまい、失敗の烙印を押されたも同然のドコモのツートップ戦略ですが、思わぬ波及効果をもたらしたようです。

ツートップから漏れた国内メーカーが大きな打撃を受けたことは言うまでもありません。しかし考えてみれば、ツートップ戦略のとばっちりを受けるまでもなく、もともとポートフォリオ戦略でいえば、成長市場で低シェアに甘んじている「問題児」の事業であり、シェアをあげる秘策でもなければ教科書的には撤退が順当なところでした。ドコモのツートップ戦略は、皮肉なことに、各社がスマートフォン事業に関しての経営判断を迫るヒキガネを引く結果となったのではないかと思います。

ツートップ戦略がはじまって1ヶ月の各社の販売台数が、ITライター柳谷智宣さんの「賢いネットの歩き方」の記事にでていましたが、あまりの格差に、ツートップから漏れたメーカーはお気の毒というしかありません。

1カ月の販売台数はXperia Aが64万台、GALAXY S4が32万台。これは悪くないペースなのだが、それ以外がひどい。シャープの「AQUOS PHONE ZETA SH-06E」と富士通の「ARROWS NX F-06E」が7万台、パナソニックの「ELUGA P P-03E」は1万5000台、NECの「MEDIAS X N-06E」に至っては1万台前後しか売れていない。とはいえ、これは当たり前。CMでの露出は段違いだし、割引にも差を付けられ、実売価格がツートップと比べると高いためだ。

そして、NECが携帯電話端末事業を見直し、スマートフォンの新規開発を中止すると発表しました。さらに、パナソニックもスマートフォンから撤退かという憶測が流れましたが、こちらはそれを否定するコメントがでています。とはいえ、携帯やスマホを扱うパナソニックモバイルコミュニケーションズは2013年度第一四半期が、売上高で前年比で14%減の153億円、営業利益は前年同期の37億円からさらに54億円へと赤字が拡大しており、河井英明常務が記者会見で「近々に方向性を出して行かなくてはならない」という認識を示されたということは、撤退の可能性が高いことを伺わせます。

シャープはもう死に体ですからこの先どうなるのかわかりませんが、富士通も2013年度第1四半期で、PCや携帯のユビキタスソリューションは売上高が前年同期比8.0%減の2159億円、営業利益は前年同期から151億円悪化して171億円の赤字という状態です。「第1四半期の売り上げは、ユビキタスソリューションの減収を為替でカバーしたことで増収となり、1兆円規模まで回復してきた」(加藤専務)ということですから、神風頼みの状態です。

日本の場合、事業が失敗しても思い切った経営の決定がなされず、撤退することなく、ずるずると赤字を積み上げてしまいがちですが、いよいよ事業構造に手を付ける、また再編を行うチャンスがやってきているのかもしれません。もしかすると、ドコモのツートップ戦略は日本の経営体質を変える歴史の一コマを開くことになるのでしょうか。

(※この記事は、2013年8月1日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」から転載しました)

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