ようやく放送局関係の人たちの間でもスマートテレビへの「黒船アレルギー」が薄れてきたようです。「中村伊知哉のもういっぺんイってみな!」にそれを感じさせることが書かれていました。日本民間放送連盟(民放連)のシンポジウムで、スマートテレビに関しての「怖ろしや黒船論」はすっかりなりを潜め、「スマートはピンチか? チャンスか?」と問うたところ、業界の人が皆、「チャンス!」と答えていたというのです。
ずいぶん業界の人の意識も変化してきたと感じます。そういえば、インターネット対応テレビとか、アクトビラなどを評して「スマートテレビは終わった」と豪語していた人もいました。それはアプリもない、またクラウドサービスもないスマホの試作機を触って、スマホもガラケーも同じだと言っているようなものです。スマートテレビはネットを活用して生まれてくる新しいサービスの仕組みなのです。薄型テレビというハードは、そのサービスを利用するためのひとつの手段に過ぎません。
重要なことは、スマートテレビはテレビの接触機会を増やし、またテレビを通して得られる体験を塗り替え広げ、結果としてテレビの市場を伸ばす可能性をもっていることです。若い世代にもテレビを見てもらえるようになる可能性も秘めています。
いやあ、テレビなんてしょせん老人が見るもので、若い人は見ないよというのも今のテレビ放送の限界を評論しているだけの話です。
今の決められた時間に決められた内容を見る放送では、若い人にとって時間的にも生活にマッチしていないし、また内容に魅力を感じてもらえていないだけです。では若い人はYoutubeやニコ生を見ないのでしょうか。テレビ局の番組も、Youtubeやニコ生も、その線引もなくなるのがスマートテレビです。
広告媒体も増えます。番組やスポットは枠の制約がありますが、オンデマンド放送にしても、テレビを通したソーシャル・ネットワークであっても広告枠が増えます。あの忌まわしい時代遅れのリモコンからの呪縛も解けます。新しいリモコンが登場してくるか、あるいはリモコンはスマホのアプリになるのでしょう。これまでの薄型テレビではスマートテレビのサービスに便利に対応ができなくなり、薄型テレビの仕様も姿も変わってきます。さまざまな新しいサービスを盛り込んだサイトも今以上に現れ、アプリも登場し、新しい市場が生まれてくるでしょう。
そしてテレビ局は広告を増やせるだけではありません。テレビ局は膨大なコンテンツを持っています。その資産をDVDで売るとか、馬鹿高い料金でしょぼい展開しかしていないビデオ・オン・デマンドのサービスではなく、もっとその資産をマネタイズする仕組みも生み出せるはずです。
視点を変えれば、放送局は古い産業から新しい成長産業に変身できるのです。テレビが変わる。これほど分かりやすい変化はありません。市場は自ら拓くものだということを視聴者は体感するのです。
難しい成長戦略をいくら唱えても、それは他所事になってしまいます。経済の成長をつくるのは最終的には国民の意識です。その意識のなかに成長への確信や成長への希望を見出すためには、もっと身近なところでの変化を共有しあうことだと思います。
アベノミクスという言葉も旬を過ぎたのか、もうあまり聞かなくなり風化してきたようにも感じますが、成長戦略の目玉として放送局の改革にチャレンジしてみてはどうでしょうか。
そういえば自らのビジネスについてお話した取材ビデオができあがってきたようです。ぜひご覧いただければと存じます。
(※この記事は、2013年8月27日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」から転載しました)