意外すぎた「あまちゃん」視聴率から考えてみる

実感とマーケットデータが異なる、そんなことを体験した機会はこれまでもたびたびありました。そんなときにはどうしても謎解きをしたいという誘惑にかられます。なぜあれだけ話題になった「あまちゃん」の平均視聴率が「梅ちゃん先生」よりも低かったのかもそうです。

実感とマーケットデータが異なる、そんなことを体験した機会はこれまでもたびたびありました。そんなときにはどうしても謎解きをしたいという誘惑にかられます。なぜあれだけ話題になった「あまちゃん」の平均視聴率が「梅ちゃん先生」よりも低かったのかもそうです。いやもっと正確に言えば、そのふたつの番組で平均視聴率が変わらなかったというべきでしょう。統計的には、今の視聴率調査で1%とか2%の差は誤差の範囲です。まして「梅ちゃん先生」の平均視聴率20.7%、「あまちゃん」の平均視聴率20.6%では、「梅ちゃん先生」のほうが視聴率が高かったとはいえません。

めんどうなことを省いて結論から言えば、ほんとうの視聴率は統計の理屈では、もしかするとどちらの番組も実際は17%台だったかもしれないし、23%台だったのかもしれません。

簡易に計算できるサイトを見つけたので、一度試してみてください。視聴率の1%に泣き、1%に笑うとかいう話はまるでのカルトの世界に見えてくると思います。

視聴率で言えるのは、今では誰もが「じぇじぇ」を知っていると言えるほど、話題が広がり、社会現象となった「あまちゃん」の視聴率が、それほど高いものではなかったことと、今年大ヒットし最終回で今世紀のドラマ史上最高となる平均視聴率42.2%(関東地区)を記録した「半沢直樹」とは大きな差がでたことです。

しかし、おそらく視聴率以上に「あまちゃん」が見られたことはまず間違いないでしょう。録画して見るタイムシフト視聴です。でなければあれだけ話題にはならなかったはずです。

しかも、「半沢直樹」は確かに現代の水戸黄門劇として大ヒットし、「倍返し」が流行語になったとはいえ、メディアの今後を占うとすれば「あまちゃん」はもっと面白い社会現象だった感じます。

アジャイル・メディア・ネットワークの徳力基彦さんが、日経に記事を書いていらっしゃって読みましたが記事のポイントとしてこうまとめられています。

(1)話題となった「あまちゃん」の平均視聴率は意外にも高くない。

(2)テレビ視聴はソーシャルと録画の影響が大きくなりつつある。

(3)テレビ番組の評価が生の視聴率だけで測れない時代に突入している。

徳力さんもご指摘のように視聴率が思ったほど高くなかったのは「録画視聴」で説明がつくと思います。「録画視聴」は視聴率としては対象外になっているのでカウントされていません。

日本でも10月1日からビデオリサーチが録画視聴率調査を本格的に開始するといわれていますが、「録画視聴」の実態が見えてくれば、現代のライフスタイルと決められた時間に放送されるテレビのあり方のギャップが見えてくるはずです。

そのギャップが若い世代の「テレビ離れ」の大きな原因の一つになっている点です。「あまちゃん」現象は、もしかすると、まだまだ放送局が積極的とはいえないタイムシフトを前提としたオンデマンド放送への動きを後押しする象徴的な番組になるかもしれません。

「ソーシャル」と既存メディアの化学反応

徳力さんは、「ソーシャル視聴」現象を指摘されています。「ソーシャル視聴」は「半沢直樹」でも見られた現象です。テレビを見ながらツイッターでつぶやき、それを見た人が番組を見るという現象です。ソーシャルメディアとテレビは実は相性が良く、「ソーシャル視聴」を前提とした番組のつくりかたやソフトの充実は今後のトレンドになってくると思います。海外ではその動きが急になってきています。

それよりも注目しているのは、ツイッターやフェイスブックなどで「倍返し」「土下座」「じぇじぇ」がキーワードとなり話題が拡散し、さらにそれがさまざまなテレビ番組や雑誌などの既存メディアでも取り上げられて拡散するという現象、また既存メディアで取り上げられたことで、さらにソーシャルに還流してくるなかで起こってきたことです。次第にソーシャルメディアが既存メディアをも動かすパワーを持ち始めているという点で、またソーシャルメディアと既存メディアでいわゆる「化学反応」が起こったことです。

「半沢直樹」と「あまちゃん」は、ソーシャルメディアとテレビは対立するものではなく、実は極めて相性がいいことが示されたのです。おそらくソーシャルメディアでの拡散を意識した番組づくりも今後は増えてくるものと思います。

若い世代も実はテレビが好き

「ろくな番組がない」、「見ても面白く無い」、「テレビを見なくなった」とよくいわれます。しかしそこには、それぞれ関連しあっているとしても、別の問題が含まれています。

まず、制作費の削減などで、似たような番組、手抜きの番組が増加してしまったなどの番組の質の問題。

つぎに、先に触れたライフスタイルと放送時間のズレとインターネットとの競合の問題・

第三が、番組内容と若い世代の嗜好とのギャップです。

とくに注目したいのが、「あまちゃん」は、これまでは高齢者しか見なくなったNHK朝の連続テレビ小説も、番組のつくり方によっては若い世代にもウケることを示した番組だったのではないでしょうか。

つまりこれまではテレビを見るのは高齢者だ、だから高齢者に人気がでる番組づくりをするという流れがあり、NHK朝の連続テレビ小説はその典型的な番組だったのです。それでは若い世代の興味も関心も呼ばず、たとえちらっと見ても他の番組にチャンネルを変えてしまいます。

実は、年齢のせいか、昨今は欠かさずにNHK朝の連続テレビ小説を見るようになりましたがこの数年、番組企画のあり方を模索していることを感じていました。高齢者にウケる番組づくりの限界から抜けだそうとしていたフシがあるのです。

さまざまな切り口でデータをグラフ化し解説している「社会実情データ図録」がNHK朝の連続テレビ小説の年度別の平均視聴率の推移をとりあげていらっしゃいますが、あきらかに平均視聴率52.6%をとった「おしん」をピークに、視聴率が長期的に低下しつづける傾向が見られます。しかし2009年を底に、視聴率が改善してきたのです。あきらかに番組内容の若返りを狙ったきたことを感じていたのですが、それによる変化ではないでしょうか。グラフをお借りしましたが、「社会実情データ図録」の番組内容の変化の解説も面白いのでぜひご覧ください。

「あまちゃん」はソーシャルメディアでバズワードとして広がりやすい「じぇじぇ」で、その変化が表にでて、知られたということだったのでしょう。ちなみにバズとは蜂がブンブンとうなり続けている様子を示す言葉です。

つまり番組のつくりかたも若い世代のテレビ離れの原因のひとつだったのだろうと感じさせます。しかし実は若い世代も内容によっては「テレビが好き」なのです。内容もこれまではギャップがありました。

「ソーシャル」との連動、「録画」の面倒を解決すればテレビは復活する

テレビ番組をわざわざ録画するというのはソーシャルメディアが視聴に影響する時代には決して便利とはいえません。ソーシャルメディアで話題になったときに、そのときに見る、あるいはそれをチェックして都合の良い時間に見るというのがもっとも自然です。

「録画」はめんどうだし、そもそもどの番組が面白いのかがわからないので、たとえ面白い番組があっても録画しないのです。

地デジハイビジョンを1週間分 全チャンネルまるごと録画し文字で検索する録画機もいろいろ出てきていますが、本来はソーシャルメディアとくっついたオンデマンド放送のほうが美しい解決です。これがテレビが復活する鍵をも握っているのですが、なかなか進まないところが日本の停滞を物語っているようで残念なところです。

(この記事は2013年10月19日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」からの転載です)