ブラック企業の烙印を押された代償は大きい

2013年はワタミ創業者渡邉美樹氏にとっては忘れられない年になりそうです。衆議院議員となった喜びの一方で、自ら築いた事業の不振がはじまりました。2013年3月期決算は、1996年に株式を上場して以来、初めて赤字に転落するようです。ブラック企業と聞いてワタミを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

2013年はワタミ創業者渡邉美樹氏にとっては忘れられない年になりそうです。衆議院議員となった喜びの一方で、自ら築いた事業の不振がはじまりました。2013年3月期決算は、1996年に株式を上場して以来、初めて赤字に転落するようです。

ブラック企業と聞いてワタミを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。2008年に居酒屋「和民」にはいって間もない森美菜さんが、7日間連続の深夜勤務を含む長時間労働に加え、月140時間に及ぶ時間外労働を強いられ、入社2か月後に自殺した痛ましい出来事の後も、渡邉美樹氏の問題発言がつづき、家族にやっと謝罪の言葉がでたのは、森美菜さんが亡くなって6年後の今年の法廷ではじめてだったといいます。

森美菜さんの自殺については、2012年に過労自殺による労災と認定され、ワタミ側が異議を申し立てたために、法廷で家族といまなお争われているのですが、その後に、大量の閉店や従業員の増強を行っていることを考えると、業務の仕組みの不備を従業員でカバーさせる経営を行なっていたのではないかと疑わせます。

実際、店舗数が減ったにもかかわらず、2013年上期決算資料で経常利益が減少した要因に、既存店の売上の減少についで、時給単価アップがかかげられています。ワタミを見る目が厳しくなったこと、また上記の法政大学水島宏明教授の記事では、ワタミが昨年設置した有識者委員会から店舗の労働環境の改善を指摘されており、結果、一店舗あたりの従業員数が増加したことも影響したのでしょう。

いずれにしてもワタミは、全社売上の5割近くを占める本業の外食の不振が続き、さらに宅食サービスの事業も不振に陥っています。ワタミの本業はもうピークを過ぎ、衰退に向かってきていることは既存店の売り上げや客数の推移からわかります。グラフで見れば、前年割れが続いている状態がひと目でわかります。本来なら、事業の立て直し、また業態の革新に邁進すべきところでしょう。国会議員をやっている余裕はないはずです。

渡邉美樹氏はかねてから、手帳に“人生の設計図”を 書き込むことで夢が実現できると豪語していましたが、ブラック企業ランキングトップ入りとか、本業の衰退と赤字決算も書き込まれていたのでしょうか。

どのような企業も、いろいろな事情を抱えているものですが、渡邉美樹氏は反省するどころか、たびたび眉を潜めるような発言を平気でテレビでも行い、それがネットにも拡散し、ブラック企業だというイメージをさらに強めてしまいました。その結果、客離れが起こり、また従業員離れを防ぐために人件費もあがってしまったわけです。そんなシナリオは渡邉美樹氏にとっては「想定外」だったのでしょう。

さて、外食では、すき家も厳しいようです。4月のすき家の全店売上が前年同月比で89.4%に落ちてしまっています。既存店売上高は98.6%だったこと、また店舗数が増加していることを考えると、人手不足による、「パワーアップリニューアル」と称する休業や、営業時間の短縮などの影響が出たと見て間違いないでしょう。店舗の運営を軽く見て、吉野家の牛すき鍋膳に追随してしまったツケがきたのかもしれません。

こちらも、結局は、ビジネスの仕組み、店舗を運営するソフト力の不足を、人力で補うという経営は、景気の好転で労働市場の需給関係が逆転してしまうと、成り立たないということの事例だと思えます。

サービス業の生産性を高めていくことは日本の大きな課題です。それはエキセントリックに働くことで達成できるわけではなく、ビジネスの革新によって効率性を高めたり、付加価値をたかめる経営があって実現できます。

さて、教訓ですが、身の丈を知るということが大切だということと、綺麗事を並べる人には、裏があることが多く、くれぐれも要注意だということです。仕事も、人生も、波瀾万丈とまでとはいかなくとも、想定外の紆余曲折があってあたりまえなのですから。

(2014年5月8日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

注目記事