LGBTへのいじめの実態明らかに

愛知県の女子大生に話を聞いてみた。

LGBTという言葉をよく聞く。レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(それぞれの頭文字を取ってLGBT)のことだ。

おりしも、5月7日と8日は、東京・代々木公園でLGBTをはじめとするセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)が、差別や偏見にさらされることなく、自分らしく、前向きに生きていくことができる社会の実現を目指すイベント、『東京レインボープライド』が行われている。

しかし、LGBTの子供たちに対するいじめの実態は、私達が想像する以上に酷い。

5月6日、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本の学校でのLGBTの子供に対するいじめの調査報告書を公表した。

報告書『出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』は、LGBTの子どもをいじめから保護できていないと指摘した。報告書の中で、2015年10月から12月にかけてネットなどを通じて行ったアンケート結果も公表。調査は14都道府県で実施、性的少数者の子供や、学校教員、政府関係者、弁護士、子供の親、専門家らにインタビューも行った。

調査した25歳未満のLGBT当事者458人のうち、86%が教師や児童・生徒がLGBTに対する暴言や否定的な言葉、もしくは冗談(「ホモネタ」など)を言うのを聞いたことがあると回答した。「生徒が言っていた」が77%。「教師が言うのを聞いた」も29%に上った。

教師がこれらの暴言を目撃したり聞いたりしても、60%が「特に反応せず」で、18%は「教師も生徒に加わり暴言を吐いた」という。また、自らに対し暴言を吐かれた31%(145人)の内、「誰かに相談した」子供は31%(36人)に過ぎなかった。

報告は「いじめ対策や教員研修が不十分。嫌悪に満ちた言葉が子供を自己嫌悪や自傷に追い込んでいる」と指摘し、教員研修の義務化などを政府に求めている。

今回の調査を行ったヒューマン・ライツ・ウォッチLGBT権利プログラム調査員であるカイル・ナイト氏は、「15年前アメリカで(我々は)世界で初めて人権の観点から(LGBT問題を)調査したが、こうした問題は世界中に存在する。LGBTの子供はいじめに遭いやすい。

情報の欠如、研修の欠如などが脆弱さを生む。安全な環境で教育を受ける権利を阻むのが構造的なものである。性の問題ではなくてアイデンティティーの問題だ。」と述べた。

LGBTの人びとへの平等な権利保障に関する議論が社会全体で高まる中、国のいじめ防止対策は2016年の見直し時期を迎える。ヒューマン・ライツ・ウオッチの日本代表、土井香苗氏は「日本ではLGBTの子供の支援に動きつつあるが、いじめ防止基本方針は、性的指向と性自認について一切触れられていない。国は国際基準に従い、いじめ防止の政策をLGBTの子供達を守る方向で見直すべきだ。」と話した。

今回イベントに参加した愛知県の女子大生のみきさん(仮名)に話を聞いた。

「(今は自分が)レズビアンかなー、って感じです。ちょっと悩みつつなんです。いまだに自分のことを完全に受け入れきれていません。自分がある時ふと、異性愛者に戻ったら、とか、将来的にそういう人生になったらいいな、とか思ってしまうことが今でもあります。どういう風にして、自認していいからわからないところはあります。」と悩みを打ち明けた。

またみきさんは、自分のこうした悩みを人に話すことすら出来ないでいるという。「(自分のことは)当事者数人のみしか知りません。身内にも、大学の友達にも一切言ってない。過去の恋愛の話を聞かれた時もごまかしたり、話をしないで過ごしています。それがいつまで可能なのか・・・いつか追及されて、ばれてしまってそれで友情が壊れて、とか、友達がいなくなるんじゃないか、とかいう不安はあります。(カミングアウトして)虐められたり、就職で不利になったりするかもしれないし・・・。」

こう不安を口にしたみきさんに、社会はどうあるべきか尋ねると、語気を強めてこう話してくれた。

「とにかく知って欲しい。お互い完全に理解するのは難しいからそこまでは求めないけど、まずは最低限の知識だけでも知ってもらって・・・。今は反射的にダメっていう対応があるような気がするので、そういうことはしないで、一回話を聞いてほしい。」と、学校現場などにおいて、社会で多様性を認める重要性などを教えてもらいたい、との考えを強調した。

又、今年大学を卒業し、現在海外留学に向け準備中の菊本寛さんはゲイであることを既にカミングアウトしている。しかし、幼少期からの葛藤は想像以上だった。

「幼稚園の年長組の時に、既に異性愛を前提とした社会に違和感がありました。幼稚園から小学校にかけて強迫性障害や拒食症になり、自分の居場所がない、と感じていました。性自認は男だが、体操着が男女別とか、男らしくしろ、とか、言葉にできない"もやもや"を常に感じていました。」

「小4の時にオカマとか女ったらし、とか呼ばれ始めて。いじめに合わないように、自分で必死にオカマキャラで通しました。家族にも言えなかった。高校2年でようやくmixiのゲイコミュニティで、自分と同じような人と知り合い、他にもゲイがいるんだ、と分かったんです。」こうして17歳の時、菊本さんは両親にカミングアウト、今は親戚も含め理解してくれているという。

自身の経験から菊本さんは社会の理解を高めることが必要だと言う。

「(自分たちのような人たちを守る)法制度や学則などがない。(理解がある上司や先生に遭遇できるかどうかは)運次第じゃないですか。社会の認知度や理解を深めていくことが大事だと思います。」と語った。

今、社会における多様性を認めようとする機運が高まっている。しかし、単一民族の日本において、様々な議論があることも事実だ。

LGBTの子供たちに対するいじめや虐待の問題を彼らだけの問題に矮小化してはならない。

今、改めて日本社会が「多様性」を認めることが出来るのかどうか問われている。

トップ動画:報告書内の漫画は、ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした方々が、ご自身の経験を自らの言葉で語ってくださったお話に基づいている。いくつかのシーンでは、ストーリー展開に必要な文章が追加されている。© 2016 歌川たいじ

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