新聞・テレビ、背水の陣 ~2019年を占う~【メディア】

メディアの今後を分析。新聞、テレビはどうなる?
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安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

「編集長の眼」

【まとめ】

・新聞の凋落歯止めかからず。ネットメディア好調。

・インターネット広告費がテレビ広告費抜くのは時間の問題。

・NHKがテレビ番組のインターネット常時同時配信に動き出す。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトでお読みください。】

1年前、「2018年を占う」特集で私は、「ウェブメディア猛攻 新聞の漂流止まず」と題する記事を寄稿した。その中で私は、

・新聞はアーカイブと人材を利活用できておらず、人材流出に歯止めかからず。

・読者が本当に知りたい情報を報じておらず、ウェブメディアの猛攻を許している。

と書いた。

■ 新聞

確かに2018年、新聞は凋落の一途だったと言えよう。一般紙の発行部数推移を見てみよう。部数減に歯止めがかからなっていないのが一目瞭然だ。

一般紙発行部数推移
一般紙発行部数推移

確かに紙の新聞を読んでいる人は減った。というか、通勤電車の中でほとんど見かけなくなった。スマホやタブレットで読んでいる人はいるかもしれない。

日本経済新聞電子版の登録会員は400万人を超えた(日本経済新聞調べ)。そのうち筆者のような有料会員は60万人超だという。しかし、この10年で発行部数は約880万部、2割も減ったのだ。

新聞広告費に至っては、2005年に1兆377億円あったものが、2017年には5147億円と、13年間で実に半減しているのだ。(日本新聞協会調べ)その分、インターネット広告に流れているのは言うまでもない。

日本経済新聞の電子版は紙の新聞と一緒に申し込む日経Wプラン(宅配 + 電子版)で月5900円(税込み)だ(朝・夕刊セット版地域:宅配4,900円 + 電子版1,000円)。これは結構な出費だ。ビジネスマンの多くは日経を読んでいるだろう。

仕事で新聞から情報を得る必要がある我々ジャーナリストでも、日経以外の電子版を契約するのはハードルが高い。どの新聞社も苦戦しているに違いないが、こればかりはどうしようもない。

多くの人は無料ニュースアプリで記事を大体は読んでしまっている。それに見合う価値がなければ人はお金を払おうとは思わないのだ。

なにしろ可処分時間は限られている。通勤、通学の時間はNetflixなどで動画を見たり、ゲームをしたり、友達とLINEしたり、Instagramに投稿したりしなくてはいけない。

特に動画配信サービスはほとんどが有料であり、月額数百円から千数百円払っている。それにスマホの月々の支払いもばかにならないはずだ。お金を払って新聞を購読しようという人が減る訳だ。

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出典)Max Pixel (Public Domain)

しかし、ビジネスパーソンが情報を必要としていない訳ではもちろんない。

経済ニュースに特化した新興ウェブメディアNewsPicksは、だれでも気軽にコメントを投稿できるだけでなく、各分野の専門家のコメントを読むことが出来ることが受けて、今やユーザー数は300万人超、月額1500円の有料会員も8万人を突破した(2018年9月現在:2018年第3四半期決算資料による)。

必要なものにはお金を惜しまないのはデジタルネイティブだけだと思ったら大間違いだ。新聞にはない価値があると認めたら、有料でもちゃんとウェブメディアにお金を払う人がいることが証明されている。

新聞は紙面のみならず、ネット戦略でも大きく発想を変えない限り、ジリ貧の状況は続くだろう。

又、新聞や雑誌出身の編集長を擁するウェブメディア、ハフィントンポスト日本版や、BuzzFeed JapanBUSINESS INSIDER JAPANや調査報道NGOのワセダクロニクルなども独自の視点で記事を編成しており、存在意義を高めつつある。

新聞各社に危機感が見られないのが気にかかる。

■ テレビ

ではテレビ業界はどうだろうか?こちらも停滞しているといっていいだろう。

総務省の情報通信白書を見てみよう。細かくて恐縮だが、要は、全年代でリアルタイム視聴時間(平日)は2013年から2017年の4年間で168.3分から159.4分と、減少傾向だ。率にしてマイナス5%である。

しかし年代別に見てみると60代の減少率がマイナス約1.6%なのに対し、10代、20代はマイナス約28%。若い世代ほどリアルタイムでテレビを見ていないということになる。

しかもその視聴時間を比較してみると、60代が252.9分(4時間12.9分)に比べ、20代は91.8分(1時間31.3分)、10代は73.3分(1時間10.3分)である(2017年)。若者は60代の3割程度の時間しかテレビを見ていないということだ。

だからといって10代、20代がテレビを見ていないというわけではなく、録画やネット配信で見ていることも多い。

「主なメディアの利用時間と行為者率」
「主なメディアの利用時間と行為者率」

広告主もそれを分かっているからマスに訴えるテレビという媒体の価値を無視はできない。業種にもよるがゲームなどを主力とするIT企業などはテレビCMの効果を肌で感じているだろう。CMを頻繁に打っている。

CM枠に限りがあることもあるが、地上波テレビの広告費は、2015年1兆8088億円、2016年1兆8374億円、2017年1兆8178億円、とここのところ横ばいである。増えもしないが減りもしないといった状況が続いている。

一方、インターネット広告費はどうかというと、2015年1兆1594億円、2016年1兆3100億円(対前年比プラス約13%)、2017年1兆5094億円(対前年比プラス約15%)と2ケタ成長が続いている(参考:電通「2017年日本の広告費」)。矢野経済研究所は、2020年に2兆円の大台に乗せ、2021年には約2.4兆円に拡大すると予測する。

テレビ広告費を抜くのも時間の問題だろう。

こうした状況でテレビ局はどんな手を打っているのかとみると、今のところテレビ朝日のAbemaTV以外見るべきものはない。テレビ朝日とサイバーエージェントが2016年4月に開局したネット放送局AbemaTVは、2年半でアプリ3400万ダウンロードを達成している。

地上波では放送出来ないようなテーマを取り上げて、ネットならではのゲストがスタジオでじっくり討論する番組や、中高生をターゲットにしたオリジナルドラマなどを制作し、スマホで手軽に視聴できることも手伝って10代から30代のユーザーに支持されている。

その収益モデルは地上波と同じ広告と月額課金960円の「Abemaプレミアム」の2つだ。今のところ競合は見当たらず独走状態であるが、現段階ではまだ投資が収益を上回っており、今後の事業展開がどうなるか注目される。

■ NHKのネット常時同時配信

そうした中、2019年はいよいよNHKのネット同時配信が本格化する。NHKは既に2015年4月施行の改正放送法に基づき、「インターネット実施基準」に則って、インターネット同時配信を行っている。

具体的には、災害時の緊急ニュースの提供やスポーツ番組などだ。NHK杯フィギュアやリオデジャネイロオリンピック、ピョンチャンオリンピック等も配信された。

それ以外にNHKが重要だと思われるニュースも同時配信されている。例えば、アメリカ中間選挙や、自民党総裁選などだ。どの番組が同時配信されたかNHKはHPで公表している。

一視聴者としては、スマホでニュースの同時配信が視聴できるのは極めて便利だ。移動中でも情報が得られるのは歓迎すべきことだろう。

特に災害情報は停電時などテレビが映らない時にスマホで情報が得られるメリットは大きいと感じる。

こうした中、NHKがいよいよテレビ番組のインターネット常時同時配信に動き出す。そのために必要な放送法改正案が今年の通常国会に提出される見通しなのだ。

NHKは2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックまでになんとか常時同時配信を始めたい考えのようだ。その為だけではないだろうが、NHKは2018年11月27日に2020年度までに今年度受信料収入見込み約7060億円の約4.5%相当を値下げすると発表している。

NHK放送センター 東京都渋谷区
NHK放送センター 東京都渋谷区

出典)Photo by Rs1421 (Public Domain)

そもそも受信料が増え続けていている中で、受信料の値下げ問題はずっとくすぶっていた。ここにきてようやくという感じだが、それはともかく、NHKのネット常時同時配信の持つインパクトは大きい。

特に民放連(一般社団法人民間放送連盟)は民業圧迫としてこれに反対してきた。2018年10月には以下の8項目の要望書を出している。

(1)事業ごとに資産を管理(区分経理:注1)しネット活用業務を見える化すること

(2)ネット活用業務の予算は受信料収入の2.5%を上限とすること

(3)常時同時配信の地域制御

(4)ネット配信事業での民放事業者・NHKの連携

(5)外部監査の強化による事後チェック体制の充実

(6)関連団体への業務受託の透明性向上、子会社の在り方などの見直し

(7)衛星波の整理・削減を含む事業規模の適正化

(8)受信料体系・水準などの見直し

確かに民放のネット同時配信は進んでいない。

2015年に在京民放5社が始めた公式テレビポータルアプリ「TVer(ティーバー)」があるが、あくまで見逃し配信が主だ。2018年には、在京民放5社(日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビジョン)が、「TVer」で各局の地上波放送番組をインターネット同時配信する技術実証を実施した。

が、技術実証と言っているくらいだから、NHKに比べて大分後ろ向きの感がある。

このままではNHKが独走状態になってしまうのではないか。それは決していいことではないだろう。

NHKの肥大化につながるし、そもそもNHKは不祥事のデパートとの汚名を払しょくできているのか、ガバナンスの問題がどうなっているのか気になる視聴者は多かろう。

また、受信料の問題も議論は尽くされていない。ちょっと値下げしたから常時同時配信いいよね、だって便利でしょ?というわけにはいかない。

番組の質の問題もある。最近のNHKは民放ばりの情報番組やバラエティまがいの番組がやたら目に付く。

民放と同じような番組を視聴者は果たして期待しているのだろうか?また、報道番組は政権に忖度せず公平公正な立場で制作されているのか?そんな声にも真摯に耳を傾けるべきだろう。

一方で、民放連のこうした要望の裏には、ネット同時配信が地方局の存在意義を揺るがしかねないとの懸念がある。

地方局は全国ネット番組と自社制作のローカル番組で得た視聴率を基に、CMを販売して収入を得ている。ネット同時配信を解禁することはこうした民放テレビ局と地方局とのネットワークを壊すことにつながることを民放連は懸念している。

しかし、それも10年以上前から議論されてきたこと。ことここにきて、もはや同時配信の流れは止めようもない。視聴者はほっておけばどんどんオーバーザトップ(OTT)サービス(注2)に流れて行ってしまう。

実際筆者は地上波テレビやBSテレビの番組より、OTTの動画サービスを見ている時間の方が圧倒的に多い。

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出典)Max Pixel (Public Domain)

このし烈なサバイバルゲームの中で、テレビ各局はどのような勝ち残り戦略を立てるのだろうか。2019年はその最後のチャンスとなるだろう。

注1)区分経理

放送事業と切り離して費用を透明化し会計監査の対象にすること。

注2)OTT(オーバーザトップ)

インターネット回線を通じて、メッセージや音声、動画コンテンツなどを提供する通信事業者以外の企業。YouTubeやHulu、Netflix、SkypeやLINE、TwitterやFacebookなど。

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