【東電柏崎刈羽原発、安全対策の進捗】~訓練から得られる知見を生かせ~

国のエネルギー戦略の中における原子力発電の位置づけを明確にする必要がある。

<柏崎刈羽原子力発電所7号機 正面内部にフィルタベントが設置されている ©安倍宏行>

世界最大級の原子力発電所が東京電力柏崎刈羽原子力発電所だと知っている人はどれほどいるだろうか。総出力821.2万kWを誇る原発7基が直列に並んでいる姿は壮観としかいいようがない。筆者がここを訪れたのは3年前。

まだ新規制基準に合わせ、防潮堤の建設が始まったばかりであった。その当時、柏崎刈羽原発がどのような状態になっているのか東京キー局を始め大手新聞各紙も詳細には伝えていなかった。そこで筆者は当時担当していた報道番組(BSフジプライムニュース)で廣瀬直己東電社長をゲストに番組を制作した経緯がある。

そして3年。原発はどう変貌を遂げたのか、今月初めに再訪した。まず津波対策。柏崎刈羽原発には1号機から7号機まである。1号機から4号機側の敷地の高さは海抜5メートルであり、そこは高さ10メートルの鉄筋コンクリート製防潮堤が完成していた。

また、海抜12メートルの敷地にある5号機から7号機側は高さ3メートルのセメント改良土による盛土で対策してあった。どちらも15メートル級の津波に備えたものだ。施設への浸水防止対策としては、建屋の重要な機器がある部屋の扉の水密化が図られていた。

<6号機内部に設置されている水密扉 ©安倍宏行>

福島第一原発の事故は、全交流電源喪失により原子炉建屋内への注水が出来なくなったことで起きたわけだが、その教訓から、電源が喪失しても注水が出来るように40台超の消防車を高台に配備している。

又、緊急時の電源確保対策として、ガスタービン発電機車と高圧電源車が配備され、外部からの給電用送電線や、非常用ディーゼル発電機が災害で被害を受け電気が喪失しても、発電出来る設備が整っていた。

これらの設備用の燃料の軽油タンクも5万リットル級3基が海抜35メートルの高台に埋設されていた。さらに、冷却用淡水を確保するため、2万立方メートルの巨大な貯水池を海抜45メートルの高台に建設した。

一方、福島第一原発事故の最大の被害は、放射性物質の大気中への拡散であった。建屋の水素爆発は厳に防がねばならないが、万が一、炉心が損傷し、粒子状放射性物質が放出されるような事態となった場合、重要なのはフィルタベントだ。

放射性物質を除去し、大気への拡散を防ぐ装置で、原子力規制委員会による新規制基準に基づくものだ。今回、気体状放射性よう素も除去するフィルタを追加したことで、放射性物質の99.9%以上、よう素の98%以上が除去できるという。このフィルタベントは地上式だが、万が一に備え、地下式も追加する予定だ。

災害時、複数のプラントが被災した時や長期間にわたる事故に備え、緊急時対策要員も325名から約850名に増員している。また、電源復旧や注水、ガレキ撤去などは、被災後最優先で実施しなければならないことから、宿直員を現状8名から40名程度に増員することとしている。

<防潮堤 海抜15メートルの高さ ©安倍宏行>

新たな安全対策はこの3年間でさらに積み上がっており、考えうるものはほぼ対応済みである印象を受けた。二重、三重の対策を取ることで、安全性を出来るだけ高めようという姿勢が感じ取れた。

東京電力柏崎刈羽発電所の横村忠幸所長は今後の安全対策について、「規制基準に合格したとしてもより安全にするための改革については決して歩みを止めることなく継続して実施していくことが重要だ。」と述べ、対策の積み重ねに決意を示した。

また、「より厳しい訓練を課しながら、そこから原子炉を安全に確実に制御できる知見やアイデアを絞り出し、それを取り込んでいきたい」と語り、今後も継続して安全対策の質を高めていくとの考えを強調した。

こうした新規制基準に基づく対策は全国の原子力発電所で取られている。再稼働については、九州電力の川内原発に続き、四国電力の伊方原発が現在準備中だ。自然災害による重大事故は二度と起こしてはならないが、現在の技術水準で出来る限りの安全対策が取られていることは事実である。

そうした事実を踏まえ、国のエネルギー戦略の中における原子力発電の位置づけを明確にする必要がある。国は将来的に耐用年数を経た原発は廃炉にする方針を固めている。しかし、原発のほとんどが停止している今、その代替電源は、現時点で火力発電に頼っているのが現状だ。

その為に我々ユーザーは高い電気料金を負担しており、中小企業などにとっては死活問題となっていることを忘れてはならない。再エネはベース電源にはなりえないことを踏まえると、新規制基準に合格した原発から再稼働することが現実的なのではないか。その上で、耐用年数が来た原発は順次廃炉にしていけばよい。震災から4年半たち、この議論がすっかり低調な今だからこそ、改めてこの問題に目を向けることが必要だ。

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