Diversity - なぜ女性は給与待遇面でタフなネゴシエイターになれないのか?

高額給与を勝ち得た女性CEOたちに共通する資質とは何なんだろう?

女性CEOの給与が5,320万ドル!

前回のブログで、男性(あるいは女性も含む)は「職場で女性は感情的になりやすいので、発言に必要以上に気を使わなければならない」というステレオタイプな見方をもち、女性の上司・同僚・部下に抵抗感があるという点を指摘した。

そんな中今週のSF Chronicleの記事で、Oracleのco-CEOのSafra Catzが2015年の会計年度のCompensation packageが5,320万ドル(ちなみに1/21時点で円換算すると62億6,536万4,000円)と聞いて、「ほほう」と思わずうなった。

この金額は2016年1月時点の各企業の株価で試算された数字だと思うが(給与パッケージにはボーナスや株式が含まれている)、彼女は現在米国の上場大企業の中で最も稼ぐ女性となった。

彼女の後に続くのは、昨年まで全米女性CEOのトップの稼ぎ頭だったYahooのCEOのMayer、3位以下はバイオテックのUnited TherapeuticsのCEOのRothblatt、AppleのSVPのAhrendts、ファッションブランドKate SpadeのChief Creative OfficerのLloydとなっている。

  1. Safra Catz(Oracle Corp.のCEO)5,320万ドル
  2. Marissa Mayer(YahooのCEO)4,208万ドル
  3. Martine Rothblatt(United TherapeuticsのCEO)3,158万ドル
  4. Angela Ahrendts(AppleのSVP, retail and online stores)2,577万ドル
  5. Deborah Lloyd(Kate SpadeのChief Creative Officer)2,496万ドル

出典:SF Chronicleの記事。データはEquilarによる最新の年次レポートによるもの。

「社内の解決すべき問題をすべて解決して」CEOに登りつめた女性

Fortune Magazineによれば、1999年Senior Vice Presidentとして雇用されたCatzは、彼女の言葉を借りれば "I'm here to help Larry" という理由で、創設者のLarry Ellisonという稀代のColorfulな人物に雇用され、重用されている。

当初は彼女のへの見方は中々厳しかったようであるが、記事によれば、彼女はLarry Ellisonの「go-to person(頼りになる人)」として信頼され、Oracle内で解決されなければならない問題を全てフィックスする人物の1人として、過去10年間Oracleの成功の多くは彼女の貢献によるものであるという。

彼女は1999年以来、CFO、President、co-CEOときっちりと階段を上っている。また彼女の給与は同僚のco-CEOのMark Hurdと同じで、ここにGenderによる差別はなく、彼女の仕事がきっちり評価されていることがよくわかる。

カリフォルニア州の大企業のCEOの給与の中間値は、女性のほうが男性より200万ドル高い

UC Davisによる女性のリーダー達の給与に関する調査「UC DAVIS STUDY OF CALIFORNIA WOMEN BUSINESS LEADERS」によると、カリフォルニア州の大企業だけに絞って女性のCEOの給与を見てみると(上記の表)、女性のCEOの給与の中間値は660万ドルと男性の中間値の460万ドルより200万ドルも高い。これは、通常の男女格差の逆のパターンである。

これをCEOではなくExecutiveに落としてみると、2015年では男性は213万ドル、女性は186万ドルと、女性のほうが給与の中間値は27万ドルも低い数字となる。

この場合の対象Executiveは1,814人で、そのうち男性が1,624人で女性は190人(全体の10.47%)である。

では、CEOの給与の中間値ではなぜ男女の逆転が起きたのか?

理由として考えられるのは、前回のブログでも触れた、女性のCEOの絶対数が足りないという点である。

実際に調査対象の399人のCEOのうち、わずか17人しか女性のCEOは存在せず(全体の4.3%)、自社のDiversity実現のために意図的に女性CEOを雇用したい企業は、多額の給与を払わなけれければ女性のCEOは見つからず、結果実際のその女性の能力以上(Overqualified)の給与金額を提示しなければならないという皮肉な見方もある。

「タフなネゴシエイター」は女性の褒め言葉にならない

それでは、この17人の高額給与を勝ち得た女性CEOたちに共通する資質とは何なんだろう?

記事によると、彼女たちは、女性が職場で最も苦手とする「給与待遇に関する交渉能力が高い女性達」であるという。

未だに「Boys' Club(男性優位社会)の大企業」の出世の階段を這い上がるには、「タフな交渉能力を発揮することを厭わない」という資質が要求される。この分析は確かに1つの要因として同意できる。私自身の過去の経験に照らし合わせてみても、女性が給与や待遇面で「タフ」となった途端に、今までその女性に好意的だった人たち(男性も女性も含めて)が、その女性に対してネガティブに見始めることが多い。

理由は「女性は自己主張せずに控えめであるべき」という古典的な社会通念がいまだにくすぶっているからである。また、それを最も気にしているのは、むしろ女性達のほうで、「Bossy(偉ぶっている)」と見られるのを避けるために、「自分を高く売るための交渉」をしない女性が多い。確かに、男性にとっての褒め言葉である「タフなネゴシエイター」という評価は、女性には中々そのまま適用されない。

非論理的な見方であるが、多くの女性達はこの心理的な葛藤と戦いながら、ビジネス社会の階段を上ろうとしており、そうした社会的圧力に屈しない女性達が、まだまだ少ないというのが現状である。

女性個人としての立場を離れれば、女性はいくらでもビジネスで「タフ」になれる

ただし、もう1つ面白い点は、自分個人に落ちてくることでなければ、女性はいくらでも「タフなネゴシエイター」になれるという点である。

多くのビジネスウーマンは、「タフな交渉(何とか交渉をまとめようとして、粘り強くお互いの着地点を見つけようとする)」を、自分の業務に関して実行している。

また、それを企業も社会もきちんと評価している。これは実に奇妙な現象で、女性としての個人的な評価と女性のビジネスにおける評価が、場合によっては別な物差しで測られ、それを社会が黙認しているというダブルスタンダードの存在である。

過去の経験-私がタフなネゴシエイターになると「生意気な女」といわれる

私自身に置き換えると、ある日本の大手企業のビジネス交渉の代理として、米国企業を相手にネゴシエイションをしたプロジェクトで、ディスカッションの場では何も言わなかったクライアントが、私の不在のディナーの席上で「あの女は何だ、生意気だ。自分で仕切ろうとしている」と発言したという例が挙げられる(彼はまさかその場にいた男性の1人がそれを私に語るとは思っても見なかったと思う)。

私はこれを後で聞かされて、「タフなネゴシエイション」を依頼されたのに、それを女性である私がやると「生意気」に見えるという、彼の感じ方が何とも言えずおかしかった。

この手の冗談みたいな話は、私の経験の中にいくらでもあるが、私のような一本独鈷のビジネスパーソンと違って、大企業の中で階段を上ろうとする女性達によって、実に悩ましい問題であると思う。

「大切な自分の能力を高く売ることは決して悪いことではない」

上の世代と異なり、若い世代の社会的通念はどんどん変化しており、男女格差はこれからいろんな場面で是正されると思う。

Diversityに関して、一言で言えば、「人間としてその人を公平に見て尊敬する」ということに集約されると思う。給与や待遇面での交渉は、例えば他との比較可能なデータを用いて、理詰めで自分自身のパフォーマンスを表現するといったやり方の工夫で、心理的な葛藤は超えられると思う。

「大切な自分の能力を高く売ることは決して悪いことではない」、これを女性達に肝に銘じて欲しい。

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