ネームバリューと化した酒鬼薔薇聖斗

発売を決めた太田出版に対する風当たりが強い。「殺人犯でもきちんと更生すれば、著書を出す姿勢がある良心的な企業」といえるが、理解を示す人は少ないと思う。
太田出版

■前代未聞、殺人犯の著書

あえて「元少年A」とは書かない。

酒鬼薔薇聖斗著の『絶歌』(太田出版刊)が週間ベストセラー(2015年6月7~13日)の第1位となった。2015年6月11日に発売され、わずか2日間で相当数売れ、社会現象と化している。前代未聞、"殺人犯の著書"をめぐり、発売を決めた太田出版(以下、版元)に対する風当たりも強い。いくら版元が力説しても、多くの国民が「"『酒鬼薔薇聖斗』という名のネームバリュー"で出版を認めた」という印象を抱く。客観的な見方をすると、「殺人犯でもきちんと更生すれば、職員として雇う、著書を出す姿勢がある良心的な企業」といえるが、理解を示す人は少ないと思う。

土師淳君の御遺族は版元に抗議し、販売の中止と回収を求めているが、本文で致命的なミスをしていない限り、対応しないと思う。裁判所に訴えるしか選択肢がないようだ。

私が恐れているのは、『絶歌』が国会図書館に入荷すること。原則として出版物のジャンルを問わないので、芸能人のヌード写真集やエロ本の閲覧も可能なのだ。永久保存同然の図書館なので、我々がこの世からいなくなっても、この本の存在が後世に語り継がれる。

念のため『絶歌』を入力して検索したところ、ヒットしなかった。

■御遺族や被害者は印税の受け取りを拒否してほしい

『絶歌』の本体価格は1,500円。版元は「売れる」と判断して、初版を超一流作家なみの10万部も刷っている。仮に発行印税の場合、基本的に初版の部数だけで印税が発生するので、早ければ8月に推定1000万円以上の利益を得る。販売が中止になっても、印税が酒鬼薔薇に支払われることに変わりない。

弁護士ドットコムニュースイザ!によると、酒鬼薔薇は印税を「賠償金」として、御遺族や被害者へ支払うという。汗水たらして働いたことにウソ偽りがないとはいえ、世間を再び騒がせたのだから、"安易に稼いだお金"の受け取りを拒否し、今後一切相手にしないのが賢明だろう。

酒鬼薔薇事件は後世に影響を与えてしまい、2015年1月に殺人容疑で逮捕された19歳女子大生もそのひとり。私は、"この事件を知らない少年少女が『絶歌』を読んで、人殺しに興味を抱くのではないか"と危惧している。

☆関連記事

注目記事