先住民の視点からアマゾンの文化を描く-- 『彷徨える河』シーロ・ゲーラ監督インタビュー

コロンビア映画として初めて米国アカデミー外国語映画賞のノミネートを果たした「彷徨える河」は、アマゾン先住民族の視点と感性にたって作られた意欲作だ。

©Ciudad Lunar Producciones

この世界には、我々にとって未知の文化がまだまだある。つい数ヶ月前にはNHKスペシャル「大アマゾン最後の秘境」で、アマゾンの森の奥深くで暮らす知られざる人々を捉えた番組が話題となっていた。

こうした未開の地の文化は、我々にとって時に新鮮に、時に珍奇に映る。それはあまりにも近代西洋文明の価値観とはかけ離れたものだからだ。近代文明の基準から彼らを見つめると、我々が失った何かを持っていると好意的に捉えられることもあれば、受け入れがたい価値観もあるだろう。良くも悪くも色眼鏡を外すことは困難なことだ。

コロンビア映画として初めて米国アカデミー外国語映画賞のノミネートを果たした「彷徨える河」は、失われた文化を持つアマゾン先住民族の視点と感性にたって作られた意欲作だ。

本作は西洋人の残した書物から多くの着想を得ながらも、フィクションの形で視点を変えて、西洋文明に生きる我々にアマゾン先住民の内的世界を体験させることに成功している。

フィクションは伝記やジャーナリズムにはできない形式で、個人の生活や内面を探求できる。フィクションだからこそできる方法で先住民の文化を活写した貴重な作品だ。

本作の監督、シーロ・ゲーラに作品の意図について語ってもらった。

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アマゾンのジャングルで先住民たちと撮影を敢行

ーーまずアマゾンの先住民、シャーマン文化といったものを彼らの視点から描くことは非常に画期的なことだと思います。なぜ彼らの視点でこの題材を撮ろうと思ったのですか。

シーロ・ゲーラ監督(以下ゲーラ):当初は、歴史、人類学といった学術的な視点から正確な映画を作りたいと思っていました。だけど、広くこの主題についてリサーチしてから、彼らと仕事をし始めた時に、こうした主題が彼らの側から語られたことがないことに気がついたんです。この視点は誰も挑戦していないだけにユニークなもになると確信しましたし、作らねばと強く思いました。

そうして時分のリサーチを振り返ってみると、歴史的視点や人類学的観点から語られた彼らのイメージは、当事者の彼らにとってはむしろ想像や夢同様のフィクションのようなものだと気づきました。

なのでこの映画をアマゾンの神話に染めあげ、一般的なストーリーテリングではなく、インディアンのお伽話のようにしようと思いました。観客にとって理解しづらいものになるだろうと覚悟していましたが、この映画を(先住民と近代文明側の人間の)架け橋にしようと思ったのです。

ーー実際にアマゾンで撮影されているのですよね。どんな苦労がありましたか。

ゲーラ:ジャングルでの撮影経験などを聞いていたので過酷な撮影になることは覚悟していました。充分に準備して撮影に臨みましたが、最も心がけたことは、撮影するにしても、我々のロジックを持ち込まず、現地の流儀に合わせようということです。

先住民のコミュニティのメンバーも参加してくれたのですが、彼らは現場で必要不可欠なキャストでもありスタッフとしてもよく働いてくれました。

撮影中は、50時間続けて雨が降ったこともありましたが、大きなアクシデントは不思議と起こりませんでした。ジャングルはむしろ撮影を手助けしてくれたように感じました。大切な瞬間をたくさん与えてくれましたし、昼食時雨が降っていたのに、一時間きっかりで止んでくれたりと何か特別なことが起こった気がしましたよ。

ーー撮影には先住民の協力が欠かせなかったということですが、どのように彼らに協力を仰いだのでしょうか。

ゲーラ:我々の意図することを彼らにきちんと説明して協力を仰ぎました。とても熱心で協力的でしたよ。出演もしてくれ、撮影も手伝ってくれましたし。ガイドもしてくれた他、スピリチュアルな意味でクルーの安全のための加護も与えてくれました。

ーー映画の内容に関して彼らはどのように感じているのでしょうか。

ゲーラ:彼らにとって、彼ら自身の言語を、しかも外国の俳優にそれを話させるというのはとても大きなことだったようです。

数年前に宣教師がやってきた時には彼らの言葉なんてしゃべらないと主張していたらしいので、映画製作者が彼らの言葉を学びたがっているのが面白かったようです。

現地の若い人たちがこの映画を見たとき、彼ら自身が彼らの文化をとても貴重なものだと思ってくれたようですし、多くの人々にとって普段目にしない文化や知識を持っているのだということを、大きな財産だと感じてくれたようです。

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欧米の観客はどう反応したか

ーーゴム採伐など西洋のしてきたことに対する批判的な側面もありますが、西洋文明を批判する意図も込めたのでしょうか。

ゲーラ:この映画が、西洋文明や植民地主義への単純な批判を超えたものになってくれるように願っています。この映画は対話への誘いであり、長い間黙殺されてきた文化への理解を開くためのものです。今日の我々の世界にとっても大切なことも、彼らから学べるはずです。この映画は架け橋であって、決して槍ではありません。

ーーこの映画を公開した、アメリカやフランスの観客はどういう反応を示したのでしょうか。彼らの感性の側にたっていない作品ですよね。

ゲーラ:映画が公開されたどこの国でも、信じられないくらい多くの共感を呼びました。オスカーにノミネートされたことで注目してくれた人が増えたのもありましが、それ以上の深い何かがあるような気がしています。今日、多くの人々がスピリチュアルなものに興味があるようですし、人間を普段とは異なる視点で見つめてみたいという思いもあるのではないでしょうか。

ーー日本にも自然崇拝の伝統がありますが、日本の観客にどんなことを感じてもらいたいですか。

ゲーラ:私は日本の文化、芸術、伝統を心から尊敬しています。特に映画の歴史は素晴らしい。だから日本の観客にこの映画を見てもらうことができて本当に光栄に思っています。観客それぞれが主観的にこの映画を体験して、その体験を別の誰かと共有してほしいと思います。

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