第二次大戦後にポーランドの修道女を救った医者の実話を基にした映画「夜明けの祈り」が8月5日より公開されている。
第二次大戦末期、ソ連兵に強姦され妊娠させられてしまったポーランドの修道女たち。信仰と妊娠が両立しえないものであるがゆえに、外に助けを求めることができない修道女たちに救いの手を差し伸べたのはフランス人のマドレーヌ・ポーリアックという医者だった。
映画は彼女の功績をベースに、宗教も国籍も違う者同士が絆で結ばれ、困難の時代を生き抜く姿を描いている。監督のアンヌ・フォンテーヌに話を聞いた。
描きたかったのは未来への希望
――この題材を映画にしようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
アンヌ・フォンテーヌ(以下フォンテーヌ):プロデューサーのエリックとニコラ・アルトメイヤーの2人から私に話がありました。テーマとして大変素晴らしく、非常に大きなパワーを感じたので映画化したいと思いました。
――マドレーヌ・ポーリアックという人物に大きな力を感じたということでしょうか。
フォンテーヌ:彼女は当時若く経験不足な医者でしたが、修道女たちが強姦され、妊娠を隠していることを知ります。あまりにもひどい出来事で、マドレーヌもショックを受けたと思うんですが、なんとかそこに留まって自分の力で助けようとすることに力を感じました。
主人公のマチルドは医者として、絶対に命を助けるという強い信念を持っています。その彼女の信念と、信仰という別の信念を持っている修道女たちが心を通い合わせていき、未来への希望を見出す。そういう一連の流れを描きたかったのです。
――未来への希望というお話がありましたが、実際のマドレーヌ・ポーリアックは事故死していますね。しかし本作の主人公は別の結末を迎えますが、この変更の意図についてお聞かせください。
フォンテーヌ:マドレーヌが若くしてポーランドで事故死してしまったことは大変痛ましいことです。しかし、私はそれをこの映画のテーマにするつもりはありませんでしたし、マドレーヌの生涯を描こくことを目的にしたわけではありません。異なる価値観を持った女性たちが連帯して希望を見つけるというのが重要なことなのです。
こうした悲劇は今も起こっている
――静寂なシーンが多く、非常に印象的でした。映像の美しさを際立たせていたように思います。
フォンテーヌ:私は静かであるということは非常に重要だと思っています。音楽だらけの映画は私はしらけてしまうんです。映画の内容はショッキングなものですが、静寂によってそれを抑制して、美しさや力強さ、精神性を強調したかったんです。
さらに言えば、修道院は元々静寂なところです。先ほども言いましたが、最近の映画は音が入りすぎているので、冒頭のシーンでも雪の上を歩く音ですとか、風の音や人物の息切れの音なども抑えめにしています。そうすることで人物の感情に入りやすかったんじゃないかと思います。
――主演にルー・ドゥ・ラージュを起用した理由をお聞かせください。
フォンテーヌ:いくつかのシーンでテストをしたのですが、彼女は若くて美しいだけでなく、固い信念を持った顔つきだと思いました。役柄が女医で、当時は女医自体が珍しかったですし、しかも戦場に行くというのは弱い人ではないですから。
――今作ではポーランドの女優がたくさん出演されていますね。
フォンテーヌ:シスターマリアを演じたアガタ・ブゼクは、アメリカ映画で見かけて印象に残っていたんです。アガタ・クレシャはポーランドでは非常に有名で「イーダ」などにも出演しています。残りの人たちはワルシャワでキャスティングしてもらいましたのですが、みんな素晴らしくてポーランドの俳優の演技力の高さに驚かされましたね。努力家で、準備も入念ですし集中力もあります。
――こうした悲劇は現代でも起きていると思います。映画を観る観客に何を感じ取ってほしいですか。
フォンテーヌ:仰るとおり、戦争のある場所ではどこでもこうした性犯罪は起こっています。この映画は70年前の出来事を描いていますが、過去のことだと言えないのです。日本の観客の皆さんにはこの出来事をショッキングなことだと受け止めてほしいし、だからこそ未来へ希望をつないだ彼女たちの行動に感動できるのです。