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2018年10月10日 14時21分 JST | 更新 21時間前

映画『バーバラと心の巨人』空想することで人は強くなれる

人はなぜ物語を欲するのか。

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

 人はなぜ物語を欲するのか。

 10月12日より公開の映画『バーバラと心の巨人』はその理由の一つを示している。

 ジョー・ケリーとケン・ニイムラによるグラフィック・ノベル『I KILL GIANTS』を原作とするこの映画は、現実で困難に直面する一人の少女の成長と心の解放を、ファンタジックに描く作品だ。

 ウサギの耳をいつも身につけているバーバラは、自分を巨人から街を守る戦士だと思っている。そんなバーバラを周囲は冷ややかな目で見ており、彼女は孤独な日々を送っている。転校生のソフィアとスクールカウンセラーモル先生だけが彼女のことを気にかけている。

 日々、巨人との戦いに備えるバーバラだが、彼女の妄想は次第にエスカレートしていく。彼女はなぜそのような空想の世界に浸るのか、それは彼女の家の二階に秘密があり、そこには彼女が真に立ち向かわねばならない現実があった。

 思春期特有の通過儀礼モチーフの物語を一風変わった形で展開し、少女の自立と心の解放を描く本作。バーバラのやっていることは単なる現実逃避なのか、それとも来るべき困難に向き合う日に向けて、力を貯めているのか。

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

 

 本作で長編映画デビューを果たしたアンダース・ウォルター監督は、2013年に製作した短編映画『HELIUM』でアカデミー短編賞を受賞しているが、同氏はこの短編映画でも不治の病におかされた少年が空想によって救いを得る話を描いている。

 とある病院で余命いくばくもない少年が入院している。彼は天国がとてもつまらないものだろうと思っている。そんな少年に病院の清掃員の男性が、死後の世界は天国だけじゃない、もっと楽しい世界「ヘリウム」もあるんだという作り話を聞かせる。その話に少年は夢中になるが、病状は悪化し、面会謝絶となってしまう。少年に物語の結末をどうしても話してやりたい清掃員の男性はなんとかして彼のもとへと辿り着こうとする。清掃員の男性は、少年に嘘を教えたことを気に病むが、担当の看護師はその嘘が彼に希望を与えたんだと慰める。形は違えど、『バーバラと心の巨人』に通じるものがある。

 なぜウォルター監督は、空想や物語についての映画を作り続けるのか。人にとってそれらはなぜ必要なのかについて語ってもらった。

 

空想力は困難を乗り越える力となる

アンダース・ウォルター監督

 

――本作も、オスカー短編賞を受賞した『HELIUM』も、空想する力が大きなポイントになっています。なぜそのような作品を多く作るのですか。

アンダース・ウォルター監督(以下ウォルター):子どもたちの想像力というのはとにかく魅力的です。私は空想力は一種の治癒だと思っています。困難な時期があっても、想像力を発揮してそれを乗り越えていく。子どもはだれでもそういう才能を持っていると思うんです。大人になるとそうした力を忘れていってしまいますが、できるだけ保つことはとても大切なことだと思います。

 私自身の子ども時代を振り返っても、やはり困難なことがあってもそうやって自分の想像力で乗り切ってきたな思うんですよね。だからそういう態度に共感するんです。それは必ずしも逃げるためではなく、そうすることによって世界を広げることもできるんだと思います。

 

――空想の世界に耽るのは現実逃避でなく、世界を広げるために大事というのはとても良い話ですね。バーバラのように、つらい現実にぶち当たって壊れてしまうくらいなら空想の世界に生きるのもありだと。

ウォルター:バーバラの場合、そうした自分の空想の世界に浸りすぎて危険な面もあります。彼女は現実と向き合えていないわけですから。私はこの作品で言いたかったのは、人生を前進させるためには、周囲に心を開いて関係を気づかなければいけないということです。ソフィアやモル先生などに心を開くことができた時、バーバラの人生は変わるのです。想像力と現実と向き合う力のバランスが大切です。

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

 

――バランスが重要、その通りだと思います。現実と立ち向かう力をつけるために一時的にファンタジーの世界に逃げるのはアリだと思いますがどう思いますか。

ウォルター:そうですね。人生を変える第一歩としてそれは必要なことだと思います。私もファンタジーの世界は好きですし、それは治療薬ですからね。

 

 

物語は現実からの一時的な避難場所

 ウォルター監督の「空想とは治癒である」という言葉がとても印象的だ。短編映画の『HELIUM』は、現実に治らない病を抱えた少年が主人公であるので、そのことが顕著に表現されている作品だった。物理的に少年を治すことはできない、しかし空想の物語で少年の心は安らかとなった。

『バーバラと心の巨人』では、一歩進めて空想の力の大切さと危うさを同時に描いている。バーバラが巨人と自分は戦っていると信じるのは、彼女にとって直視できない現実があるからなのだが、同時にその空想は彼女が現実に乗り越えなければいいけない試練のメタファーにもなっている。同時に巨人との戦いに備えるバーバラの行動は、そのまま試練を乗り越えるための力をつけることのメタファーとなる。そして、同時にその空想癖が周囲との軋轢を生み、それが危うさとして表現される。しかし、現実からの一時的な避難場所としての意義も本作は忘れていない。

 

 人と、空想や物語の関係を改めて考えさせてくれる素敵な作品だ。