米国の映画館でまた発砲事件。社会の包摂性が失われた時代の映画館の課題とは

映画館で映画を鑑賞するという行動が成り立つのは、そもそも社会全体に寛容性がなくては成り立たないのかもしれません。銃社会アメリカですら、大したボディチェックもなく映何百人が無防備な真っ暗闇の中で誰とも知れない連中と時間を共有するわけですから、他人を無条件で信頼していない限り無理なことです。

驚愕すべき事件なのだけど、この国の場合驚愕すべきじゃないのかもしれない。

米フロリダ州ウェスレーチャペルの映画館で13日午後、観客席にいた男がけん銃を発砲し、男性1人が死亡、一緒にいた女性1人が負傷した。発端は携帯電話の使用を巡る口論だったとみられる。

携帯電話の使用をめぐって口論になり、発砲したとのこと。しかし携帯電話の利用はテキストメッセージを本編上映前の予告編の時だったようです。それが発砲するほど許せないのか。。。

犯行に及んだのは、Curtis Reeves氏71歳。この日は奥さんと2人で映画を見に来ていたそう。元警官とのこと。

被害者は43歳の男性、こちらも女性とともに映画を見に来ており、男性は死亡しましたが女性の方は一命を取りとめたとのこと。

やるせない気分にしかなれない事件ですが、いくつか考えないといけないことはあります。

  • 銃規制<表現規制問題
  • 映画館のマナー問題
  • 映画館という「得体の知れない」不特定多数が暗闇に押し込められる空間をどう考えるか

■ 銃規制<表現規制問題

映画館での発砲事件はこれが初めてではありません。

2012年には12人が死亡、56人が怪我を負う大事件もありました。(これだけじゃなく過去にもいくつかあった

アサルトライフル、ショットガン、短銃を装備しており、相当な重装備ですが特になんの不都合もなく映画館に侵入し犯行に及んだこの事件。この後映画館のセキュリティを見直そうという動きもにわかに見られましたが、本格的に映画館に持ち物チェックなどを義務付けるような動きには発展していません。

ダークナイト・ライジングのプレミア上映時に起きた悲劇でしたが、これによってパリで予定されていたキャスト登壇によるプレミア試写会が急遽キャンセルになるなどの波紋を呼びました。

今回フロリダの映画館で発砲事件が起きた時の映画は実話であるネイビー・シールズ最大の参事「レッド・ウィング作戦」を描く「ローン・サバイバー」。日本でも3/21から公開予定です。

アメリカの国の変なところ(というか病的と表現しても差し支えないかもしれない)は、銃による悲劇的な事件が起きても、銃規制より表現規制の議論が大きくなりがちなこと。むしろ身の危険を感じて、銃の売り上げが一時的に挙がってしまったりします(規制が進む前に購入しておこうという消費者心理もある)。

2012年の小学校での銃乱射事件の後もいくつかの番組が打ち切りになったり、上映の延期といった措置につながっています。

今回プレミア上映の延期が決まったビリー・クリスタル主演のParental Guidanceはコメディ映画なのだが、あらすじはこのような感じ。


アーティ(ビリー・クリスタル)とダイアン(ベット・ミドラー)は仕事で街を離れる娘から三人の子供を預かってくれと頼まれ引き受けが、21世紀の現代っ子の三人の孫たちにオールドスクールな昔ながらのしつけ方法を実践しようとする2人は手を焼くという、オールドスクールVSニュースクールのギャップを描くファミリーコメディ映画。

予告編はこちら。作品のディテールまでわからないのだが、あらすじと予告編を見る限り銃乱射事件で自粛する必要のある作品とも思えない。

一見、銃と無縁の作品でもなぜか自粛や規制の対象になってしまい、肝心の銃規制の議論がなかなか進んでいません。

今回も容易に銃事件と結びつけられそうな映画の上映時に事件が起こっていますが、この事件が銃規制と表現規制にどのよう波及するのか注視する必要がありそうです。

■ 映画館のマナー問題

事の起こり性質上、表現規制のほか、映画館のマナーに対する取り締まりの強化の話もあり得るかもしれません。携帯電話利用と銃の発砲とどちらがより迷惑なのかは、議論の余地がないようにも思いますが、銃規制の議論は例によってあまり進まず、携帯電話の利用についての議論だけ進むようなことになる可能性もあるかもしれません。

携帯電話の利用については、かつては電車内では電源オフがマナーだった時もあります。それが普及とともに変化していき、今では優先席の付近以外では使用は許可されています。(ペースメーカーへの影響なしがより広く認知されればそれも変わるでしょう)

映画館も昔は喫煙可能でした。都心に多くあるミニシアターでは場内での飲食すら禁止の映画館もありました。映画館内のマナーの在り方も時代によって変わります。

現在、映画館のマナーで最もクリティカルな問題は携帯電話の利用に関してでしょう。2時間前後も携帯の電源をオフにせよ、というシチュエーションは今では映画館以外では少ないのでは。病院すら解禁するところが増えています。

今回の事件では映画本編中ではなく、予告編の最中という、議論をする上では妙に中途半端なポイントで起きています。映画館での携帯利用に関してもやはり時代に合わせて変えていく必要がやはりあるのではないでしょうか。

■ 映画館という「得体の知れない」不特定多数が暗闇に押し込められる空間をどう考えるか

映画館で映画を鑑賞するという行動が成り立つのは、そもそも社会全体に寛容性がなくては成り立たないのかもしれません。銃社会アメリカですら、大したボディチェックもなく映何百人が無防備な真っ暗闇の中で誰とも知れない連中と時間を共有するわけですから、他人を無条件で信頼していない限り無理なことです。

しかし、これぐらいの些細なことでキレる不寛容な人間が増えると不特定多数の中に(しかも暗闇に)放り込まれることに不安を感じる人が増えるでしょう。アメリカの場合、そういう体感不安の増大がますます銃への依存を強めるような結果にもなります。ということは映画館に銃を持ち込むことを規制できないのかもしれない。そうすると不安がますます増大する悪循環が起こります。

社会の包摂性が失われつつあるのかもしれない、とネットでの炎上事件などを見ているとつい思うことがあります。よくわからん謎の理由でキレる人がリアルでも増えれば、不特定多数と時間と場所を共有することを怖がる人も増えるでしょう。映画館ってよく考えれば怖いところかもしれません。僕らは何の根拠もなく、暗闇の中で他者を時間を共有して、外と隔絶されてるわけですし。

包摂性が世の中から失われれば、体感不安が増えるのは自明なので、それだけで映画館の興行にダメージが大きいと思われます。ならば映画館は今後安全対策を強化しなければいけなくなるでしょう。映画館が安心・安全な場所というイメージ作りも重要になります。

日本ではあまり映画館で事件が起きることはありませんが、昨年アニメ映画の舞台挨拶中にバールを持った男が壇上に上がる事件はありました。中央通路から堂々と上がっていったようですが、映画館側のセキュリティ意識が問われる事件だったと思います。

映画館がこの先生き残るにはこうしたセキュリティ不安にもしっかりと目を向ける必要があるでしょう。アメリカの場合は金属探知機くらい設置しないともうダメなんじゃないでしょうか。体感不安の増大に対する処方箋は、監視強化などの対策ぐらいしか有効策が、社会全体を見ても無いんですよね。これは本当に難しい問題です。

何にせよ、こういう事件はもうたくさんです。。。

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