スペースの概念を覆す最新シェアリングサービス「スペースマーケット」、生み出したのは大企業出身者たちだった!!

それまでの常識を打ち破るようなサービスを生み出すとき、"若さ"が持つ勢いや情熱は、重要な要素なのかもしれない。しかし今、創業者自ら"大人ベンチャー"と呼ぶ企業が、スペースの価値観を変えるサービスで注目を集めている。

ベンチャーに必要なのは、"若さ"か、それとも"経験"か−−。例えば、アップル、フェイスブック、マイクロソフトといった世界的大企業を創業したのは、ハタチそこそこの青年だった。スティーブ・ジョブズは21歳、マーク・ザッカーバーグは19歳、ビル・ゲイツも19歳。それまでの常識を打ち破るようなサービスを生み出すとき、"若さ"が持つ勢いや情熱は、重要な要素なのかもしれない。

しかし今、創業者自ら"大人ベンチャー"と呼ぶ企業が、スペースの価値観を変えるサービスで注目を集めている。株式会社スペースマーケットだ。世界中のさまざまな「場所」の貸したい人と借りたい人をマッチングするマーケットプレイス「スペースマーケット」を運営する同社は、創業からわずか1年の間に、「IVS Launch Pad 2014 spring」準優勝、「B dash camp ピッチアリーナ 2014」優勝、「RISING EXPO 2014 in Japan」グランプリなど数々の賞を受賞。紹介するスペースの数も、現在では3000箇所を超えるまでに成長した。

創業者の重松大輔さんがスペースマーケットを起業したのは、37歳のとき。大手企業での勤務を経てからの挑戦だった。メンバーも、大企業を経てジョインした人が多く、メンバーが若い企業とは言い難い。しかし革新的なサービスの背景には、若いメンバーだけのベンチャーにはない、いくつかの強みが隠されていた。今回は重松さんと、2015年4月にヤフー株式会社からスペースマーケットにジョインした貝塚健さんへのインタビューから、大人ベンチャーの"色気"に迫る。

(写真左)貝塚健氏。2006年にヤフー株式会社に入社。Yahoo!ファイナンスで新規サービスの立ち上げ、Yahoo!ブログでサービスマネージャー、Yahoo!不動産ではプロダクション部長として、不動産メディアの立ち上げを経験。2015年4月からスペースマーケットに参画。(写真右)重松大輔氏。1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。 2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。 2006年、株式会社フォトクリエイトに参画。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。

大企業を辞めてスタートアップに来る人は、ドMな人が多い

-スペースマーケットは、ひとことで言うとどのようなサービスなのでしょうか。

重松:「ユニークなスペースを貸し借りできるマーケットプレイス」が、スペースマーケットです。例えば会議室だけではなく、オーナーが使っていない時間の古民家を活用して、企業にミーティングスペースとして使ってもらったり、野球場が使われていない日を利用して、企業が株主総会を行ったり。単純にスペースの貸し借りの場を提供しているだけでなく、スペースの新しい価値や体験を訴求しています。

-2014年に創業したスペースマーケットですが、現在は何人のメンバーがいるのでしょうか。

重松:現在は15人。たまたまですけど、大企業出身の人が多いですね。GREE、ヤフー、JTB、トランスコスモス、マクロミル、楽天、CAモバイルなどです。Amazonジャパンのプロジェクトマネージャーだった人もいて、彼はAmazonジャパンの事業部が5人のときから200人になるまで成長をずっと見てきました。彼のような、大企業に所属していながら大企業に染まりすぎていない、ベンチャー耐性のある人を採用しています。

-みなさんなぜ、大企業の社員という安定した地位を捨てて、スタートアップにジョインを?

重松:僕もそうでしたけど、そういう人って、仕組みを作るのが好きなんですよ。仕組みができたら、また一から作りたくなる。スタートアップは中毒性のある病気なんでね。

貝塚:たしかに、大企業を辞めてスタートアップに来る人は、ドMな人が多いでしょうね。一般的に大きな会社にいたほうが、楽して給料がもらえると思っている人も多いと思います。でも、逆に守りに入りすぎて失敗することだってありますよね。ですから僕は、せっかくなら守りに入るのではなく、挑戦したいと思ったんです。

ヤフーの部長職を捨てて、ベンチャーへジョイン

-具体的に、メンバーの方が大企業からスペースマーケットにジョインしてきた経緯や動機が気になるところです。そこで、ヤフーからスペースマーケットにジョインした貝塚さんにお話を伺いたいのですが、貝塚さんはスペースマーケットに入られて、どのようなお仕事をされているのですか?

貝塚:はい。僕はWebディレクターとして、Google AnalyticsやSalesforceを使って分析しながら、Webサイトを運営するのがメインです。加えて、アプリやオウンドメディアといったWebと関連する業務もやっています。

-なるほど。それでは、貝塚さんがヤフーからスペースマーケットへ移った理由を教えてもらえますか?

貝塚:大きく3つあります。ひとつは1年前くらいからベンチャーに行きたいなと思っていたこと。それとシェアリングエコノミーに興味があったこと。そしてスペースマーケットの創業メンバーであり、CTOの鈴木真一郎(ヤフー株式会社出身)とまた一緒に仕事できるなら、と思ったことですね。

-ベンチャーのどんなところに魅力を感じたのですか?

貝塚:経営と現場の距離が近いところですかね。人数が少ないので、物理的に近いのは当たり前なんですけど、「すぐ話して、すぐ決めて、すぐやれる」っていうところが魅力でした。また、シェアリングエコノミーについては、「今後成長していく分野だろう」ということと、「日本は建物を作りすぎていて、もったいないな」と常々感じていたんですよね。それで、このスペースマーケットのビジネスモデルは、「自分のやりたいことができる、すごいサービスだな」と思っていました。

-では、ジョインのきっかけになったというCTOの鈴木さんとは、ヤフーではどのようなご関係だったのですか?

貝塚:僕は10年ほどヤフーにいたのですが、そのうち2年くらい、隣の席で一緒に仕事をしていました。僕が転職先のベンチャーをいろいろ探しているときに、彼と再会して。すごく尊敬している人だったので、ジョインしてもいいかなと思って決めました。話してみると、他のスペースマーケットのメンバーも、相当レベルが高い人たちばかりなんですよね。そういう人たちと仕事ができるというのも、大きな魅力でした。

我々は、"大人ベンチャー"。若気の至りで作った会社ではない。

-会社側の視点でいうと、貝塚さんのような大企業でキャリアを積んできた方を採用するのには、なにか戦略が?

重松:そうですね。意図的に、自分とはまったく違う得意分野を持つプロフェッショナルと組もうと思いました。僕は開発できないし、開発のチームも作れない。その代わり、人の前に出て話したり、セールスのチームを作ったりすることはできる。「お互い何らかの分野でプロフェッショナルである人間が、それぞれ得意分野をやればいいじゃん」って思っていました。メンバー同士はべったりと付き合っている程仲がいいわけでもないし、そんなに頻繁に飲みに行ったりもしない。その代わり、お互いのプロフェッショナリズムを尊敬しあっている。そのほうが、友達同士でビジネスをするよりも緊張感があっていいんですよ。歴史的にも、そういう組織は強い。

-メンバーが若いベンチャーのなかには、公私ともに親密で、和気あいあいと仕事をしているところもありますね。スペースマーケットではそうではなくて、プロフェッショナル同士が緊張感を持って仕事をするような組織にしていると。

重松:はい。我々は、"大人ベンチャー"なんですよ(笑)。貝塚さんも僕も、今年40歳になりますから、もういい大人なんで、今から失敗もできませんからね。若気の至りで作った会社ではないんです。

-"大人ベンチャー"の強みは、そうした「プロフェッショナル同士が緊張感を持って仕事ができる」こと以外には、どんなものが?

重松:やはり経験ですね。ビジネスの作り込みや採用、会社を作る順番とか、拡大の仕方とか。私の場合は前職のフォトクリエイトが十数人から上場するまでを見てきたので、会社が段階ごとに直面する課題もわかっていますし、採用という点でいうと、「入社前から役職にこだわりすぎる方は優秀な方でも採用を見送ったほうがよい」「会社の理念に共感した人材を採用すべき」というような"人の見方"を経営陣から教わり、肌でわかった上でやっている。だから、志に共感して一緒にやってくれる優秀なメンバーを集めれば、たとえば仮に寿司屋を開いたとしても、勝てるという自信があります。その自信は、やはり経験からくるものですね。

また、セールスサイドの話だと、大企業のロジックがわかっているので、大企業とアライアンスを組むときの仕事のやり方がわかるところでしょうね。法人営業がスムーズに行くんです。

貝塚:大企業がなんで大企業になっているかというと、過去に成功したからなんですよね。成功体験がある。個人がそうした成功体験を知っているか知らないかっていうのは、やはり違うんじゃないかなと。

子供3人、背負うものが違う。でも、チャレンジしないといけない。

-ベンチャーとしては、たしかに大企業出身者の経験やノウハウは価値がありそうです。しかし個人としては、やはり成功体験を数多く経験でき、なおかつ安定している大企業のほうが、働く場として魅力的なのではないでしょうか?

貝塚:今ではシャープのような大企業でも人員削減しているわけじゃないですか。その点からもわかるように、今の時代、大企業が安定かって言われるとそうじゃない。僕はもうすぐ40歳で、定年まで考えると少なくともあと20年は頑張らないといけない。そう考えたときに、ずっと大企業に居続けることがリスク回避になるとは思わないんですよね。

-なるほど。とはいえ年齢を重ねると、家庭のことも省みなければならなくなることもありますし、「大企業からベンチャーへ」というのはひとつのチャレンジなのでは?

重松:そうですね、僕も3人子供がいますし、背負うものが違いますから、守りに入りたくなる気持ちもあります。でも、チャレンジしている人と付き合っていると、チャレンジが当たり前になってくるんですよ。孫さんとか見ていると、乱暴な言い方をすれば、狂ってるじゃないですか。「まだ攻めるの?」って思いますよね(笑)。あぁいう人たちを見ちゃうと、チャレンジしないといけないと思います。

-それでは、もし今、新卒に戻れたら、初めからベンチャーに行きますか?それとも大企業からスタートしますか?

重松:難しいですけど、僕は何かしらスモールビジネスをやりながら、副業OKな企業で働くんじゃないですかね。

貝塚:たしかに。いきなりベンチャーに放り込まれても大丈夫なスキルを持っているなら、迷わずベンチャーに行きますけど、そうでないのであれば最初からベンチャーは難しい。まずは大企業で勉強してからだと思います。

-それでは最後に、今後のビジョンを教えてください。

貝塚:スペースマーケット発で、シェアリングエコノミーを日本の文化にしていくことが目標ですね。まだまだサービスとしてもこれからだと思いますので、良いものを作って、たくさんの人に使ってもらい、お金を生み出していくというところを、愚直にやっていきたいと思っています。

重松:シェアリングエコノミーはまだ始まったばかりなので、認知を広げてビジネスを育てていくことが目標ですね。シェアリングの本質はコミュニケーション。つまり「貸し借りによって、感謝し感謝されて、みんなが楽しい」っていうところだと思います。そういう新しいカルチャーを広げていきたいです。

(2015年6月16日「HRナビ」より転載)

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