学生起業家たちが語る創業期「正面からぶつかっても勝てない相手が競合に...」

イベント「ベンチャーという働き方、起業という働き方」で、いま注目されている学生起業家と新卒社長が登壇し、創業初期の経験を語り合った。

大学生のうちにスタートアップを立ち上げる学生起業家がいる。まだ社会に出る前から事業を育て上げるにはさまざまな努力と工夫が必要だろう。ドリコム主催のイベント「ベンチャーという働き方、起業という働き方」で、いま注目されている学生起業家と新卒社長が登壇し、創業初期の経験を語り合った。

登壇者は出前代行アプリを運営するdelyのCEO・堀江裕介さん、漫画サービスを展開するStone FreeのCEO・石黒燦さん、音楽ストリーミングアプリ「DropMusic」を提供するIgnom代表取締役・吉田優華子さんの3人だ。

特に起業を志す学生や、若手の起業家は必見の内容だろう。例えば、なぜ彼らは若くして創業という道を選んだのだろうかーー。

返ってきたのはこんな答えだ。

delyの堀江さんは特にビジョンがあったわけではなく、「とりあえずやるか、みたいな感じで始めちゃった」と話す。現在は比較的資金調達がしやすい状況にあることから、「やるなら良いタイミング」と判断し、踏み出したそうだ。今年の4月にサービスを立ち上げ、都内でケータリングを提供。すでに合計4社から資金を入れて運営している。

出前の代行というサービスを選択した理由については、「まず自分ができることは何か。僕は頭も良くないし、プログラミングができるわけではなかった。営業くらいしかやることがないなと。営業が上手く活用できるモデルというと、それは飲食店ではないか。自分にできることをやろうと思った結果ですね」と振り返る。

Stone Freeの石黒さんはなんと中学・高校時代から貿易業者としてビジネスを経験していた。ただし、徐々に飽きていったのだという。

「海外から安く仕入れて、日本に卸していろいろなところで売るっていう繰り返しで、ただ口座のお金が増えていくだけで面白みがない。どうせやるんだったら大きなことをやりたいと考えていて、だったらもうベンチャーやるしかないなと、創業しました」。

まだ20歳で大学1年生だが、「早いタイミングで挑戦した方が、時間をかけていろいろなことを吸収していける」と考えたそうだ。現在はオリジナル漫画を世界に向けて無料配信するサービスを開発している最中だ。

吉田さんは前の2人とは異なり、ドリコムに新卒で入社した後に子会社のIgnom代表に就任した。やはり起業したいという気持ちはかなり前、なんと小学校6年生の時から持っていたという。

父親から「女性なら自立してかっこよく生きろよ」と言われ続け、さらに2人いる兄にも負けたくないと思ってたことから、自然と起業を考えるようになった。大学時代には一度、「超ダサい会社を起業して潰した経験があった」のだそうだ。

2013年の新卒でドリコムに入社し、現在は社会人2年目。1年目にソーシャルゲームのディレクターとなり、2014年4月からIgnomの代表に就任した。代表に選ばれたときは、即答で「はい、やります」と応じたが、あまりに早い回答だったため「もうちょっと考えてきていいよ」と止められたくらいだという。DropMusicはすでに500万ダウンロードを突破している。

いちスタッフとして働くことと、起業するのとでは、実際にどんなところが異なるのだろうか。堀江さんは企業のインターン時代のことを思い出して、「とりあえず認められることは簡単だった。人の10倍くらい働く時間を増やして頑張れば、認められる」と言い切った。

しかし起業は違ったという。「いくら頑張っても、あれ? これ無理じゃねえか? みたいなことが無限にあった。僕らの競合はすべて上場してる会社なので、資本力の差は単純に努力だけじゃ埋められない。インターンの時はまだ社会の仕組みみたいなのがまだ見えてなかったと思います」と話した。

さらに「楽しさと大変さを比率で表すならば、僕の場合は楽しさ1、苦しさ9くらいです」と続ける。「正直なところほぼ辛いです。ほぼ辛いけど、それは顔に出してはいけないので、なるべく出さないように頑張る。創業前は2ヶ月開発が遅れて、飲食店に2ヶ月間ずっと謝るっていうのを1人でやっていました。あの時は本当に死ぬほど苦しかったですし、やっぱり9割苦しいですね」と笑った。

逆に起業したからこその楽しさという面はどうか。石黒さんは漫画・アニメのサービスを作っているため、そういったコンテンツが生まれる場に立ち会えることが一番の面白さだという。

「例えばいままでは中国に漫画家がいるって全然知らなかったですが、本当にすごい人が発掘できた。なおかつ彼らとパートナーシップを結んで、海外に配信していけるような場を作れるというのは、自分にとってはかなり楽しい」と活き活きと語った。

吉田さんは「良い意味で一息つく暇がない」。まずスピード感の違いに圧倒されたという。「私が社長になったのが4月で、早速5月には日本レコード協会から呼び出された。日本の音楽業界をまったく知らないうちに代表になったので、まずは音楽業界の仕組みを学ぶところから始まったんです。でも、これから新しいデジタルミュージックを広げていくために、日々いろいろな方に会ってお話をさせていただいてるというのは、大変でもあり楽しい」と話す。

吉田さんは業界関係者だけでなく、DropMusicユーザーの中心世代である10代とも積極的に交流するようにしているそうだ。「大切にしてることはユーザー目線です。私は今24歳。10代の今どきの女の子と感覚そんな変わってないだろうなって思ってたんですけど、実際に週末は渋谷に入り浸って10代の女の子と話したりしてると、全然アプリに対する価値観とかが違ってました。私はもうオバサンなんだなって自覚しました」と話す。

さらになるべくユーザー世代の生の声を聞くために、電車の中で10代女子の後ろにぴったりくっついてどんなアプリを使っているかチェックしたり、クラブで知り合った10代の女の子とLINEを交換して、後日に直接会って話を聞いたりしているそうだ。

堀江さんはとても興味深いエピソードを披露してくれた。堀江さんがあるイベントでdelyのプレゼンをしたところ、「緑のメッセージアプリの会社」の社長に高く評価された。その結果、delyの名前も売れ始めたのだが、なんとその3ヶ月後にそのメッセージアプリの会社が類似サービスを発表したのだそうだ。

堀江さん、そのときの心境は「うわー! まじかよ」という感じだったそうだ。しかし「実際ぶん殴りあっちゃいけない相手っていうのはいて、正面からベンチャーがぶつかっても勝てない」と振り返る。

おそらくそのプレゼンイベントはSKYLAND VENTURESというベンチャーキャピタルが主催した「STARTUP SCHOOL」だろう。緑のメッセージアプリの会社は言うまでもなくLINE株式会社だ。STARTUP SCHOOLで審査員を務めたLINEの森川亮社長は自身のブログの中ではっきりと「私はこの中で特にdelyというケータリングのサービスをベストプレゼンテーション賞に選ばせていただきました」「代表の堀江さんはまだ慶応大学の学生ということで楽しみですね」とまで記している。

そしてその4ヶ月後にLINEは事業戦略発表イベント「LINE CONFERENCE TOKYO 2014」を開催し、フードデリバリーサービス「LINE WOW」を発表した。明らかにdelyと競合する分野だ。

堀江さんはこう語る。「本当に自分たちが強いところと弱いところをしっかり把握して、勝てる市場をしっかり探していかないといけない。その判断を間違わないように。緑の会社にもなるべく喧嘩を売らないように、どうやったら一気に抜いていけるか。そういうことを考えつつ戦ってる感じですね」。非常に冷静である。

今まさに0から1を立ち上げようとしているスタートアップにおいて、求められる社長の役割とはどういったものだろうか。

石黒さんは「基本的にどんなことでもやらなきゃいけない」と話した。仲間が最もパフォーマンスを発揮しやすいように、考えられることはすべて自分の仕事になるのだという。吉田さんは「皆の足並みを揃えるところを意識しました」と振り返った。熱意はあっても方向性が揃ってなかったため、まず企業理念を明文化し、それを繰り返し言い聞かせたそうだ。最初の1、2ヶ月ってほとんどそれしかしてないくらいだという。

堀江さんはかなり具体的で、「最初の頃、僕の役割はモスバーガーと、あとコンビニで何か買ってくることだった」と言う。「皆コードを書いてたので、僕はやることがなかったんです。だからモスバーガーで買ってきてました。で、皆が喜んでくれれば良いかなって。だから僕はCMOですね、チーフ・モスバーガー・オフィサー」。

冬になって、いまはおでんを買うことが多いそうだ。「COOになりがちです。僕はあまり頭良くないので、あとはトイレ掃除やらせていただいてます」と笑った。

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