YOSHIKI、テクノロジーやブランディング術を語る「なんで世界進出しないの?」

IT業界のキーパーソンが集結する「新経済サミット」にX JAPANのYOSHIKI氏が登場し、会場を大いに沸かせました。

IT業界のキーパーソンが集結する「新経済サミット」にX JAPANのYOSHIKI氏が登場し、会場を大いに沸かせました。クリエーターとして、プロデューサーとしても「成功者」であるYOSHIKI氏ならではのテクノロジーに対する視点と提言、メンタルモチベーションや英語習得の重要性といったメッセージの数々は、ビジネスパーソン必見の内容です。

全編英語で進んだセッションのテーマは「グローバルに戦うこと」。聞き手は、YOSHIKIと親交がある前駐日米国大使ジョン・ルース氏が務めました。セッションの主な内容をまとめました。

ルース:まずは、今回のサミットでも多く語られている技術のトレンドについてお聞きします。テクノロジーによってすべての業界が変わってきていますよね。医療に輸送分野、教育、農業、金融サービス......そして音楽業界も。テクノロジーが音楽業界に与えるインパクトをどうお考えですか。

YOSHIKI:音楽産業は今のところ決してハッピーではありません。この50~60年程でLPからCD、ダウンロード、そして今は、SpotifyやGoogle Play Musicといった企業による配信サービスが盛んになりつつあります。将来、ストリーミングがスタンダードになっていくのは間違いないでしょう。一方で、現段階ではストリーミングだけでは十分な収益を得ることができていません。

そこで、私はこう考えているんです。ISPが今までよりも少しばかり多くお金を多く徴収し、その利益の一部をコンテンツホルダーに割り当てるようなモデルができないかと。これは音楽業界だけではなく映像を始めとする他分野も言えることです。税金を徴収するという形ではなく、将来に対する投資として考えることができるのではないでしょうか。

いろいろな人の貢献がなければ、音楽というのは生き残ることができないですからね。もちろんビジネスではあるわけですけれど、私たちはクリエイティブな文化、芸術というものを追及しているわけですから。

ルース:YOSHIKIはミュージシャンであり、作曲家であり、プロデューサーであり、起業家でもあるわけですが、どのように個人戦略を考えているのですか?

YOSHIKI:自分にとって一番重要なのはやはり音楽です。そのための自分なりのブランドづくりが大切だと思っています。今のところなんとか成功しているわけですが、やはり時間はかかります。ハローキティとのコラボである「Yoshikitty(ヨシキティ)」もその一つですが、「YOSHIKI」というキャラクターのブランドを作り上げているわけです。

ルース:あなたはもはやグローバルブランドですよね。ハローキティのように自身のクレジットカードもあるし、(プロデュースする)レースカーもある。実にいろいろなことをやっていて、ブランドづくりで成功している。多くの起業家やビジネスマンは、グローバルブランドづくりのノウハウに関心を持っています。

YOSHIKI:ブランディングは音楽業界のみならず企業にとっても重要なことです。私は常に全体像を見るようにしています。細部に目を向け、今だけではなく"少し先"を考えています。ただ5年先までを見ることはできない。そこまで先だとすっかり変化していると思いますから。

もう一つ言えることは、ブランドづくりはブランドづくりとして、実際には音楽では"音楽"が必要ですし、コンピューター産業であれば"プロダクト"がなくてはならないわけですから、そこが重要。優先順位としてはそちらが先です。

ルース:YOSHIKI のブランドづくりはどのように学んだのですか? 専門家のアドバイスなどありましたか?

YOSHIKI:ハローキティが一つの例になると思います。20年以上LAに在住していて感じるのは、アニメーションにしろ、料理にしろ、多くの日本の名が知られているということです。寿司やハローキティなどすでに世界で認められている日本の文化が数々あるわけですから、そういったものから(ブランドづくりの)戦略を学ぶことが出来ると思います。

ルース:あなたはすでに20年近くアメリカで生活していますが、日本ではその前からすでにスーパースターでした。エンターテインメント業だけではなく多くの起業家たちにも言えることだと思うのですが、すでに国内で成功していて、なぜあえて困難な道、グローバル進出を進めるのか。とても興味があるところです。

米ABCニュースのインタビューを見たのですが、『どうしてアメリカに来たのか』との問いに、あなたは『なぜしないの?(Why not?)』と答えていました。私はその答えが大変気に入ったのですが、ここで改めて、なぜアメリカへ渡ったのか、もう少し詳しく聞かせていただけませんか。

YOSHIKI:Why not?(笑) 本当にタフでなければ、そして、切望しなければ手に入らないと思います。アメリカに渡った当初は、果たしてここで生き残れるだろうかと思いましたし、ある意味テストでもありました。

海外で受け入れてもらえるのだろうかという思いはありましたが、だからと言って自分の音楽が劣っているとは思っていなかった。ひょっとしたら成功するかもしれない。そして、「必ずうまくいく」と自分に呪文をかけているようなものでした。実際そこまで自分が強い人間だったのかはわかりませんが、もう一人の自分を作りだすために"タフなYOSHIKI"を強くイメージしていました。20年前は英語もそれほどできませんでしたし、かなり大変でした。

ルース:最初のチャレンジは何でしたか。やはり英語?

YOSHIKI:そうですね、英語はやはり大変でしたね。でもどうでしょう......。作曲の場合、1日10時間、あるいは20時間の作業を一週間通しでやったとしても何も生まれないこともあります。しかし、"学習"に毎日10時間かけたとしたらどうでしょうか。何かしらの進歩はありますよね。そう捉えると、曲作りよりも英語学習は簡単だと思いました。

ルース:この会場の起業家のみなさんも他国進出へのチャレンジに関心があると思うのでお聞きしますが、あなたは、どうやって外国文化に適合しているのでしょうか。その時々で何か調整しているのでしょうか。

YOSHIKI:答えはYESともNOとも言えます。日本のアーティストたちが欧米に進出しようとするとき、その国のアーティストになろうとしがちです。もちろん文化を学ぼうとするのは大切ですが、本質的なところを変える必要はないと思っています。

私は日本人としてアメリカに渡りましたが、同時に文化を学びに来たんです。だからこそ聖書も読みました。いまだにヨーロッパの文化、中国の文化を会得したいのでまだ学習は続いていますが、だからといって自分を変える必要はありません。

ルース:今振り返って英語学習というのはどれくらい重要性があったのでしょうか。楽天でも三木谷さんが英語を会社の公用語にしましたけれど、ここにいる起業家のみなさんにとって英語は重要だと思いますか?

YOSHIKI:エピソードを一つお話しましょう。アメリカに渡った当初、レコーディングでトラッキング作業を行っていた時のことです。自分では「これは非常にいい出来だ」と思ったものを、エンジニア担当者が消してしまったんです。当時の自分には(やりとりをする)英語力が十分でなかった。そこで「ああ英語を勉強しなければ......」と真剣に思いました。私は音楽を作り出すことを生業としていますけれど、英語に関して言えば2、3年学習すれば習得できるものだと思っています。

ルース:このサミットでは、若手に対してリスクを恐れるなというメッセージも多く語られています。これまでに失敗があったかがわかりませんが、プロとして難しい局面を迎えたときはあったと思います。どのように克服してきたのでしょうか。

YOSHIKI:失敗......ですか。なかなか興味深い単語ですよね。そもそも失敗をどう見るか。誰でも失敗はします。しかし失敗の定義はなんなのかということだと思います。まだ失敗をしたことはないと感じている方が、この先の人生、最後の最後に失敗するかもしれない。

ただ失敗は失敗で終わるものではなく、裏を返せばチャンスであり、自らエネルギーを吹き込むきっかけになるかもしれません。私も何度も失敗しましたが、そこで終わらなかった。ローマは一日してならずという言葉がありますが、私自身、アメリカに20年いて、まだまだやらなければならないことがたくさんある。私は過大評価されていると思います。そんなにスーパースターではありませんよ。

ルース:新しい境地を見据えてまだまだチャンスを掴もうと自分の背中を押していますか?

YOSHIKI:もちろんです。いろんな技術も駆使をしようと思っています。新経済サミットのいくつかのセッションをストリーミングで少し見ていましたけれど、モノのインターネット(Internet of Things : IoT)という言葉がたくさん出てきていて、関心を持ちました。30年後、世界が大きく様変わりをしていて、AIを持った作曲家が私のライバルになっているかもしれません。

ルース:そういえば、三木谷さんとも話していて、YOSHIKIさんがロボットに取って代わられる時代が来るかどうか、聞いて欲しいとおっしゃっていました。

YOSHIKI:私も三木谷さんと昨晩一緒にワインを飲んでいたんですが、そこにロボットがやってきたんですよ。三木谷さん会場にいたらぜひステージに!

と、ここで、会場にいた楽天の三木谷氏が壇上からの呼びかけに応じて登壇。YOSHIKI氏からの「二日酔い大丈夫ですか?」との冗談交じりの問いかけや、ルース氏からの「YOSHIKIと三木谷さんがここで一緒に謡うのはどうでしょう」などユーモアを交えた会話が続き会場がさらに盛り上がってきたところでセッションクローズの時間が迫り、ルース氏が最後を次のように締めくくった。

ルース:私は大使を務めている間、日本国内各地を訪問させていただきました。そして、日本はもっとスポーツ選手やエンターテイナーと同様に起業家を称えるべきだと伝え続けてきた。

ここには今、日本の起業家のひとりとして大きな成功を収めた三木谷さんがいらっしゃる。そして、もうひとりのスーパースターYOSHIKIも一緒だ。会場のみなさんには、「みなさんも将来この場に立てるんだ」ということをお伝えしておきたい。2人がやってきたように、夢を追い、邁進し、リスクをとりながらも失敗から学び、そして、グローバルへと視点を広げてさらに進んでいく。そうすればきっとYOSHIKIや三木谷さんと同じ場所にきっと立つことができるはずです。

(2015年4月16日「HRナビ」より転載)

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