トルコ:トルコ史上最悪の炭鉱事故で裁判が始まる 炭鉱運営会社の関係者が訴追されるも、政府責任の捜査も必要

トルコ史上最悪の炭鉱事故をめぐる裁判が2015年4月13日に開始される。これは被害者にとって裁きを実現する第一歩となると、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
2014 Reuters

ソマ裁判は、被害者に一定の補償を行う機会ではある。が、炭鉱の作業員を保護する義務を怠った政府責任を追及するものではない。今後トルコ政府が、予防可能な炭鉱事故を再発させることがないようにするためには、政府責任を追及し改善しなくてはならない。

(イスタンブール) トルコ史上最悪の炭鉱事故をめぐる裁判が2015年4月13日に開始される。これは被害者にとって裁きを実現する第一歩となると、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。しかし一方で、政府は労働者の生存権を保障する責任をまっとうしておらず、事故の完全なアカウンタビリティ実現に向け、政府責任の追及が求められる。

2014年5月13日にトルコ西部ソマのエイネズ炭鉱で起きた爆発事故をめぐり、炭鉱運営会社ソマ・クムル社の会長と44人の社員および技師が訴追されている。この事故で301人の作業員が一酸化炭素中毒で死亡、少なくとも162人が負傷した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、多数の生存者および遺族に聞き取り調査を実施。その多くが、当該炭鉱での安全管理および労働環境をめぐり、政府の効果的監視体制がないことに懸念を示していた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのトルコ担当調査員エマ・シンクレア=ウェブは、「ソマ裁判は、被害者に一定の補償を行う機会ではある。が、炭鉱の作業員を保護する義務を怠った政府責任を追及するものではない」と指摘する。「今後トルコ政府が、予防可能な炭鉱事故を再発させることがないようにするためには、政府責任を追及し改善しなくてはならない。」

炭鉱事故の刑事捜査では、労働条件が危険であったこと及びインフラが不適切であったことを示す有力証拠が発見された。検察は炭鉱運営会社が、可燃性ガスの充満レベルとそれに伴う温度の上昇というはっきりとした警告サインを知らされていながら、明らかにそれを無視していた事実を発見。これらが結果として作業員の犠牲につながった。

ソマ・エイネズ炭鉱の作業員および遺族はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、今回の大事故に至るまでの労働条件について詳述。骨抜き検査が日常化していたことや、健康・安全基準の無視、そして多数の作業員に不十分なインフラ・装備・物資しか与えられていなかった点を指摘した。証言者たちは繰り返し、会社側が産炭を最大限にすることに集中し、安全対策は明らかに二の次になっていたと話す。

退職したある元作業員は事故で息子を亡くした。「エルドアン首相はこうした炭鉱事故は起こるもので、そういう仕事なのだと言います。でも、私たちにはそんな風に思えません。これは虐殺だ。予防できたはずの事故で政府は保身に回っているのです。」

Akhisar Heavy Penal Courtの裁判では、起訴内容に「相当故意の殺人(killing with probable intent)」から「刑事過失致死(criminally negligent manslaughter)」「構造的殺人(constructive manslaughter)」まで含まれる。被告は操業責任者たちや鉱山技師、そして会長などで、うち8人は公判前から勾留されている。

担当検事はこの事故に関して、専門家に対し詳細な鑑定を依頼。これがソマ・クムル社の関係者訴追の根拠となった。同報告書はまた、監視権限を持つ国の検査官および機関も監督義務をたびたび怠ったと指摘し、事故の責任を負っているとしている。

しかし、労働社会保障省とエネルギー天然資源省は、各省関係者に対する刑事捜査の実施許可を与えなかった。国家公務員が職務遂行の過程で犯した犯罪の捜査には行政許可が必要、と定めた国内法を根拠にして捜査を阻止したかたちだ。

前出のシンクレア=ウェブ調査員は、「行政許可に関する古くて議論の多い法律を行使して、国家公務員の犯罪行為に対する検察の捜査を政府が阻止できるという現状は大きな問題だ」と指摘する。「欧州裁判所はこれまで、公務員による犯罪の不処罰につながるとして懸念を示し、トルコにこの法律を廃止するよう要請してきた。」

ソマの大事故で、トルコにおける鉱山業などの有害危険な産業で、劣悪で違法な労働条件が横行している実態に注目が集まった。トルコ南部エルメネクの炭鉱事故でも2014年8月、18人の作業員が犠牲になっており、工事現場での死亡事故も頻繁に起きている。ユーロスタットとトルコ社会保障機関による2011年度のデータをまとめた最新の公式統計によると、トルコにおける労災事故の死亡者数は100万人につき15.4人と、EU28カ国の2.6人を大幅に上回った。そのうちかなりの割合を炭鉱事故における死亡者数が占めている。

鉱業に関連するトルコの法令は、健康・安全基準を規定しており、各省や機関に対し定期検査および監督の義務を課すものだ。が、労働者保護規準が実際には施行されていないという衝撃的な実態が、ソマの大事故で浮き彫りになった。

前出のシンクレア=ウェブ調査員は、「鉱業をはじめとする有害危険な労働の場合、職場の健康と安全を維持するという政府の義務は、生存権問題に直結する」と指摘する。「さればこそ、ソマの大事故の捜査を行い、責任ある国家公務員の罪を問うことが重要なのである。」

調査の詳細は以下をご覧下さい。

(2015年4月13日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)

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