早期退職金1000万円で独立とはどういうことか

中高年が独立する時、いったいいくらあればいいのか。具体的には1000万円という金額が、僕にとってどういう金額だったのか。

42才で18年勤めた会社を辞めたとき、会社は早期退職金割増の制度があって、僕も1000万円ぐらいの退職金をいただいた。

その制度ができる前はお金がないから独立に踏み切ることはできない、と思っていたのだが、1000万円もいただけるのであればできないはずがない、と僕は素直に考えた。

中高年が独立する時、いったいいくらあればいいのか。

具体的には1000万円という金額が、僕にとってどういう金額だったのか。

辞める前までは実感としてその金額の重さや軽さがわからなかったので、参考になるかもしれないと思い、この記事を書くことにした。

1000万円。

たしかに、恵まれすぎれている。

ただし、僕にはマンションのローンが1500万円(から2000万円:調べてみないとはっきりしない)残っており、その実勢価格はそれを下回っていたので、実質は800万ぐらいだった。

会社を辞めて無職になってみると痛感するのだが、お金というものは手に握りしめた砂のようにじわじわと確実に減っていく。

人に会いに梅田に出ようとして、券売機の前でコインを取り出し、嘆息した日を鮮やかに思い出すことができる。

ああ、まだ一銭も稼いでいないのに、こうしてまた電車賃だけで、片道720円。往復で1440円も残高が減ってしまう。いったいいつになったら収入が入ってくるようになり、それが支出を上回って一息つけるのだろう・・・

僕がお金についてリアルに考えられるようになったのは、辞めて2、3か月してからのことだった。

まだ始めてもいない事業のために大阪の北浜に事務所を借りたり、そこにネットの回線を引いたりして、無駄なお金を流れだすにまかせていたのは、お金に対する感度が鈍いままだったからだ。

僕には中学生と小学生の娘がふたりいた。

一部上場企業であったし課長だったのでそれなりの給料をもらっていたはずだが、貯金はほとんどなかった。

つまり、毎月何十万かを生活費に使い切る生活をしていたことになる。恵まれていたうえに、脳天気だったものだと今では思うが、当時はそんな感覚はなくすべて普通だと思っていた。

もちろん、辞めてからはなるべく無駄なお金は使わないようにした。

しかし、どうしても最低の生活費はいる。子供たちは幸い公立だったが。

具体的にいくらだったか今では覚えていないのだが、かりに無駄を切り詰めて生活費を切り詰めた結果が20万円だとする。

さて、最低生活費を稼げるようになるまでに、1年の猶予をみるとする。

1年間で、生活費だけで

20万円 × 12 = 240万円

かかることになる。

1000万円 − 240万円 = 760万円

1年で必ず稼げるようになるまでのネタ銭が760万円である。

僕がもう少しで実際にお金を投入しようとしたプランは、エスニックショップの開店であった。

色々と店を見て、良い立地、良い建物をと探した結果、最終プランで選んだ物件で店を始めるとすれば、賃貸物件の礼金敷金、内装、在庫で700万円ほどが必要になりそうだった。

僕は悩みに悩んで結局その計画を破棄したのだが、その理由は、もし失敗したら次につかえるお金はもうほとんどないということだった。

話を簡単にするため、成功の確率を半々とする。

この場合、僕が独立に成功する確率は、

1年後には半々の確率で銀行の預金残高はゼロになるのだ。そうなるととにかく当座の生活費を親戚から借りたりして、(42才で独立失敗者として)再就職先を探すか、妻に働きに出てもらうとかしなくてはならなくなる。

そうなる可能性が50%・・・

博打そのもののである。

そのプランの前に、僕は別のビジネスのプラン、百貨店催事のBtoBサイトのプランを持っていた。

そのためには、サイト構築で200万円程度かかり、そのほか宣伝費やランニングを考えるとおおよそその半分は費やしてしまいそうであった。

そのプランの場合は、失敗しても半分の残高が残る。

成功すればそれで良いが、失敗してももう一度、その残高でおなじような規模の挑戦ができる状態になる。そして、残高350万円をもう一度つぎ込むとすれば、独立に成功する可能性は (1から2回続けて失敗する可能性を引いた)

75%の確率で自営業への転身が成功することになる。

しかし、まだ、25%はどうしても避けたい結末が待っていることになる。

さて、僕が言いたいことはもうお分かりいただけたと思うが、できる挑戦の回数が増えれば増えるほど、成功の可能性が高くなっていくということだ。

仮に、その商売を始めるのに、100万円しかかからないことを選べば、7回のトライアルができることになり、結果的に成功できる可能性は

計算上は99%の確率で成功することができることになる。

たとえば、コインを投げて7回続けて裏がでるような状況を想像すれば、かえってそれが難しいことであると実感できるだろう。

もちろん、これはそれぞれのトライアルの成功確率が半々であるという前提であるので、成功確率の低いものばかりやっているともちろん、こういう結果にはならない。

話を簡単にするために、借り入れについては一切言及しなかったが、独立に成功するためには、とにかく、トライアルの数を増やすことが必要で、それが増えれば増えるほどいかに成功の確率が高くなるかということがわかっていただけると思う。

そして、1000万円という金額は、個人が手にしてするには十分大きなお金のようにも思えるけれど、起業のネタ銭にするには、さほどのものではないということも。

僕の実感としては、1000万円程度の金額は、店舗などにトライするには十分な金額ではなく、無店舗やネットでのビジネスを始めるぐらいの金額のように思うのだ。

1億円もあれば、店舗でも何回もトライできるのだが。

何度も言うが、以上のことは、普通の人、失敗できない人、失敗できない境遇にある人、臆病者のための計算式である。

起業にあたって秀逸なビジネスプランが書け、それをベンチャーキャピタルに提示して、資金をひっぱってこれるような人にはぜんぜんあてはまらない。

そういう人たちからの「馬鹿じゃないの」という声は甘んじて受ける。(僕はそういう人たちを大いに尊敬しているしできれば自分もそうでありたかったと思う。)

それでも、自分はそうではない、そうではないかもしれないがとにかく起業しなければ、という人に、参考にしていただければ嬉しいと思う。

(2015年3月12日「ICHIROYAのブログ」より転載)