月島から日本のファッションビジネスをリデザインする「セコリ荘」に注目!

若手のファッション関係者が集うその場所の名前は「セコリ荘」。生地素材の展示やコーディネート、染めワークショップの開催など、その活動は多岐にわたる。
Isao Kitabayashi

東京・月島。京都に住んでいる私にとっては、「月島=もんじゃ焼」のイメージしかない。

しかし、現在この街から日本のファッションビジネスを大きく動かそうとしている場ができている。若手のファッション関係者が集うその場所の名前は「セコリ荘」。生地素材の展示やコーディネート、染めワークショップの開催など、その活動は多岐にわたる。

その中でも特に最近力を入れているのが、種からコットンを育て、再び国産コットンを広げていこうという「週末プランタリウム」だ。こういった活動を展開するのはどうしてなのか。「セコリ荘」主催の宮浦晋哉さんにお話をお聞きする中で見えてきたのはファッション業界に留まらず、服をきっかけとして世の中の仕組みや考え方自体を大きく変えようという宮浦さんの壮大な目標だった。

■「セコリ荘」を始めたきっかけ

宮浦さんが「セコリ荘」の前身であるファッションの展示会「セコリギャラリー」を始めたのは学生のころだった。

宮浦さんは当時、イギリスに留学していた。日本を離れて彼が感じたことは、日本の素材のクオリティの高さは海外でも評価されているが、日本のファッションの存在感が、かつての輝きを失ってきていることだった。

宮浦さんは青春時代をファッションと共に過ごし、ファッションを楽しんできた。だからこそ、自分を育ててくれたファッションを元気にしたい。そういった思いからロンドンではファッションメディア、特にプロモーションを学んだが、背景を知らずにプロモーションなどできないと感じ、ファッションが生まれる現場、つまり日本各地の産地、工場をつぶさに見て回った。

現場を回って宮浦さんが感じたのは、東京で活動するデザイナーの姿勢への違和感だった。産地のことを詳しく知ろうとせずに、産地に足を運ばないデザイナーがあまりにも多いのである。

私も日々の活動で日本各地の産地を回っていると、驚くほど現場に足を運ばずにモノづくりをしている人たちが多いことに気がつく。素材、技術、背景の文化やモノづくりに携わる人たちの想いを体感することがモノづくりの一歩目と考えている私にとっては、原点がそもそも欠けていると感じるが、同じことを宮浦さんも感じていた。

宮浦さんは、自分たち世代(20代後半)のプレイヤーがちゃんと活動しないと、将来的に日本の国内の工場は潰れてしまい、どんどんアジアに流れてしまうという危機感を持った。

ファッションに関わる一人ひとりが他人事にせず、自分の活動一つ一つが次の世代に繋がっていくということをデザイナー一人ひとりに発信したい。

そういう想いを持って宮浦さんが立ち上げたプロジェクトが「セコリギャラリー」である。

そして、産地を回った内容を出版したり、素材の展示会などを行ったりすることで、その想いを広げてきた。

■拠点を月島にした理由

そして具体的な拠点として「セコリ荘」が生まれたのであるが、なぜあえて月島にしたか、という理由が非常に興味深い。

宮浦さんは、コミュニケーションを大切にしている。だが、じっくりとコミュニケーションを取るのに東京という忙しい街は向いていないということを感じていた。

しかし、月島は東京の中でも気合を入れて行かないといけない場所だ。

さらに古民家を改装した建物も東京らしくない。そのため、時間も忘れてじっくりとしたコミュニケーションができる。

セコリ荘では飲食店も併設しているため、月島の地元のおじさん・おばさんも来る。そこでデザイナーとの会話が生まれるが、会話がなかなか成り立たない。

誰でも分かるやり方で伝えることが大切なことに、業界人同士のコミュニケーションに慣れきっているデザイナーに気づいて欲しいという。

■「週末プランタリウム」活動に込めた思い

様々な活動を展開してきたセコリ荘だが、その中で最近特に力を入れているのが「週末プランタリウム」だ。ファッションにおける重要な素材、「綿」をプランターで種から育て、収穫しようという活動である。

綿はかつて国内自給率100%だったが、今はほぼゼロとなっている。農家でももう作ることをあきらめているくらいである。それをあえて東京でやることによって、世に問いかけたいという。

プランターでも簡単に育つので、全国各地の家庭で綿を育てていき、育った綿をセコリ荘で糸にして、服に仕上げていく。

消費者は綿の服を着ることが多いが、それを作るのがどれだけ手間がかかっているか、どのように出来上がっていくのかを楽しみながら育てる過程で知っていくのである。買って着るだけでなく、消費者がその背景・過程を知ることで、ファッションを本当の意味で楽しむようになっていくという想いが込められている。

基本的に宮浦さんの活動の根本には、現在のファッション業界を取り巻く状況に対する強烈な反骨心があるように思う。それを誰もが楽しみながら参加できるようにする仕組みを作ることによって、世の中に広げていこうとしているのだ。

週末プランタリウムの活動がじわりと全国に広がり、国産綿が復活する日も遠くないのかもしれない。

※週末プランタリウムの活動内容についてはfacebookページをご参照ください

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