JR北海道を批判するだけで問題が解決するのか?

JR北海道問題に関与する国土交通省や北海道庁は、お気楽な批判はやめて、今少し当事者意識を持ち、問題の全体像を俯瞰し根治に至る最良の解決策を見出すべく努力すべきと考える。

ネットを見ればJR北海道を批判する記事で溢れている。高橋はるみ北海道知事はJR北海道の野島誠社長を道庁に呼びつけ、「北海道ブランドに大きく傷」と批判した。一方、NAVERまとめによれば、JR北海道問題は監督官庁、国土交通省の鉄道事業法に基づく事業改善命令で一旦の決着を見る様である。私は北海道庁、国土交通省共に今回のJR北海道問題に大きく関与していると考えている。従って、本来この両者はJR北海道と協調して、JR北海道病巣の本質を究明し、どうすれば「根治」するのか真剣に考える事を期待していた。しかしながら、例によってするりと体を入れ替え、正義の仮面を被って只管JR北海道を批判する役を演じている。これでは、結局のところ問題は矮小化され、対策も現場での応急処置に終始してしまうと思う。そして、最悪の場合は良策が見出されず、「現場対応」が強調され、結果として現場従業員への過度のプレッシャー、精神論に帰着してしまうのではないのか? 仮にかかる展開となれば、北海道で2005年に起きたJR福知山線脱線事故の惨劇の再現を危惧せねばならない事になってしまう。

■JR北海道決算内容が示すもの

JR北海道に関する一連の報道を整理すると大体下記の様に纏められる。①.レール幅の不適正の放置により脱線事故が頻発した。②.機関車エンジンの整備が不十分で発煙、発火事故が頻発した。③.社内のモラルと士気が著しく低下し、覚醒剤中毒者を出すに至った、の三点である。結局のところは、分り易くいえば「貧すれば鈍する」という事だと思う。本業(鉄道事業)で充分な利益を稼ぐ事が出来ず、インフラ(レール)や設備(機関車)のメンテナンスが出来なくなっている。一方、経営者は経営ビジョンを失い、現場の社員は「何のため?」、「誰のため?」働くのか? を見失い、漂流しているというのが、JR北海道の現状と推測する。

JR北海道決算の具体的な決算内容を確認してみる。約760億円の事業収入に対し、約1,100億円の経費を支出している。差し引き約340億円という事業規模から比較して膨大な赤字を計上している訳である。普通の民間企業ならこんな決算をしていては瞬時に倒産してしまう。しかしながら、JR北海道は民営化したといっても、株は国土交通省傘下の鉄道建設・運輸施設整備支援機構を介して国が100%保有しており、実質は国有企業である。従って、経営はどうしても「親方日の丸」の無責任体質となってしまう。それを象徴するのが経営安定基金運用収入250億円という鉄道事業収入に次ぐ巨額の営業外収益である。基金の総額が7,000億円弱であるから250億円の収益を出すためには4%前後の収益で運用する必要がある。調べてみたら矢張りこれは無理で、足らない部分は特別会計で補填しているらしい。余り良い例えではないかも知れないが、日本の財政をバケツとすればこれもバケツの底に空いた穴の一つという事になる。こういう、かなり無理な決算をしているにも拘わらず最終的には50億円弱の純損失となっている。

現状の乗客を危険に晒す事になるお粗末なメンテナンスを続けたとしても、JR北海道の事業を今後も継続するのであれば、少なくとも年間50億円以上の政府による補助が必要となる事は明らかである。現在問題となっている、インフラ(レール)や設備(機関車)のメンテナンスを国土交通省の鉄道事業法に基づく基準できちんとメンテナンスする事になれば、当然これに必要なコストがこの50億円に加算される事になる。私は決して北海道の住民や北海道への旅行者の人命を軽視して良いと考えている訳ではない。しかしながら、日本の喫緊課題は財政規律への回帰であり、JR北海道への国費投入以前に検討すべき事は多いと考えている。

■JR北海道が直面する人口問題とは?

企業の経営が傾くにはそれなりの理由、事情がある。利益率の高い「優良ビジネス」であっても、やがては「薄利ビジネス」となり、更には「赤字ビジネス」となり撤退止むなしとなる。そして、その背景にあるのは企業が「需要の創造」に失敗している事実である。JR北海道の企業ドメインは鉄道事業であり、乗客を望みの目的地まで運ぶ事で収益を得ている訳である。従って、乗客の数が減少すれば当然の結果としてJR北海道の屋台骨は大きく揺らぐ事となる。

北海道民に取って北海道の雄大な大地をJRの列車が走るのは見慣れた光景であり、鉄道の存続を望むのは自然な感情である。しかしながら、彼らが移動に際し鉄道を使うか否かは全く別の問題である。通常は不便な鉄道を使う様な事はせず、自宅から目的地まで直行可能な自家用車を使用するのではないのか? 北海道内で鉄道を使わねば移動が出来ない人口は激減していると思われる。これが、JR北海道を苦しめる主たる要因ではないのか?

■電力料金の値上げがJR北海道を直撃する

JR北海道が直面する人口問題から判断して減収減益は避けられない。経営が目指すべきは乗客の「安全」を確保しつつ何処まで減益幅を圧縮出来るかという点に集約される。しかしながら、JR北海道に取って誠に以て頭の痛い問題がある。電車は電気で動く訳であるが、北海道電力は電力料金の値上げを予定している事実である。「当社は、原子力発電所の長期停止に伴い火力燃料費が大幅に増加し、財務状況が急激に悪化したことなどから、本年4月24日、規制部門のお客さまの 電気料金につきまして、平均10.20%の値上げを申請いたしました。その後、国による審査や公聴会等を経て、本日、経済産業大臣から認可をいただき、規制部門のお客さまの電気料金につきましては、平成25年9月1日から平均7.73%の値上げを実施させていただくこととなりました」。泊原発を停止させている以上、北海道電力をとしては追加の化石燃料費用を負担しており、発電事業継続のためにはこの値上げは当然の事である。北海道民の中にも脱原発を主張する人も多いと思う。この機会に原発反対運動がJR北海道を破綻の淵に追い詰めている事を理解すべきである。

■JR北海道に残された選択肢とは?

国はこれから社会保障と税の一体改革を中核に財政規律回帰に向け舵を切る必要がある。従って、JR北海道は現在の補助金が減額される事はあっても増額はあり得ないと腹を括るべきである。それであれば、やるべきは実に明らかで「不採算路線の大胆な切り捨て」という結論になる。当然の事として、従来同様電車が走る光景を好ましいと感じる地元住民は「赤字ローカル線切り捨て」に大反対するかも知れない。その場合は、JR北海道としては事を荒立てる事無く、インフラ(レール)と一定台数の老朽化した設備(機関車と貨車)を反対する地方行政に無償譲渡すれば良い。譲渡を受けた地方自治体は過疎地に鉄道を走らす事が如何に無駄な事なのか身を以て体験する事になる。

一方、北海道庁は2020年の東京でのオリンピック開催を梃に北海道の観光産業強化は必要で、「不採算路線の大胆な切り捨て」はその流れに逆行すると反対するかも知れない。この主張は、東京オリンピック開催をどうやって経済成長に結びつけるか? で説明した通り正論であり、地方が目指すべきものである。「地方はオリンピックで東京を訪れた外国人旅行者を傍観している様では話にならない。先ず、東京から足を延ばし財布と一緒に来て貰う事が第一。次いで、出来れば地元に宿泊して貰い、地元の名物料理を食べ、地元の名産を土産として購入して貰う様に努力しなければならない。どうやったら来て貰えるのか? どうやったら地元に宿泊して貰えるのか? どんな食事や土産が喜ばれるのか? これから必死になって考えるべきである。地方が活性化すれば日本経済が成長するのは当然である」。しかしながら、疲弊したJR北海道にこれ以上の負荷をかける事は好ましいとは思えない。先ずは、北海道庁にて観光事業の事業計画を作成し、赤字路線を将来の観光事業のために存続さすべきというのであれば、JR北海道からインフラや設備の譲渡を受け、自らが運営するのか、或いは、JR北海道に運営を委託するのであれば赤字部分を切り出して北海道庁が補填する様な施策は必要と考える。

福島第一原発事故処理が進まない背景とは?で説明した通り、重篤な問題が生じており、本来、火中の栗を拾うべき組織が逃げ回り、正義の仮面を被り当事者能力を喪失した業者の管理監督や批判といった楽な役回りに徹し、問題が何時まで経っても根治しないというのは、最早、日本の痼疾といって良く国益を大きく損なっている。JR北海道問題に関与する国土交通省や北海道庁は、お気楽な批判はやめて、今少し当事者意識を持ち、問題の全体像を俯瞰し根治に至る最良の解決策を見出すべく努力すべきと考える。

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