NHK、受信料の全世帯義務化という詭弁

毎日新聞の伝えるところでは、<NHK>受信料の全世帯義務化 ネットと同時放送で見解との事である。「罰則規定」については今のところ何の説明もないが、「義務」という限りNHKとして順守を求める必要があり、放送法の改正時にかなり厳しめの「罰則規定」を盛り込む事を想定しているはずである。

毎日新聞の伝えるところでは、<NHK>受信料の全世帯義務化 ネットと同時放送で見解との事である。「罰則規定」については今のところ何の説明もないが、「義務」という限りNHKとして順守を求める必要があり、放送法の改正時にかなり厳しめの「罰則規定」を盛り込む事を想定しているはずである。

■ 実質は「NHK税」の導入?

テレビ端末を所有しようがしまいが、或いはNHKを視聴しようがしまいが、有無を言わさず国民から一定金額を徴収するというのであれば、これはもう「NHK税」という新税を国民に課す事に等しい。消費増税の次はNHK税の導入か? と訝しく感じる、或いはうんざりする国民が大部分と推測する。我々は所得に応じて住民税を納税し、治安を維持する警察、急病になった時お世話になる救急車、更には治療のために搬入される地域病院、子供達が通う公立学校、公衆衛生の維持に必要なゴミ収集といった、「行政サービス」の費用を負担している。今回NHKの主張は、彼らのサービスはこういった行政サービスと同様に国民に取って不可欠なものであり、「税」として徴収するのが妥当というものである。多分、多くの日本国民はこのNHKの主張に納得する事はないだろう。

■ テレビ放送を視聴するのは主に高齢者では?

NHKの守護神は永らく戦後間もなく立法化された放送法、取り分け、第64条(受信契約及び受信料)第一項、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」であった。しかしながら、都会で一人暮らしの若者がテレビ端末を所有しないのは最早普通ではないのか? NHKの集金人が自宅を訪問し集金を試みても、テレビ端末がなければ法的根拠がなく引き下がるしかない。

NHKに取って看過出来ないのは、この状況が決して一過性の話ではなく、今後、テレビ端末を保有しない世帯は確実に増え続けるという事実である。従って、NHKとしてはNHK税を新たに設定し、収入を安定して獲得出来る体制の構築を目指したい訳である。しかしながら、この試みの実態はNHKのみならず、そもそもテレビを視聴しない若者世代の財布に手を突っ込み、金をむしり取り、今や高齢者しか見ない放送サービスの継続を目指すというものである。それでなくとも、日本では高齢者への福祉が手厚過ぎ、若者や現役世代がその犠牲となっている。従って、NHK税の導入は安倍政権が取り組むべき施策の真逆にある事は明らかである。

■ 岐路に立つNHK

NHKは国内放送事業の中核であるだけではなく、放送サービスを牽引するエリート集団である。従って、私が上記指摘した様な問題を理解していないはずはない。そもそも、視聴者のテレビからインターネットへの移行は不可避であり、「受信料制度」については、関係者である、国会、総務省、そしてNHK自身もこれまでまるで問題はないかの如く振る舞い、只管放置に徹して来た経緯がある。従って、今回の翻意は事ここに至り愈々「尻に火がついた」という事であろう。実は、私は7月に、パナソニック、新型テレビ「スマートビエラ」が問いかけたのは「ネット時代の公共放送のあり方」で、今回の展開を予想している。

岐路に立つNHK


インターネットが放送を飲み込もうというこの時代に、テレビ受信機が家にあるからという理由で「受信料」を一方的に徴収するのは制度として無理がある。理由は既に説明した様に、これからはテレビ受信機の機能の中核が「ネットに繋がったディスプレイ」に移行するからである。従って、NHKとして今後「どちらの方向に向かい?」、「何をするのか?」決断せねばならない。この結果、により「受信料」をどうするか? も自動的に決まる訳である。


第一の可能性は、BBCを追随し「番組の質」を向上させ、且つ、インターネットを取り込む事で視聴者の利便性を飛躍的に高める事である。その上で、従来の「受信料」から「税」への転換を図る事である。当然の結果として、「番組の質」と「利便性追求」両面について国民の厳しい審査、評価の矢面に立たされる事となる。確かに、細くて棘の道かも知れないがその先にはNHKの新たな繁栄が待っている気がする。


今一つの可能性は、スカパーやWOWOW同様の「有料放送」に事業モデルを転換する事である。放送契約を締結した視聴者にのみスクランブルを解除し、課金を行う訳である。「受信料」という従来の曖昧なものから「視聴料」という、提供するサービスと、それに伴う対価が明瞭に紐つけされた料金形態に移行する訳である。この場合、ネットに氾濫するコンテンツに埋没する事なく、一方、多チャンネルサービスの雄スカパーと競合し、WOWOWとも対抗せねばならない。こういう状況となれば、NHKやNHKの職員は如何にこれまで自分達が恵まれた環境にいたのか? もっと露骨に言えば、ぬるま湯に浸かっていたのか? を身を以て知る事になる。パナソニック、「スマートビエラ」はNHKに取ってのバンドラの箱を開けてしまったのかも知れないのである。

■ 改正すべきは時代遅れの「電波政策」

安倍政権はNHK問題にどう対応すべきであろうか? 視野狭窄という陥穽に陥り、NHK問題を時代遅れの「電波政策」と切り離した上で拙速に処理する事だけは何としても回避せねばならない。既に説明した通りNHK問題は、視聴者のテレビからインターネットへの移行という、パラダイムシフトに起因するものである。従って、テレビ放送に過剰に割り当てられている「電波帯域」をネットにリロケート、リバランスする様な「電波政策」の抜本的改正を併せ実行すべきと考える。鬼木阪大名誉教授の「クラウド・テレビ」関連記事が、この点に関して先行するアメリカ市場の状況と今後の展開予想をリアルに説明してくれている。併せ、私と鬼木先生間の質疑応答も参考までに下記参照する。

山口 巌

示唆に富む良記事。これが世界(少なくとも先進国)の趨勢であるのなら、①.地上波からネットへの電波帯域割り当ての移行(電波行政の抜本見直し)。②.コンテンツのネット公開の加速。③.TPPで法改正を伴う新たな取り決めが必然になると言われている「知的財産」管理の変更を梃に①.②.の改善を加速出来ないか? など専門家の意見を拝聴したいですね!

鬼木甫

山口様 コメントありがとうございます。①について米国では「インセンティブ・オークション」による移行方策が進行中で、EU諸国でも検討中と伝えられています。日本は遅れていますが、早晩不可避になるでしょう。②については、現在の「地上放送事業者」が、自身の存続のためにも「放送コンテンツのインターネット上でのストリーム公開」つまり、インターネットをケーブルテレビと同様に取り扱う方策の実現が望まれ、そのための規制見直しが必要と考えます。それから、ノーム教授講演には出てこなかったと思いますが、近年普及が著しいSkypeも将来クラウド・テレビの担い手になる可能性があると思います。この点について現在Microsoftが何か画策しているか否か、気になるところです。

山口 巌

鬼木甫 様 ありがとうございました。周波数帯域割当て見直しが一丁目一番地ですね。個人的にはネット活用に先行するBBCをNHKが追随すれば話は随分と分り易くなると考えています。

■ NHK税の導入に際しては国民投票を実施すべき

さて、本論であるNHK税の導入に話を戻さねばならない。先に述べた通り、この話は国民の共有財産である、「電波帯域」の有効利用とコインの裏表の関係にある。従って、拙速な判断を避け、国民に対し周知徹底の後国民投票を実施すべきと考える。2016年7月の参議院選挙に併せ実施してはどうだろうか? 設問としてはNHK税の導入に賛成、若しくは、スカパーやWOWOW同様の視聴料収入依存に業態を変更し、従来のインターネット時代には適合しない「受信料」の徴収は廃止するというものであるべきだろう。「電波帯域」の再配分や「受信料」徴収廃止に対し既得権益者が反発するのは当然である。しかしながら、これに果敢に切り込まない事には、「成長戦略」が「絵に描いた餅」に成り下がる事を安倍政権は理解すべきである。

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