ネット排除に狂奔するテレビ局に未来はあるのか?

今、テレビ局は従来同様割当てられた電波帯域への寄生を続け、劣化し、朽ち果てて行くのか? 或いは、本業回帰に覚醒し、番組の品質向上に汗をかき、「ネット」を積極的に取り込む事で視聴者の利便性を高め、その結果、今世紀も繁栄を継続するのか? の岐路に立っていると思う。ついては、今回のパナソニック、新型テレビ「スマートビエラ」対応についてはテレビ局の将来を占う試金石と注視している。

パナソニックが4月から発売を開始している新型テレビ「スマートビエラ」のCMを、各放送局が放映を拒否しているというニュースがネットで話題になっている。テレビ局の言い分は、「テレビに電源を投入した時に、テレビ放送波以外の情報が表示されてはならない」という事の様である。露骨に言えば、「家電メーカーは放送局が送出した映像と音声のみを再生する受信機を製造し販売すれば良い。余計な事するな!」という事であろう。

今一方の当事者パナソニックとしては、従来の稼ぎ頭であったテレビ事業の立て直しが経営上の喫緊課題であり、そう遠くない将来にインターネットが放送の主流になるだろうと予想し、満を持して今回新型テレビ「スマートビエラ」を市場投入するに至ったと推測する。分り易くいえば、テレビ端末は放送局が送出する放送波を受信し再生する装置から「ネットに繋がったディスプレイ」に変化すると予想しているのだと思う。私は基本的に、今回のパナソニックの様に変化を先取りし、ビジネスチャンスに昇華して行く事は好ましい動きだと考えている。ついては、このスタンスに立って今回焙り出されたテレビ局の課題と共にあるべき今後を考えてみたい。

テレビ局は一般の民間会社とは異なる

テレビ局は国民の共有財産である「電波帯域」の割当てを受け、サービスを行っている認可事業である。問題は電波利用料の負担が携帯キャリアー各社の一割程度と極端に優遇されている事実である。テレビ局の利益の源泉といっても過言ではない。更には、地デジ推進の名目で「アナアナ変換」と称し私企業のインフラに過ぎない伝送路の整備に1,800億円の国費が投入されている。これ以外にも難視聴対策他の名目で2,000億円超の国費が使われた筈である。国民の血税が使われる以上、応分の国益への貢献が求められるのは当然である。

地デジ化のメリットの一つにテレビ端末販促効果があったのでは?

上記に参照した金額は地デジ化の為に投入された国費の一部に過ぎない。所謂氷山の一角であり、全体の金額は巨大なもので窺い知れない。これだけの国費を投入するにはそれなりのメリット(見返り)が本来無くてはならない筈である。日本が地デジのトップランナーになる事で家電メーカーの生産するデジタルテレビ受信機が世界市場を席巻し、結果、国益に貢献するといった「シナリオ」があったと記憶している。仮にそうであれば今回の新型テレビ「スマートビエラ」CM放映拒否は過去に国民が国から受けた説明に対し真逆の行為であり、誠に以て身勝手極まりないと批判されても致し方ないのではと思う。

意味不明なテレビ局の「CM考査基準」

CM放映の可否判定の基準となるのは局毎の「CM考査基準」である。今回、この「CM考査基準」の中身や実際の運用方法を一旦棚上げするにしても、実態として判断能力の伴わない年少者に今尚高額な課金を継続する「ソーシャルゲーム」や、効果効用がはっきりしない高齢者を対象とする「健康食品」が問題なく通過し、今回の「スマートビエラ」が何故駄目なのか? 一般国民はとてもではないが理解出来ないし、テレビ局も理解を得るための努力をした形跡は見当たらない。これは流石に問題であろう。

テレビ局は何を恐れるのか?

ずばり「ネット」の存在である。インターネットの時代に追いつけず「ネット」に飲み込まれてしまう事を危惧しているのであろう。メディアがここまで多様化した時代にテレビ局が昔の様に「マス」を相手に商売する事は難しい。昔なら、年末大晦日の紅白歌合戦に代表される歌番組を制作すれば、その時その時の人気の歌手さえ出演させておけば一定の視聴率を取ることはさして難しくはなかった。

しかしながら、現在ではAKB48の支持層と年配演歌歌手の歌を楽しむ層は明らかに異なる。従って、テレビ局は一時間の歌番組にAKBが出演する5分間をフックにこの支持層をテレビ画面の前に縛り付ける事は無理だと悟っている。仮に「スマートビエラ」が各家庭に行き渡れば、AKB48の支持層はテレビ用リモコンではなく、音声識別のインターネット用コントローラーに向かいAKB48とつぶやく事になる。テレビ画面には過去のヒット曲のリストが直ちに表示されるので、好みの楽曲を次々に楽しめば良い。成程、コンテンツの原産地は確かにテレビ番組かも知れないがテレビ局の痕跡は綺麗さっぱり消失する。その結果、本業のテレビ番組の視聴率は下がり、飯の食い上げとなる。

ハリウッドから何を学ぶべきか?

台頭するインターネットの前に途方に暮れて立ち尽くすテレビ局というのが、我々が今目にする光景ではないだろうか? 第二次世界大戦後、台頭するテレビを前にハリウッドも同じ様な経験をした筈である。DVDに代表されるパッケージメディアの台頭も座視出来たとはとてもではないが考え辛い。しかしながら。ハリウッドはこういった手強いライバルを相手に「競合」、「協調」の硬軟を巧みに使い分ける事で世界のハリウッドの地位を維持する事に成功した。

それでは、ハリウッドの成功の秘訣とは一体何だろうか? 二つあると思う。第一は本業回帰、面白い映画の製作に注力した事である。ライバルであるテレビの強みは「無料」と何時でも自宅のリビングで視聴出来る「利便性」。一方、映画は勿論有料で自宅から映画館に出掛ける必要がある。態々映画館まで出かけ、映画の中身に金を払って観るだけの価値が無くては商売にならないのは当然の事である。

今一つは、「テレビ」やDVDに代表される「パッケージメディア」をプロモーションのツールとしての使用した事や、商流上マルチウインドーの一つとして活用する事でのマネタイズの成功である。アメリカではケーブルテレビ経由のテレビ視聴が一般であるが、日本同様三大ネットワーク(地上波)の難視聴対策として産声を上げた。そして、伝送に使用する同軸線の空帯域を活用して「カミングスーン」というタイトルだったと思うがハリウッド新作映画のプロモーションを行った。これが、その後のケーブルテレビのマルチチャンネルサービスの源流である。

更には、ロードショーから若干のタイムラグを設定しての「ペイ・パービュー」、少し遅れての「ペイチャンネル」へのコンテンツ提供と繋がる。ケーブルテレビ多チャンネルサービスへのコンテンツ配給とほぼ同時期にDVDセル、レンタルへのコンテンツ提供が行われる事はいうまでもない。そして、最後は地上波(無料放送)への放映権販売で完結する。詳細は把握していないが、以前ケーブルテレビ多チャンネルサービス及び地上波とDVDからの収益を合算すれば劇場ロードショーからの収益を上回ると聞いた事がある。何れにしても収益の柱に育っている事は確実である。

先立としてのBBC

私事で恐縮だが、私は1995年から2000年までの5年間、BBCの子会社(現BBC World Japan)に勤務した(退職時の役職は取締役営業本部長)。仕事の関係でロンドンに出張しBBC World幹部と打ち合わせする事も多かった。その際、一番印象深かったのはBBCの経営戦略が極めてシンプルな事であった。一言でいえば「デジタル対応」に尽きると思う。

日本の放送関係者が「デジタル」と言っても、それはアナログデータの代わりにデジタルデータを伝送する放送に過ぎない事が殆どである。所詮は、「電波帯域」ありき、「電波帯域」寄生の価値観に支配されている。これに比べ、BBC関係者の言っていた「デジタル」とはもっと広義なもので、デジタル化の進展に伴い、従来の「放送」というサービスはインターネットに収斂して行く。そういう潮流の中でBBCは世に何を問い続けるのか? といったものであった。

その結果、従来型の放送に必要な伝送路のインフラはさっさと他社(オンデジタル)に売却し、一方BBCはコンテンツの制作工房を目指すと宣言した。コンテンツビジネスとは突き詰めれば「観てもらってなんぼ」の商売である。生き残りを望むのであれば、コンテンツの質を上げ、その一方で視聴者の利便性向上を図り続けねばならない。BBC Newsネット配信により世界レベルでのBBCブランドの確立に成功した。従来はトラフィックの制限からニュース動画のEmbedは限定的であったが、今や重要ニュースは殆ど視聴可能になっている。更には、 iPlayerの成功により視聴者は時刻や使用端末に関係なく、空いた時間に、望みの番組を、その時使い勝手の良い端末で視聴可能となった。今後、タブレットPC、スマートフォン用の無料アプリケーションがBBCから供給される予定なので更にこの動きは加速すると思う。

岐路に立つテレビ局

注目記事