凋落を続けるヤマダ電機が示すものとは?

時間が経てば、やがてECとの棲み分けが明瞭になると思う。それまでは、国内小売業に取っては当分視界不良の日々が続く事になるはずである。

ヤマダ電機が遂に中間決算で営業赤字に陥ってしまった。ヤマダ電機のみならず、家電量販関係者に取っては遂に来るべきものが来たか、といった受け止め方ではないだろうか? それにしても、まるで隕石の落下を原因とする気候変動によって絶滅してしまった巨大恐竜の如く、凋落を続ける家電量販業界の覇者ヤマダ電機が、今我々に示すものとは一体何であろうか?

■激化するECとの競合

最初に断っておくが、私はこのニュースを極めて当たり前の話と受け止めている。丁度一週間前に発表した、ヤフー新EC戦略の衝撃で説明した通り、激化するECとの競合でヤマダ電機は敗北を続けていると理解しているからである。今回参照した東洋経済オンラインはこの様に説明している。「営業赤字に陥ったのは、アマゾンを筆頭とするインターネット通販サイトとの価格競争激化から、想定以上の採算悪化をもたらしたことが一因だ。家電量販業界では自社で選定した商品について、他社提示価格よりも安く販売するという最低価格保証制度(ヤマダ電機では「安心価格保証」)が一般化している」。

元々、ヤマダ電機は街の電気屋から低価格を武器に客を奪って今日をなした。その低価格という武器がECの壁に跳ね返され自らを直撃し、経営にダメージを与えているのである。リアルな店舗を構える以上、どうしてもECに比べて販管費が割高になってしまうのは避けられない。ヤマダ電機が現在行っている対EC対抗措置は、まるで巨大なコンクリートの壁に向かって、壁打ちテニスをしている様なものである。壁に向かって強い球を打てば打つ程、その分強い球が返って来る。やがて体力は消耗し、その内足は動かなくなってしまう。

■背後にあるのは「デフレ」

10年程前になるが、私は当時のヤマダ電機幹部に迫り来るECの脅威について率直に質問した事がある。その時の回答は「日本人は現物を見てから買うので心配無用」という、実に単純明快且つ楽観的なものであった。今にして思えば、彼の言葉は半分正しく、残りの半分は大きく間違っていた。成程、今日であっても消費者は決してネットの閲覧のみで即決にまで至る事はないだろう。実際に店舗に来店し、「色」、「デザイン」、「大きさ」が自分の好みに合うかどうかを確認し、価格が予算内に収まるかを確かめる。問題はそこからもう一手間かけるのを厭わない事である。インターネット通販サイトで価格を調べ、仮に安ければ、迷わずそちらに発注する。従って、ヤマダ電機は顧客を繋ぎ止めるため「安心価格保証」の維持という名の壁打ちテニスを続けるしかない。当然、この事はヤマダ電機の収益を圧迫する。

この消費者の「低価格指向」の背後にあるものは「デフレ」という名称で示される事の多い、消費者の所得低下である。何故、消費者の所得が低下するのか? については、ユニクロ「世界同一賃金」が示すのは日本型雇用システムの終焉や、「ブラック企業問題」は最早周回遅れの議論で説明しているので、こちらを参照願いたい。念頭に置くべきは、企業が易々と国境を越え海外への移転を加速している状況や、クラウド・ソーシングの台頭により労働市場が一元化する結果、どうしても日本を含む先進国の給与が発展途上国の低賃金に鞘寄せされてしまうという現実である。収入の減少が消費者の低価格志向に拍車をかけている訳である。

■好調ユニクロと苦境ヤマダ電機の明暗を分けたものは海外展開の成否

苦境に喘ぐヤマダ電機に比べ、同じ小売業であってもユニクロは絶好調である。それでは、一体何がユニクロとヤマダ電機の業績を鮮明に分けたのであろうか? 先ずは「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが10日に発表した2013年8月期連結決算結果を検証する。売上高が前期比23.1%増の1兆1,430億円となり、アパレル業界で初めて1兆円を超えた。決算の要点を抽出するとこの様になる。「国内ユニクロ事業の当連結会計年度における売上高は6,833億円(前期比10.2%増)、営業利益は968億円(同5.4%減)と増収減益の結果となりました。海外ユニクロ事業の当期連結会計年度の売上高は前期比64.0%増の2,511億円、営業利益は同66.8%増の183億円と大幅な増収増益を達成いたしました。8月末の海外ユニクロの店舗数は446店舗、前期比154店舗増となっております。特に、中国、香港、台湾といった中華圏では、店舗数が前期末比102店舗増加し、中華圏の当連結会計年度の売上高は1,250億円、営業利益は135億円まで拡大いたしました」。好調のユニクロを牽引するのは、急拡大する海外事業である事は明らかである。

一方のヤマダ電機海外展開はどうなっているのだろうか? 産経新聞はヤマダ電機が戦略市場として展開を急いだ中国市場での惨憺たる状況を伝えている。南京店、天津店の閉鎖に起因する特別損失が中間期の決算結果を毀損した事は間違いない。中国は撤退の難しい市場として有名である。撤退手続きに膨大な手間と費用が嵩む事になるからである。今後、唯一残った瀋陽店も閉鎖し、中国市場からの全面撤退を余儀なくされる展開を予想するが、来期以降の決算の圧迫要因になると思う。中国を含め香港、台湾といった中華圏で稼ぎに稼ぐユニクロと、中国市場で損失を垂れ流すヤマダ電機という結果になっている。

■ヤマダ電機の苦境は国内流通業に共通するのか?

私は、多かれ少なかれヤマダ電機が直面する苦境は、ユニクロの様な例外を除き国内小売業に共通する問題であると思っている。国内市場は既に成熟しており最早拡大は望めない。寧ろ、縮小の可能性もあるだろう。自社が成長するためには他社の顧客を奪取する必要があるが、今後もデフレの継続が予測される状況では、低コストでの運営が可能なEC優位を覚悟せねばならない。成長する海外市場に活路を求めるというのは正しい選択である。しかしながら、ヤマダ電機の失敗が示すようにそれ程簡単な話ではない。先ず、海外展開を支援するに充分な資金力が必要である。次いで、海外戦略を立案し、実行する人材が要る。所謂、最近持て囃される「グローバル人材」である。一般の小売業は当然として、日本国内にはこの手の人材は殆んどいないのではないのか?

こういう状況であれば、原点に立ち返り「成長と利益」に向けての最適な経営資源の再投入とは? を考えるしかない。しかしながら、経営資源といっても現在運営している「店舗」と、その店舗の「構築と運営のノウハウ」、実際に接客する「店舗スタッフ」程度ではないのか? 仮にそうであれば、出来る事は「売れない商材」から「売れる商材」に転換する事位であろう。ヤマダ電機が2011年に住宅メーカーのエス・バイ・エルを買収するなど住宅関連事業に注力しているのは分かり易い実例である。とはいえ、コストを負担し、店舗で専門コーナー設置したとしても、ヤマダ電機の既存社員が高いモチベーションを持って住宅関連という新規分野に取り組まねば実際にビジネスとして開花する事はないと思う。これまでの社員教育の結果が問われている訳である。時間が経てば、やがてECとの棲み分けが明瞭になると思う。それまでは、国内小売業に取っては当分視界不良の日々が続く事になるはずである。

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