エネルギー安全保障と成長戦略、TPP

イラン核協議が妥結して良かったなと思っていたら、何とイランが英国MI6のスパイを拘束したとのBBC報道が目に飛び込んで来た。M16といえば007で有名な情報機関だ。映画の様な話が、実際イランで繰り広げられているのであろうか?想像が広がる。

イラン核協議が妥結して良かったなと思っていたら、何とイランが英国MI6のスパイを拘束したとのBBC報道が目に飛び込んで来た。M16といえば007で有名な情報機関だ。映画の様な話が、実際イランで繰り広げられているのであろうか? 想像が広がる。イランの核協議は目下中断しており、またベイルート、イラン大使館前での2件の同時爆発事件などから、イラン核問題がそれ程すんなり決着するとは思えない。これからも波乱含みの展開が予想される。

更に、安倍首相は早急に「原発再稼働」を宣言すべきで説明した通り、中東・北アフリカの地政学的リスクはシリア、イエメン、西アフリカサヘル地区の食糧危機もあり、高まっている。

エネルギー安全保障の観点より、安倍政権は日本のエネルギー供給元をサウジ中心の湾岸産油国の原油一極集中から、開発が軌道に乗り、政治的に安定している北米のシェールガス・オイルに転換すべきと考える。原油からガスへの転換に際し、併せ環境対策を万全のものにし、日本は環境対策分野での世界のリーダーを目指すべきと思う。環境対策技術とこの技術を駆使した製品はPM2.5に悩む中国が最も必要としており、日本に取って成長戦略にも直結するはずである。

■原油の殆どは中東から輸入し用途は輸送機用燃料が最大

資源エネルギー庁が公表している一次エネルギーの動向を参照する。サウジなど湾岸産油国に原油を依存し、輸入した原油は精製して輸送用の燃料他に使用している事が一目瞭然である。中東に動乱が起きれば、燃料不足から日本国内で物流が滞り経済が壊死してしまう。食糧の輸送が思う様に行かず餓死する国民が出るかも知れない。

■世界初「メタノールで動く船」

環境ビジネスオンラインが伝えるところでは、世界初「メタノールで動く船」 商船三井が開発、2016年に運航開始との事である。率直にいって画期的なニュースだと思う。

商船三井は、世界で初めてメタノールを燃料に使用した船を開発し、2016年に運航を開始する。本船はメタノールおよび重油の2元燃料に対応可能な低速ディーゼルエンジンを世界で初めて搭載する。

メタノールは北米で開発が加速するシェールガス・オイルから容易に製造出来る。従って、このタイプの船が増えるという事は、海上輸送用の燃料が石油からシェールガス・オイルに転換する事を意味する。同時に、中東依存から北米依存に転嫁する事でもある。

■三井物産が米、テキサス州でメタノール製造事業に参画

三井物産株式会社(本社:東京都千代田区、社長:飯島彰己、以下「三井物産」)と米国化学品大手のCelanese Corporation(本社:テキサス州ダラス市、以下「セラニーズ社」)は、折半出資の事業会社を設立しテキサス州クリアレイクのセラニーズ社工場内でメタノール製造を行うことで合意し、合弁契約書を締結しました。

三井物産は米国シェールガス・オイル革命により安定供給と価格競争力が期待できる原料ガスの優位性に着目し、世界第2位のメタノール市場である米国で事業参画の機会をうかがってきました。一方、メタノール需要家であるセラニーズ社は、パートナーとの合弁によるメタノール製造事業を検討しており、両社の意向が合致した結果、同事業を共同で推進することとなりました。

同事業では、グローバルに販売ネットワークを持つ三井物産と世界最大のメタノール需要家の一社であるセラニーズ社がパートナーを組み、年産130万トンの大型プラントを建設します。原料の価格競争力に加え、セラニーズ社のインフラを活用することで建設費用を抑え、更にコスト競争力を高めます。製造したメタノールは両社が引取り、三井物産は主に米国内で販売し、セラニーズ社は自社の川下製品の原料として使用します。

三井物産は元々米、テキサス州のイーグルフォード・シェール・エリアにおいてシェールオイル・ガスの鉱区を取得した上で、開発生産プロジェクトに参画している。従って、今回シェールオイル・ガスを原料としたメタノール製造事業に参画する事により、シェールオイル・ガス鉱区取得から開発生産、更にはこれを原料とするメタノールの製造・販売の一貫体制を確立した事になる。

TPPが妥結すれば三井物産は日本を筆頭にTPP加盟国に対し、メタノールの販売を加速するはずである。当然の事ながら、日本のエネルギー安全保障に多大な貢献をするだけでなく、三井物産がこの事業で得る事になる利益の一部は配当として日本に送金され、経常収支改善に貢献する事になる。TPP関連、日本のマスコミは農業関係者の反対ばかりを伝えて世論をミスリードしているが、せめてハフポストの読者くらいは視野狭窄に陥る事なく全体を俯瞰して欲しいと思っている。

一方、同じ三井グループの商船三井が上に述べた通り世界初「メタノールで動く船」を開発し、同じく三井グループの三井造船がメタノールと重油に対応可能なディーゼルエンジンを製造するのも実に興味深い。三井物産は当面はアメリカで生産されたメタノールの売り込みに注力し、その内「メタノールで動く船」の売り込みにも乗り出す積りではないだろうか? 卓越したビジネスセンスであり、見事というしかない。

■トヨタ自動車が注力する燃料電池車

資源エネルギー庁が公表している一次エネルギーの動向を見る限り石油使用の内訳は輸送機が突出して高い。街のガソリンスタンドに引っ切り無しに自動車やトラックが入って来るのを見れば分る通り、燃料としてガソリンや軽油を燃焼している訳である。ガソリンや軽油をメタノールに転換出来れば、エネルギーソースをリスクの高い中東からリスクのない北米に転換出来る。

更に一歩進め、メタノールを原料に水素を製造してはどうだろうか?水素を燃料とする燃料電池車はH2+1/2O2⇒H2O+エネルギーで、水蒸気以外の排気ガスを出す事のない究極のエコカーである。従って、従来のガソリンエンジン車から燃料電池車に転換すれば大気汚染問題解決に大きく貢献する事になる。燃料電池車は日本に取って夢の車といって良いのかも知れない。

それでは、この燃料電池車は何時我々の前に姿を現すのであろうか? 先月開催の第43回東京モーターショーで、トヨタは2015年アメリカ市場に投入すると説明している。

FCV CONCEPTは、床下に小型・軽量化した新型の燃料電池(FCスタック)や70MPaの高圧水素タンク2本を搭載。FCスタックは、「トヨタ FCHV-adv」に搭載されていたものの2倍以上となる出力密度3kW/Lを実現している。約3分で水素をフル充填でき、実用航続距離は500km以上。同車は5万ドル(約506万円)前後で米国市場に投入されると言われているが、今回トヨタは価格については明らかにしていない。

かつてトヨタが米国向けの大衆車として発表したハイブリッド車の概念には、当初懐疑的な見方も多かったが、技術の改善を重ねた結果、今やプリウスシリーズは米国のハイブリッドカー市場で6割以上のシェアを誇るまでになった。トヨタは、その成功例にならい、2015年に市販を開始する今回の燃料電池車のシェア拡大を目指すようだ。

自動車大国アメリカは燃料となる石油を永らく中東に依存して来た。従って、イスラエル問題と共に、アメリカは中東の地政学的リスクとは無縁ではいられなかった。しかしながら、アメリカ国内のシェールオイル・ガスの開発、生産が軌道に乗り、しかもシェールオイル・ガスを原料とする水素を燃料に使う燃料電池車が、従来のガソリンエンジン車に取って代れば状況は一変する。アメリカは最早煩わしい中東を必要としないという事である。私は、この事がアメリカ外交の中東からアジア・太平洋へのPivot移動の背景にあると考えている。

■燃料電池車の対中輸出

中国といえば、すっかり大気汚染、PM2.5の国のイメージが定着してしまった。こればかりは百聞は一見にしかずで、中国共産党といえども言い訳出来ない。長期的には老朽化している上に、元々脱硫、脱硝といった環境対策が不充分な石炭火力や製鉄所を閉鎖する事が最も効果の見込める対策と思う。しかしながら、地方経済や地域の雇用といった経済・社会問題とも関係しており迅速な対応は難しいと思う。従って、即効性のある対応はガソリン車から燃料電池車への転換というシナリオになる。この流れに巧く乗れば、トヨタが世界最大の自動車市場である中国でトップブランドになる事も決して夢ではないだろう。

■一本の線で結ばれる、「エネルギー安全保障」, 「成長戦略」、「TPP」

ここまでお読み戴いた読者は、別々の課題と思っていた「エネルギー安全保障」, 「成長戦略」、「TPP」が相互に密接に関係している事を理解されたと思う。リスク回避を型の役人に「成長戦略」の立案は難しい。従って、不要な規制は最大限緩和し、先に紹介した三井物産やトヨタの様なダイナミックな民間企業の活動の障害を取り除く事が重要である。日本は何故TPPに加盟すべきなのか?も、ある程度はご理解戴けたのではないだろうか?2014年の安倍政権には、個々の課題を俯瞰した上で相互の関係を理解し、常に「全体最適」の施策とは?を念頭に置き、国益最大化に貪欲に挑戦する「大きな政治」に取り組んで貰いたい。

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