サッカー日本代表、本気で狙っているなら軽々しく「優勝」と言えないはずだ(後藤健生)

日本の守備を見ていると、とてもコートジボワールやコロンビア相手に無失点で切り抜けられるとも思えない。と同時に「点は取れそうだ」とも思わせる。
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ザッケローニ監督は日本が大変に気に入っているようである。たしかに、昔、日本にいた変わり者のフランス人監督とはまったく異なる、まさに気配りの人だ。サッカー協会の幹部に対しても、日本人メディアに対しても、そして選手たちに対しても気配りを欠かさない。しかし、そんな気配りの人がやっているサッカーといったら、じつに大胆極まりないサッカーをやっている。あのフランス人は、紆余曲折はありながら、最終的には常識的なサッカーに落とし込んでいったというのに......。

コスタリカ戦、ザンビア戦と、ともに先制ゴールを奪われた後の逆転劇で勝利を収め、日本代表はワールドカップ直前の準備試合を3連勝でブラジルに乗り込むことになった。「順風満帆」と言いたいところだが、失点の多さは相変わらずである。さすがに、ザンビア戦後のザッケローニ監督のコメントは「満足してはいない」というものではあったが、「肉を切らせて骨を切る」的なスリリングな試合展開の連続である。ハラハラ、ドキドキの試合は、おそらくワールドカップが始まってからも続くのだろう。

日本の守備を見ていると、とてもコートジボワールやコロンビア相手に無失点で切り抜けられるとも思えない。と同時に「点は取れそうだ」とも思わせる。ザンビア戦の3得点目などは、センターバックの森重真人が攻め上がって、相手のペナルティーエリア内で足裏を使った見事なターンでDFを交わして、中を見て落ち着いて入れたクロスを本田圭佑が押し込んだもの。守備力には目をつぶっても攻撃力に優れた選手を集めた今年の日本代表らしい得点だった。

さて、日本を気に入って「前世は日本人だったかも」というザッケローニ監督だが、もし彼が母国イタリアの代表監督だったとしたら、やはりこんなリスキーなチームを作るのだろうか?ザッケローニ監督にとって今回のチームは日本という異国での冒険。日本のサッカーは発展途上国であり、ワールドカップでも優勝を義務付けられているわけでもない。そんな状況だからこそ可能な、実験的、革新的、そしてリスキーなチームなのではないのか?もし、彼がイタリア代表監督だったら、もう少し常識的なチームで優勝を狙うのだろうと僕は思う。

「優勝を狙う」と公言する選手がいる。もちろん試合をする以上は、つねに目の前の相手を倒そうという気持ちでやるわけだから、「優勝を狙う」気持ちでやってもらうのは悪いことではない。だが、ブラジルやアルゼンチン、スペインといった本当の優勝候補の国の選手たちは、そんな気楽に「優勝」を口にするだろうか?本気で狙っている、あるいは本気で信じている場合、選手たちは軽々しく「優勝」を口にはしない。たとえば、日本代表がヨルダン代表と試合をする時に「ヨルダンは絶対勝てる相手だ」などと口が腐っても発言しない。

本当に「優勝できる」と信じているチームは「優勝」などと軽々しく言えないもののはずなのだ。本当に優勝を狙うためには、やはり攻撃も、守備もできなくては戦えない。1試合だけなら、「肉を切らせて骨を切る」戦いで4対3で逆転勝ちすることも可能だし、運が良ければグループリーグ3連勝だって可能だろう。だが、それが7試合続くのは奇跡に近い。時には我慢比べに勝ち、時には虎の子の1点を守って逃げきる。そして、時には攻め勝つ。そんな戦いを柔軟に使いこなさなければ、大会は乗り切れるものではない。

4年前の南アフリカ大会では守備主体の戦いでベスト16だった。ブラジル大会でも、攻撃的な戦い方でベスト16に入れば成功と言っていいだろう。2つの戦い方を使いこなせるようになった時、本当に「優勝」という目標が見えてくるのだろう。

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後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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(2014年6月9日J SPORTS「後藤健生コラム」より転載)

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