イチロー"打率.357"でも衰えが否定できない理由

MLB本土開幕寸前に、『FOX Sports』の電子版は"Time isn't on their side: Players who might be done after 2014”(時流は彼らの元にない、2014年シーズン後に居なくなるかもしれない選手達)という記事を掲載しました。内容はタイトルが示す通りで、今季限りで引退を余儀なくされる可能性が高い選手を10人ピックアップし、その根拠とともに紹介しています。そしてこの記事で今季限りになりそうな筆頭に挙げられたのが・・・残念ながらイチローでした。

MLB本土開幕寸前に、『FOX Sports』の電子版は"Time isn't on their side: Players who might be done after 2014”(時流は彼らの元にない、2014年シーズン後に居なくなるかもしれない選手達)という記事を掲載しました。

内容はタイトルが示す通りで、今季限りで引退を余儀なくされる可能性が高い選手を10人ピックアップし、その根拠とともに紹介しています。

そしてこの記事で今季限りになりそうな筆頭に挙げられたのが・・・残念ながらイチローでした。「本人には引退の意思はないだろうが、今季3割を打てなければ来季以降の契約をオファーする球団はないだろう」としています。

そして、それから1ケ月が経過しました。ここまでのイチローは、5番目の外野手という位置付けで限られた出場機会ながら、42打数15安打で打率.357(4月29日現在)ときっちり結果を出しています。恐らく多くのファンは「意地を見せてくれた」と喜んでいることでしょう。しかし、それ以外の指標を慎重に見て行くと、あまり楽観視できないことに気付きます。

まずは出塁率です。.386という絶対値自体は十分及第点ですが、打率.357であることを踏まえると信じられないくらい低いとも言えます。これは2つしか四球を選んでいないからで、その結果四球率(四球数÷打席数)は4.6%と若干ではありますが昨季(4.7%)より低く(MLB平均は8.4%)、イチロー自身の通算値5.9%をも明らかに下回っています。

それ以上に心配なのが三振の激増です。既に9個喫しており、三振率(三振数÷打席数)は20.5%です。これは、1番打者でスタメン出場すればほぼ1試合に1つ三振を喫するペースです(実際には今季のスタメン出場での打順は全て6番以降)。バットコントロールが超一流で、NPB時代の1997年には216打席連続無三振の日本記録を樹立したイチローとは思えない値です。ちなみに彼自身のメジャー通算三振率は9.5%で昨季は11.4%、メジャー全体の平均は17.7%です。通常、四球が少ない打者は早いカウントから積極的に打って出るタイプに多く、その分三振も少ないのが普通です。逆を言えば、三振が多くてもその分四球も多ければそれほど心配はないのですが、現在のイチローは最悪のパターンです。メジャーでは四球1に対し三振2が平均値ですが、今季のイチローは1対4.5なのです。

さらには、以前にもまして長打が出なくなっている点も、(彼の価値は長打力以外に在るとはいえ)加齢による変化の兆候として見逃せません。「長打率-打率」で導き出すIsoP(Isolated Power)という指標があります。これは純粋な長打力を測る指標で、単打を稼げば数字が上がってしまう長打率(塁打÷打席数)の欠陥を補うために用いられます。イチローの通算は0.95で昨季は0.81ですが今季は0.48。ちなみに昨季規定打席以上でメジャー最低だったエルビス・アンドゥルス(レンジャーズ)でも0.60でした。

打率が高いのだから良いではないか、という考えもあるかもしれません。しかし、今季のイチローのBABIP(Batting Average on Balls In Play)は.455という異常な高さです。BABIPとは「本塁打を除くインプレー打率」です。

これは、打者(投手)の実力の結果が反映されるのは三振と四球と本塁打だけで、それ以外の打球が安打になるかアウトになるかは運でしかない、という考えに基づくものです。そしてこのBABIPは「長いスパンで見れば概ね.300前後に落ち着く」ことが統計学的に確認されています。

もちろん、例外もあります。イチローのように俊足で打球のゴロ比率が高い打者の場合は、他の打者なら内野ゴロに終わる打球が内野安打となるケースも多いためBABIPは高めとなり、彼のメジャー通算値は.344です。

しかし、それにしても今季の.455は高い。これはまだ42と少ない打数ゆえの異常値で、今後サンプル数(打数)が増えてくれば限りなく.300(イチローの場合は.340程度)前後まで下がって来ると考えるのが一般的でしょう。そして、BABIPが100ポイント以上下がるということは、打率もそれに連動し相当低下する可能性を否定できません。

結論に入りましょう。ここまでのイチローは、打率の面では一見好調も、これは多分に「打球がたまたま安打となるケースが多かった」おかげかも知れません。また、打者の実力を反映する四球率と三振率、純粋な長打力は危険なまでに悪化しています。

その肉体は20代の頃と寸分違わぬように見えながらキャップを取るととみに増えた白髪が目に付くように、その実力も高打率の陰で確実に衰えが進んでいると見るべきかもしれません。

※Time isn't on their side: Players who might be done after 2014の記事は『FOX Sports』電子版のサイトを参照。

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

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(2014年5月1日「MLBコラム」より転載)

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