中村紀洋の懲罰降格で考えるマネジメントの在り方

DeNAの中村紀洋が登録を抹消された。中畑清監督によれば「チームの方針に従わない言動があった」ことが理由らしい。詳しい事情は当事者以外には分らないが、発端は中村が打席に入ったときの走者の動きについての彼の言動らしい。昨年夏にも同様な件で中村は降格処分を受けているため、中畑監督の判断には一貫性があったとも言える。
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DeNAの中村紀洋が登録を抹消された。中畑清監督によれば「チームの方針に従わない言動があった」ことが理由らしい。

詳しい事情は当事者以外には分らないが、発端は中村が打席に入ったときの走者の動きについての彼の言動らしい。昨年夏にも同様な件で中村は降格処分を受けているため、中畑監督の判断には一貫性があったとも言える。しかし、中村は首脳陣の方針に疑問を呈しただけなのか、それとも監督の指示に反する動きがあったのか。それにより本件の解釈は異なったものになるだろう。

一般的にスポーツの世界では、首脳陣の指示に従わないことは許されないとされている。基本的には私もそう思う。監督やコーチといえども人間だ。時には誤った判断を下すこともあるだろう。それでも、選手は起用や采配には従わねばならないだろう。しかし、疑問を持ったままそれに異を唱えてはならないという道理はない。

中村に限らず、選手は方針や采配に疑問があれば率直に質問すべきだ。それにはミーティングという場が適切であるケースもあれば、マン・ツー・マンで話し合うほうがよいこともあるだろう。いずれにせよ、疑問や不満があればそれをぶつける場はあってしかるべきだし、それに対し監督やコーチは、なぜそうしたのか、なぜその選手が希望する起用や采配ができないのかを説明する義務がある。かつてカージナルスでプレーした田口壮は、今年殿堂入りしたトニー・ラルーサの采配について「全て説明できる理由があった」と語った。「オレが決めたことだから」ではないということだ。それがマネジメントだろう。

本件に関し、登録を抹消されたのは中村で、それを決断したのは中畑監督であることは間違いないだろう。中畑監督から中村に降格理由の説明はあったようだが、降格通知は中畑監督から直接受けたものだろうか、それとも第三者を経由してのものだろうか。そのあたりも大変重要で気になるポイントだ。

中村は、その後自らの心境をフェイスブックで吐露している。もちろん核心に触れる部分に関しては言葉を濁しているが、これは感心しない。プロ野球選手のSNS活用は賛成だが、渦中の選手が自らの立場をマスに主張することに使用するのはいかがなものか。今は一般企業でも社内事情をSNSで発信することを禁じているケースが多い。いや、規則で禁じられているか否かではなく、モラルとして慎むべきだろう。中村には、思いは世間へ発信するのではなく繰り返し球団にぶつけて欲しい。

逆に言えば、DeNA球団に限らず、選手がSNSで内部事情を発信してしまうリスクを球団フロントや監督・コーチの首脳陣は抱えている。その意味でも、選手の疑問や不満はロッカールーム内で発散させ、対話による解決や納得を得られるよう、管理の方針を転換すべきである。本件は、昔ながらの押さえつけるマネジメントスタイルの限界を示しているようにも思える。「監督」とは英語で「Manager」、要するに管理職だ。采配を振るうだけでなく、人事管理者としての資質も問われるべきだ。

今から33年前、当時阪神の江本孟紀は降板を告げられ「ベンチがアホやから野球がでけへん」と首脳陣を批判し、結果引退に追い込まれた(本人が選択したにせよ)。これはこれで致し方なしだったと今でも思っている。それは批判をしたからではなく、それが具体性に欠ける中傷だったことと、それを自らが不満を持っている首脳陣に対してではなくメディアに対して語ったからだ。しかし、中畑監督だけに限ったことではないが、期待に応えられなかった選手に関し、監督やコーチが(本人にではなく)メディアに感情的に不満を露にするケースは茶飯事だ。「公平ではないなあ」と思うのは私だけだろうか。

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

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