和田毅、カブスとアスレチックスの大型トレードの余波でチャンスをつかむ

ワールドシリーズを目指すアスレチックスは即戦力を、将来を見据えるカブスは有望株を、そして和田毅は念願の先発でのメジャーデビューの機会を得ます。
GOODYEAR, AZ - MARCH 25: Tsuyoshi Wada #67 of the Chicago Cubs pitches during a game against the Los Angeles Angels at Goodyear Ballpark on March 25, 2014 in Goodyear, Arizona. (Photo by Sarah Glenn/Getty Images)
GOODYEAR, AZ - MARCH 25: Tsuyoshi Wada #67 of the Chicago Cubs pitches during a game against the Los Angeles Angels at Goodyear Ballpark on March 25, 2014 in Goodyear, Arizona. (Photo by Sarah Glenn/Getty Images)
Sarah Glenn via Getty Images

ワールドシリーズを目指すアスレチックスは即戦力を、将来を見据えるカブスは有望株を、そして和田毅は念願の先発でのメジャーデビューの機会を得ます。2014年夏のストーブリーグ開幕を告げるブロックバスタートレードは、狙いが明確な良い取引だと思います。

7月4日、アスレチックスとカブスはトレードを断行。現在メジャー最高勝率のアスレチックスはナ・リーグ中地区最下位のカブスからジェフ・サマージャとジェイソン・ハメルの両先発投手を獲得し、カブスは見返りに若手有望株のアディソン・ラッセル遊撃手とビリー・マッキニー外野手らを得ました。

このトレードの主役の1人であるアスレチックスのビリー・ビーンGMの分析力と決断には感心させられます。

まずは、トレード成立時点でチーム防御率はリーグNo1ながら、敢えて2人も先発投手を獲得するという判断が素晴らしい。後半戦もこのパフォーマンスが継続するとは楽観視しなかったのでしょう。なぜなら、エース格のソニー・グレイは今季がメジャー2年目でフルシーズンを過ごすのは初めてであり、防御率リーグ5位のスコット・カズミアーはキャリアは豊富ながら不振の時期が長かったため、07年を最後に規定投球回数(162回)に達したことがありません。軟投型のトミー・ミローンには多くを望むのは酷で、ジェシー・チャベスもメジャーで先発投手としてシーズンを過ごすのは今季が初めてです。加えてここに紹介した4人とも防御率(偶然に左右されることが多い)は良好ながら、FIP(投手の責任である奪三振、与四球、被本塁打をベースに算出する疑似防御率)はそれほど秀逸な値ではありません。これらの事像から「後半戦は投手陣失速の懸念あり」とビーンは判断したと見られています。

次は、今年勝負に出るというタイミングの判断が素晴らしい。アスレチックスは過去2年を含め、00年以降7度もプレーオフに駒を進めながら6度地区シリーズで敗退しています。「マネーボールは短期決戦に向いていない」という噂も立っています。もう、ポストシーズンに出場するだけでは許されなくなっています。

また、今季はヤンキース、レッドソックス、レイズの東地区の強豪3球団は低迷しており、同地区のここ数年のライバルのレンジャースは絶不調。念願のワールドシリーズ進出に今季はまたとないチャンスなのです。

低予算集団のアスレチックスならではの事情もあります。今季オフにFAとなるのは主力では正遊撃手のジェド・ラウリーと中継ぎのジム・ジョンソンくらいですが、主砲のジョシュ・ドナルドソンは今季オフに年俸調停権を得て来季年俸は高騰することが予想され、放出も視野に入れる必要が出て来ます。またキューバの大砲ヨエニス・セスペデスとキャズミアーは15年オフにFAとなります。勝負に出るなら今で、来季では一発勝負になってしまいます。

だからこそ、故障で今季を棒に振っている先発投手ジャロッド・パーカーとAJ・グリフィンが来季には復帰予定にも関わらず、今季に勝負に出たのです。これで、プレーオフ用に強力な先発投手4人が揃いました。ポストシーズンでは4人でローテーションを組むのが一般的なので、そこで勝ち抜くには中庸な先発投手を5人揃えるより、強力な4人を確保することが重要なのです。

さらに言うならトッププロスペクト2人を放出しながら、ラッセルと同じ20歳の遊撃手であるもう一人の有望株ダニエル・ロバートソンは残しています。このあたりは抜け目がありません。

一方、セオ・エプスタイン球団社長のもと再建を進めるカブスは、ここ数年の主力選手との交換で獲得した若手でマイナー組織はかなり充実してきましたが、昨季1A&2Aで37本塁打のハビア・バイエズらが本格的に開花するのは16年あたりと言われています。その意味では、今回のトレードは既定の戦略に沿ったものだと言えるでしょう。

このトレードで、12年の渡米以来トミー・ジョン手術もありまだメジャーでの登板がない和田も漁夫の利的なチャンスを得ます。おそらく7日からのダブルヘッダーを含むレッズ5連戦の中で、先発の機会が巡って来るでしょう。率直に言って、カブスの和田への期待は単に「穴が空いたローテーションを埋めてほしい」という以上のものではないでしょう。その意味では、昨年8月にインディアンスのマイナーで燻っていた松坂大輔と契約したメッツのそれと似たものがあります。しかし、腐る必要は全くなく和田はカブスに限らず全球団を対象とした来季へのオーディションとして取り組むべきでしょう。いや、好投すれば来季とは言わず、7月末のトレードデッドラインを過ぎてからでもプレーオフを目指す球団からウェイバー経由での獲得の声が掛かるかもしれません。

今回のトレードの結果がどうなるか現時点ではわかりません。しかし、アスレチックスもカブスも和田もそれぞれが目指すものに向い一歩前に進んだことは間違いないでしょう。

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke'm Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

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(2014年7月7日MLB nationより転載)

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