シリアを巡る外交議論は主として、首都ダマスカスの東、グータにおける先ごろの化学兵器使用に焦点を当てている。しかし、その間も近隣住民は連日の爆撃にさらされ、道路封鎖で生命の維持に必要な食糧・医療から隔てられている。人道援助は国際調停の議題に上がってすらいない。

シリアを巡る外交議論は主として、首都ダマスカスの東、グータにおける先ごろの化学兵器使用に焦点を当てている。しかし、その間も近隣住民は連日の爆撃にさらされ、道路封鎖で生命の維持に必要な食糧・医療から隔てられている。人道援助は国際調停の議題に上がってすらいない。

■黙認される人道援助の阻害

シリア危機を巡る活発な外交活動と、シリアの人びとの人命救助を拡大しようという意志の欠如は非常に対照的だ。同国における大量破壊兵器の使用は内戦の新たな展開を示すとともに、政治的立場の別なく世界中から非難を浴びた。しかし、その他の原因による何万人もの民間人の死や、数百万人の生命線である人道援助の阻害は黙認されているかのようだ。

この2年、国連と赤十字国際委員会による大規模な国際人道支援はダマスカスの中央政府を通して提供され、政府の意向に左右されてきた。その中央政府が、反政府勢力支配地域の住民を対象とした医療援助提供を禁じているのである。当該地域がさらされている激しい爆撃の標的は、医療施設と、住民の支援に努めるすべての人だ。製パン業者から医師に至るまで、そこに職業の別はない。つい2週間前も、北部のアレッポ県バブの野外病院がシリア空軍に爆撃され、患者9人、医療スタッフ2人が亡くなっている。

反政府武装勢力の中には、一般市民、援助従事者、ジャーナリスト、捕虜を狙った犯罪行為に加担する者もいる。当事者ではない反政府勢力構成員はそうした行為との関わりを否定するかもしれないが、非道な行いは繰り返され、ただでさえ不足している人道援助提供をいっそう妨げるものとなっている。反体制派の各武装組織は一様に、民間人、ジャーナリスト、援助従事者の安全向上に努めなくてはならない。

周辺諸国は合計200万人余りの難民受け入れをいとわずにきたが、シリアにおける暴力を逃れようという人びとは依然として容易に国外脱出できず、また、それがかなった後も身の危険や貧しさに直面している。

■人びとへの援助を優先事項に

国境なき医師団(MSF)は、各国・各国際機関にシリアの人びとへの人道援助を優先事項とするよう求める。何よりもまず、反政府勢力支配地域の住民を抑圧し、人道援助を妨げる封鎖措置が解除されなければならない。その開始点は、住民が化学兵器にさらされ、現在も爆撃と道路封鎖に直面しているダマスカス市東部の郊外地域だ。国連機関、赤十字国際委員会、NGOが中央政府ないし周辺諸国を通じて、シリアの人びとへ緊急援助を提供できるようあらゆる外交努力が払われる必要がある。

さらにいえば、シリア政府と反政府勢力それぞれの協力者が、民間人、ジャーナリスト、援助従事者の安全徹底を促す圧力を高める必要もあるだろう。

化学兵器使用に対する報復の可能性や軍事介入について、人道援助団体であるMSFが特定の立場をとることはない。しかし、最も必要とする人びとへの援助提供があからさまに妨げられているとき、その事実を伝えることはMSFの使命なのだ。

国境なき医師団(MSF)は、紛争や災害、貧困などによって命の危機に直面している人びとに医療を届ける国際的な民間の医療・人道援助団体。「独立・中立・公平」を原則とし、人種や政治、宗教にかかわらず援助を提供する。医師や看護師をはじめとする海外派遣スタッフと現地スタッフの合計約3万6000人が、世界の約70カ国・地域で活動している。1999年、ノーベル平和賞受賞。

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