誰がニュースを所有するのか?

米ネット企業大手アマゾンの経営者ジェフ・ベゾス氏が米ワシントン・ポスト紙を個人で買収し、新聞業界に大きな問いが発せられた。誰がニュースを所有するべきなのか?

米ネット企業大手アマゾンの経営者ジェフ・ベゾス氏が米ワシントン・ポスト紙を個人で買収し、新聞業界に大きな問いが発せられた。誰がニュースを所有するべきなのか?

世界を見渡せば、市場の数だけビジネスモデルがある。個人が新聞を所有するように法律で規定している国がある。公共組織が新聞社を所有する場合もあれば、情熱を持った家族が代々所有してきたり、労働組合、学生、あるいは教会が所有する国もある。

編集権の独立を確保するために、英ガーディアンやアイルランドのアイリッシュ・タイムズのように信託が所有する形もある。新聞が国家の所有物になっている国ももちろんある。

米ニューヨーク・タイムズ紙や英国のデイリー・メール、米ニュース社が所有する英タイムズ紙などの新聞は、株式が上場されているものの、強い家族経営の歴史を持つ。

ニュースを誰が所有するかを語るとき、私は3つの要素が関係すると思う。情熱、ビジョン、そのビジョンの実行の可能性だ。

米国では、グレアム一家が強い情熱を持ってワシントン・ポスト紙を所有してきた。核となる新聞を守るためにビジネスの多様化を行ってきたが、新聞業以外のビジネスのほうが財政上は将来がより明るくなるという結論を出した。

ガーディアン紙を発行する英国のガーディアン・メディア・グループは、新聞の価値観を守るために経営を行い、堂々たるメディア企業を築き上げた。部数は小さいが(30万部前後)影響力は大きい。ネットサイトの存在感はかなり大きい。コストの削減策を行っているが、現在でもかなりの数のスタッフを抱えている。

スウェーデンのメディア企業ボニエ社は上場企業のように見えるが、実は家族経営だ。創業は1804年。もともとはデンマーク・コペンハーゲンの書店だった。現在では年間収入が30億ユーロ(約4000億円)、18カ国の175社を傘下に持ち、1万人が働いている。収入の20%は新聞が生み出している。私は、幸運にもここで2年間働く機会を得た。

1839年創業のノルウェーのシブステッド社も最初は家族経営だった。1989年、当時の最高経営責任者が家族を説得して、オスロの株式市場に上場させた。このときの条件が、新聞の独立した編集権を維持することだった。そんなシブステッド社は世界中から尊敬される新聞に成長したが、経営は多角化されており、新聞業だけに収入をたよっていない。

オーストリアでは、家族が代々経営してきたラスメディアをユージン・ラス氏が1983年から運営している。父親の後を継いだのは22歳の時だった。世界の複数の国でビジネスを展開しており、ラス氏はニュース業界のパイオニアと言われている。

米国のガーネット社や英トリニティー・ミラー社など、巨大な複合メディアに成長した新聞の経営者は、短期的な見返りを期待する株主と、読者がニュースに興味を持たなくなった現実やデジタル時代の課題(新聞ではなく、もっぱらネットでニュースを読む)の間に立たされている。

過去数ヶ月にわたって、私は欧州の20を超える出版社と話す機会があった。それぞれ、情熱、ビジョン、実現の可能性という3点についての見方がずいぶんと違っていた。

この約20の出版社の中で、最善のものは生き残るだろう。さらに経営が悪化し、なくなる会社もあるだろう。残りの会社は考え方を変えることを余儀なくされる。

そこでいったい誰が新聞を所有するべきなのかという問いに戻る。

私は、国からの助成金や介入の必要はないと考える。

アマゾンのベゾス氏がワシントン・ポスト紙を買ったが、思い起こせば、こういうケースは初めてではない。

2007年、米起業家サム・ゼル氏がシカゴ・トリビューン紙などを発行するトリビューン・カンパニーを買収したが、失敗に終わった(08年、グループは経営破たん。12年に新経営陣の下でよみがえった)。米フィラデルフィアの新聞数紙を実業家ブライアン・ティアニー氏が買ったことがある。しかし、2008年の経済危機で、手放さざるを得なくなった。買収後まもなくして、私はティアニー氏と話す機会があった。「フィラデルフィアを生き返らせたい」「お金がもうかるかどうかは二の次だ」と語っていたのだが。

デジタル化が進む中で、特に西欧諸国の場合に限って言えば、紙の新聞の命はこの先、7年だろう。新聞を誰が所有するべきかについて、これまでにないほどに大きく考え方を変えなければいけなくなった。

ワシントン・ポストの元所有者グレアム一家のように、ベゾス氏のようなネット富豪に売ってしまうやり方を好む人もいるだろう。

複合メディアの普通の株主だったら、自分のこれまでの投資を守るために、新聞業を処理してしまおうと考える人もいるだろう。

大部分の新聞は、情熱、ビジョンを持ち、長期的な実現性に焦点を合わせている人に買われてゆく。直接新聞業を売ってしまうやり方もあるだろうし、提携関係を結ぶ方式もあるだろう。複合企業は効率性を高めるように圧力がかかる。編集、制作、広告、販売、事務作業上における効率性だ。新聞の発行者は所有者という存在から、販売権を持つ人、あるいはサービスの提供者を管理する人に変わっていくのかもしれない。

ニュースは私たちが生きる社会で重要な役割を果たす。お金儲けや名声を求めるのではなく、新聞の将来を気にかける人が所有するべきだろう。

(翻訳:小林恭子

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