豊かで安全な社会を実現するために:アフリカの保健医療への投資

アフリカ各国とそのパートナーは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)実現に向けた具体的な計画を立てる必要がある。

アフリカは、道路、エネルギー、通信インフラ整備のために、民間セクターからのより多くの投資を必要としている。しかし、そうしたインフラを最大限活用するためには人的支援が欠かせない。人々の知力や学習能力を高めるためのインフラへの投資を拡大し、包摂的な経済成長を後押しする人口ボーナスを実現する事が求められる。

今週、ケニアのナイロビで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催される。アフリカ各国とそのパートナーは、この又とない機会を生かして、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)実現に向けた具体的な計画を立てる必要がある。このイニシアティブは、UHCの普及で世界を牽引してきた日本政府が主導するもので、アフリカの今後の成長および繁栄に欠かす事ができない。世界銀行グループは本日、アフリカにおけるUHC実現に向けた取組みを推進するため、向こう5年間で150億ドルの支援を提供する事を表明する。

保健医療の向上と生存率の改善は、特に妊産婦や子供を中心に、経済成長と密接に結びついている。これを裏付ける証拠には枚挙にいとまがない。ランセット誌の「健康への投資に関する委員会」は、アフリカで生存率の向上が経済成長に大きく寄与している事実を明らかにしている。乳幼児期の栄養状態の改善、五感への刺激および就学前教育プログラムを充実させる事で、卒業まで学校に通う子供が増え、学習成果が向上し、その結果、生涯収入が高くなる傾向がある。同委員会はまた、UHCへの投資1ドルにつき、最大で10ドルの投資利益が期待できると分析している。

UHC分野の支援においては何よりもまず、アフリカの保健医療の現状を把握する必要がある。高い水準で推移している妊産婦や乳幼児の死亡率や栄養不良への対応は、最優先事項であると共に、進捗の加速が可能である。同時に、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の長期的な治療・介護に対する需要拡大とのバランスも考慮しなければならない。アフリカはこれまでも、ギニア虫感染症や河川盲目症など、顧みられない熱帯病を克服した実績があり、マラリアやHIVへの対策に見られる目覚ましい成果からも、対応が可能な事は明らかである。

しかし、最近のエボラ出血熱や黄熱病の流行、さらにナイジェリアにおけるポリオの新たな症例を踏まえ、アフリカでの真のUHC実現に向け、すべての国が責任を共有している事実を改めて自覚しなければならない。アフリカ各国のリーダーたちは、保健医療分野におけるこうした厳しい状況に立ち向かうため、サービスと資金面の両方から、より積極的な改革に取り組む必要がある。

必要に応じた病院への移送や、感染症発生時の緊急対応を含め、患者と直接に接するコミュニティ・ヘルスワーカーによるプライマリ・ヘルスケアの実践は、UHCの根幹を成すものである。アフリカ各地で、こうした保健医療モデルの飛躍的進歩が見られる。

しかし、誰もが基礎的医療サービスを受けられるようになるには、資金面での抜本的な見直しが必要である。UHCは、医療費の自己負担から前払い制度への転換を意味する。医療費自己負担は、病気にかかった貧困層にとって重荷となっている。アフリカでは2014年だけでも、これが原因で貧困に陥った人口が1,100万人を上回っている。他方、前払い制度であれば、病気にかかってもすぐに治療へのアクセスが可能なので、貧困層保護を図る事ができる。貧困女性が直接現金収入を得られるようにする事も必要だ。例えば現金給付プログラムは、こうした女性とその子供たち全員に保健医療、教育、栄養へのアクセスを提供するもので、引いては包摂的成長と強く結びついている。

国際社会の支援も、アフリカ各国におけるUHC拡大に向けて、より効果的なあり方を探る必要がある。我々は、グローバル・ファイナンシング・ファシリティを通じて、アフリカ各国の保健セクターに対し、より適切で大規模かつ持続可能な融資を実現できるよう、各国と協力して取り組んでいる。ただし、万全の体制を整え、十分に資金を調達した保健医療システムであっても、ひとたび感染が拡大すれば機能しない恐れがある。5月に開催されたG7会合の場で「パンデミック緊急ファシリティ(PEF)」を立ち上げたのはそのためだ。PEFは、迅速に資金を提供する革新的なグローバル・メカニズムで、次なる感染症の世界的流行への備えとして役立てる事を目的としている。

成果を上げている取組みの場合は、引き続き投資を進める事が必要だ。これには、マラリア予防のための蚊帳の配布拡大、遠隔地へ救命医療用品を届けるためのドローンの活用、アフリカ各地への数千人のコミュニティ・ヘルスワーカーの新たな配置などがある。こうした可能性をさらに体系的に活用すれば、最終的には保健医療分野でより大きな成果を達成しつつ、より多くの雇用創出を実現できるだろう。

適切な投資を通じて数百万人の命を守り、極度の貧困を撲滅する事で、誰もが健康でより長く生産的な生涯を送る事ができるようになる。これらはいずれも、アフリカにとってすぐにも実現可能である。UHC実現に力を注ぐ事が、アフリカの繁栄を支える基盤となるのである。

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