ギブの連鎖が社会を変える! 新しい地域共助サービス「たまコネ」始動

昔ながらの"助け合い"を新しい形で根付かせたい。横浜市の「たまプラーザ」駅周辺に住む人たちをつなげる地域共助サービス「たまコネ」の実証実験が始まりました。

昔ながらの"助け合い"を新しい形で根付かせたい...。2016年、横浜市の東急田園都市線「たまプラーザ」駅周辺に住む人たちをつなげる(コネクトする)地域共助サービス「たまコネ」の実証実験が始まりました。「たまコネ」はさまざまなスキルを持った人と、スキルを求めている人をマッチングさせ、現代版の助け合いを実現させようというもの。

地域共助サービスの作り方、広げ方:Huffington postブログより 2016/03/15 11:32)たまプラ・コネクト(横浜市)で中間支援を行っている藤本孝さん(61)と、シャープ(本社・大阪市)で開発にあたった岸本泰之さん(39)に「たまコネ」誕生の経緯や今後の展望などについてお聞きしました。

■新しい形で地域とつながる仕組みを作りたい

―どのようなきっかけで、この共助サービスは始まったのでしょうか?

岸本さん(以下敬称略):もともとは2012年、横浜市と東京急行電鉄株式会社が、既存のまちの持続と再生に向けて「次世代郊外まちづくり」の推進に関する協定を締結し、第1号のモデル地区を、このたまプラーザ駅北側地区(横浜市青葉区美しが丘1~3丁目)に決定したことにさかのぼります。その取り組みの一つとして住民主体のまちづくり事業を支援する住民創発プロジェクトが始まりました。

私は住民として主に食のイベントと御用聞きを行うことで地域の人たちを繋げる企画を進めていて、当時私はこの地域に住んでいて、たまたまこのプロジェクトを知り参加したのがきっかけです。そこで私は食料品の買いもの代行などを行う御用聞きのサービスと、多世代が集まる食事会などのイベントを行うことを企画していました。そして、それを加速させるためにも他の活動との連携を模索していました。それを加速させるためにも他の活動との連携を模索していました。

藤本さん(以下敬称略):同様に私の場合は「交流の森」というプロジェクトで、この地域に住む人、働く人、大学、行政、企業などがつながる「プラットフォーム」創出に関わり、主に中間支援的な活動を行ってきました。2014年になって住民主導型のネットワークを結ぶ「たまプラnetwork」と「交流の森」が合流し、「たまプラ・コネクト」として活動することになり、2015年には合同会社を設立しています。その事業の一環として、地域を活性化させる「共助サービス」ができないか、と検討を始めました。

―どうして共助サービスの必要性を感じられたのですか?

藤本:自治会組織のような地縁型のコミュニティはどこにでもありますが、入りにくい雰囲気があったり、うまく機能していなかったりするところもあります。学校のPTAなどで活動経験のある女性はまだ良いのですが、仕事ばかりで定年までを過ごしてきた男性が地域で活動する、となると、なかなかきっかけがないのではないでしょうか。

岸本: でも、何らかの形で地域とつながりたい、というニーズは高いのです。従来の地縁型のコミュニティに加えて、もっと新しい形も求められているのではないか、と。

藤本:さまざまな住民創発プロジェクトをやってきた中で、何か新しい形で地域とつながる形がほしい、と思っている人が多いことに気づいたんです。それは、趣味のサークルに参加する、という関りだけではおそらく得られないものなんですよね。「交流の森」プロジェクトで"プラットフォーム"という言葉を使っていたのは、人と人とをつなぐ中間支援組織みたいな存在が必要だと思ったからです。「たまコネ」はその仕組みの一つになると考えました。

■やりたいこと・得意なことを社会のために、という発想

―「たまコネ」のコンセプトはどのようなものなのでしょうか

藤本:最初は買い物やパソコンの配線作業など、家事や育児代行の共助サービスを想定しました。アメリカの有名な代行サービスに「タスクラビット」というものがあって、そのシステムだと、何か手伝ってほしいことのある人がまず募集をかけ、できそうな人が「自分ならいくらでできる」など条件を付けて応募をします。こういう仕組みが、たまプラーザ周辺でもできたらいいよね、というところから話が始まりました。

ただリサーチを進めていくと、日本には便利屋さん的な代行ビジネスはたくさんありますし、子どもの一時預かりなど育児面でのサービスもあります。私たちは、そのようなビジネスをしたいのではなく、目的はあくまで地域における助け合いの仕組みを作り出すことです。そう考えれば、何か違うのではないか、と考えるようになりました。

そのようなときに東京の三鷹市に「TOWN KITCHEN」という会社があって、「食」を通じて地域社会に相互扶助の関係性を生み出す取り組みをしていることを知りました。そこで教えられたことは、「地域活動は課題解決のための発想から始めると前へ進まない」ということです。TOWN KITCHENはコミュニティレストラン事業などでどんどん発展していっているのですが、うまくいっているのは、やる気のある住民が関わり、その熱意をどう地域に反映させるのか、という仕組みを整えているからだと思います。

それで私たちも、課題からの発想で高齢者や育児中の方に「何か困っていませんか?」「お手伝いしましょうか?」と尋ねるのではなく、「私はこういうことができるんですが、何かお役にたてることはありませんか?」という自発的な助け合いがベストだということになりました。つまり、やりたいこと、得意なこと、好きなことで、地域のだれかの役にたてるって良い事ですよね、という発想の転換を図ったのです。義務感ではなく、好きだからやっている。そういう意識がもっと連鎖して広がっていけば...と願っています。

―具体的にはどのようなサービスがありますか?

岸本:たとえば3人の子どもがいる女性は子どもの成長に伴って今まで3つ作っていたお弁当が1つで良くなりました。けれど、これまで通り3つを作る余裕はあるので、「お弁当をおすそ分けします」というサービスを始めたところ好評で、「今まで普通にやってきたことがだれかの役に立てるならうれしい」と言っています。

藤本:メンズアロマ教室とか、大人の体操教室とか、ターゲットを絞ったものや、カルチャースクールにありそうでないもののニーズが高いんですよ。

■マッチングシステムの開発は試行錯誤

―サービスのマッチングはどのように行うのでしょうか

藤本:2016年1月に開いた第1回では、知り合いを中心に声をかけて、子守や体操教室、お弁当作りなど、それぞれに提供できそうなサービスを出してもらいました。それぞれのサービスの紹介を1枚の紙にまとめ、地域コミュニティの拠点である「3丁目カフェ」の机に並べます。来場者がその紹介文を見て入札金額を書き込んでいき、一番高い金額を付けた人が落札者となる仕組みです。この仕組みは「サイレントオークション」と呼ばれ、アメリカなどではポピュラーなものです。

2月に第2回をやったときは、シャープの協力を得てスマホを使ったマッチングシステムも実験的に導入しました。ただ高齢者の方などスマホを使っていない人もいるので、アナログ的な要素を残すために電話での申し込み受け付けも行っています。

―岸本さんが勤務先でマッチングシステム開発に取り組んだ経緯について教えてください

岸本:シャープには、社外の団体とコラボレーションして、新しいサービスの仕組みを作っていく「クラウドラボ」という取り組みがあります。その中でクラウド型データベースと利用者向けのスマートフォンアプリ、運用者向けのツールを含めた人材マッチングシステムを構築できないか、提案をしました。結果、新しいビジネスの可能性があってさらに社会から求められることなら、と会社からも了承が得られ、「たまコネ」の開発が始まったのです。

実際は社内で認められた活動とはいえ、骨の折れる作業はたくさんありましたし、途中でマッチングシステムの仕様を変更するなど開発の紆余曲折もありました。それでも「たまコネ」のコンセプトに共感したメンバーたちがいろいろ協力してくれたおかげでマッチングシステムは完成し、社会実験を行う段階まで持っていくことができたのです。

■自然と感謝の気持ちが生まれる仕組みづくりを

―ここまでのトライアルを通しての感想はどうですか?

藤本:何かスキルがあっても「人にお金をいただくほどではない」とか「教えるほどではない」と思っている人が多いですね。そう言う人に限ってクオリティの高いサービスを提供できているので、誰かが背中を押してあげなければ、せっかくのスキルが社会に埋もれたままになると思います。

岸本:今までは自分や家族のためにやっていたことを、外部の人に向けてやってみたら意外と喜んでもらえた、とかですよね。潜在的なスキルをもっと外に出せる場所があって良いのではないかと思います。

藤本:これまでの経験では、それぞれのサービスをビジネスにしていく、という意識は提供者の側にあまりないんです。"材料費プラスα"ぐらいの収入があって、社会や人のためになればいいと思っている人がほとんどのような気がします。

岸本:本当に好きなことなら楽しく続けていけますよね。しかも普通に日常でやっていることなら負担になりません。それが地域の人のためになって、少しお小遣いが入ってくるならいいな、いう感覚を大事にしたいんです。お金儲けではない、とはいえ、人に提供するとなればサービス内容に凝り始める人が多くて。自然にやりがいが生まれてきているのではないでしょうか。

藤本:「高い!」と感じる値段設定ではなく、なんとなく「えっ、こんな値段でいいの?」ぐらいの金額にして、「やってもらってありがとう」という気持ちが残るぐらいが良いと思います。感謝の気持ちから「今度は自分が何かお返しをしなければ...」という気持ちになれば共助サービスが勝手に自転し始める予感がするんです。こういった"give(ギブ)"の連鎖が起これば、良い社会になっていくと思います。

岸本:プロボノ的なものですよね。多くの人の心に、自分のできることで人の役に立てたらうれしい、という気持ちがあるのではないでしょうか。

■"特定多数"だからこそもっと全国へ広げたい

―これからの展望などについてお聞かせください。

岸本:「たまコネ」のサービス対象は、何らかの形でつながりのある人たちと考えています。これは不特定多数、ではなく"特定多数"の状態です。

藤本:不特定多数を対象としたサービスだと、ただの便利屋さんになってしまうからです。地域での助け合いを目的とした共助サービスであるなら、知り合いの知り合い、ぐらいの範囲でないと成立しません。そのネットワークの規模がどれぐらいなのか、というのはいま探っているところです。

岸本:少なくとも横浜市全体に広げるようなサービスではありませんね。

藤本:でも、たまコネでやっているぐらいの規模でのサービス圏が日本各地にできればいいと思うんです。

岸本:これからますます少子高齢化が進む中で、どこの地域でも、住民の力をもっと活用したい、というニーズがありますよね。そのような社会のシステムの構築には、大きな企業がビジネスとして参画することで可能になるのではないでしょうか。1つの小さな地域ではこのようなシステムを作ろうとしてもなかなか投資がかけられないと思います。

ただ、同じことが多くの地域で展開されれば規模が広がっていきますよね。例えば、シャープには全国にサービスの拠点や関連する販売店、ネットワークのインフラがあり、サービスの展開規模を大きくすることで開発や運営コストを削減していくことができます。企業による純粋なビジネスや、市民による草の根の活動、従来型の行政の事業などではできなかったことでも、企業と市民、そして行政が一緒にタッグを組むことで、実現できることは必ずあると思います。今回のケースでは私達シャープが携わりましたが、もちろん他の企業でもできることがあるはずです。

藤本:東日本大震災のあと、まちづくりに関心を持つ人が増えました。人とつながることの大切さは多くの人が実感しているところです。とにかく次の世代の子どもたちに、助け合いの精神を受け継ぎ、暮らしやすい社会をつなげていきたい...。"たまコネ"はその方法のひとつに過ぎません。共助サービス、という難しい言葉でくくってしまうのではなく、「このことならあの人に聞けば良い」とか「これはあの人に頼もう」とかが自然にできる社会になればよいなと思います。

藤本孝(ふじもと・たかし)

2014年11月、電通テックを定年退職したのち、ソーシャルビジネスデザイン研究所を立ち上げ、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネス領域で本格的な活動を始める。

合同会社「たまぷら・コネクト」マーケティング担当として中間支援を行っている。

株式会社ニューロマジック執行役員。

岸本泰之(きしもと・やすゆき)

日本政策学校第6期生、シャープ株式会社勤務。

東京農工大学大学院修了、京都造形芸術大学卒業。

半導体の設計、国内外向けの液晶テレビの開発からソーラー応用商品のマーケティングリサーチ、異業種企業とのアライアンスまで業種、職種の枠を超えた業務を経験。サラリーマンでも自分の住む社会にインパクトを与えられる可能性を信じ自己研鑽に励んでいる。

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