『それでも夜は明ける』――差別や規制が成長を妨げる 宿輪純一のシネマ経済学(32)

今年の第86回アカデミー賞作品賞受賞作。英文原題からもわかるように、南北戦争前に北部で自由の身となった黒人がなんと拉致されて南部で12年間の奴隷となってしまう話。しかも、ベストセラーとなった実話である。

『それでも夜は明ける』(12 Years A Slave/ 2013年アメリカ)

今年の第86回アカデミー賞作品賞受賞作。英文原題からもわかるように、南北戦争前に北部で自由の身となった黒人がなんと拉致されて南部で12年間の奴隷となってしまう話。しかも、ベストセラーとなった実話である。

監督はスティーヴ・マックィーン。この名を聞いて映画ファンは驚くはず。あのアメリカの名優スティーヴ・マックィーン(1930~80年)と同姓同名なのである。しかし今回のスティーヴはイギリスの方で、しかも黒人の方。代表作は『SHAME』。国は違うが、黒人奴隷制度のことは忘れてはならないということで、しかも、より強く記憶に残すために、体験しているように感じさせる撮り方をしており、ここがすごい。

また、ブラッド・ピットも共演している。かれは、同時に本作の製作をしている。実は、彼は自身のプロダクション「PLAN B」をもち映画製作にも注力している。『チャーリーとチョコレート工場』や『ディパーテッド』など多くの映画を手がけている。黒人男性を『2012』などのキウェテル・イジョフォーが演じる。また、共演には最近、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』などで、注目されていてきたベネディクト・カンバーバッチも。

舞台は南北戦争(1861~65年)前の1841年のアメリカ。主人公のソロモンはバイオリニストで、比較的自由であった北部で、自由の身で家族と一緒に幸せに暮らしていた。ある日突然、拉致され、南部の綿花農園で12年間も奴隷生活を強いられた。それも"体験型"だけに、いろいろ相当ひどい目に合う。鞭打ちなどは特撮もあって目を覆いたくなる。

しかし彼は絶望せず自分の尊厳を守り続ける。この強い精神はすごい。やがて12年近くなり、奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人患畜労働者バス(ブラッド・ピット)が農園にやってきて、あまり書けないが良い方向に動き出す・・・。

見ていて辛くなる映画である。彼以外のほとんどの人は、同じ人間ながらその後も黒人奴隷として、過酷な環境に置かれていった。人間は完璧ではない。このような黒人奴隷の話など、歴史的に人間が犯してきた酷いことを、戒めとして映画で社会に知らしめることは、映画の存在価値の一つである。

伸びる経済・企業は、健全なる競争ができ、できる人が評価されていく世界である。新しいことにチャレンジできる世界である。結果(保障)ではなく、機会が平等である世界といっても構わない。そこでは「差別」や「規制」が障害になる。しかし、一般的に、経済も企業もそういったものはあるものである。

ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』にもあるが、成功した経済・企業ほど守る方に力が入ってくる。現在の日本の岩盤規制や構造改革は進まない。量的緩和等、現状維持政策が採用される可能性が高くなってくる。まさにここは経済学ではどうにもならないところであり、こういう点こそ本来、政治の力を発揮すべきとところなのであるが。

アメリカの大統領はお父上が黒人のハワイ出身のバラク・オバマである。そして、世界の指導者は女性が多くなってきた。そのような国は自由競争ができている証なのかもしれない。しかし、そういったものに数値目標をおくとやや無理が出てきそうとも言われている。

個人的なことであるが、筆者も新しいことにチャレンジするのが好きで、映画とシネマを合体させた「シネマ経済学」という新分野を作り、映画評論家となった。経済学博士を持った映画評論家は一人ではないか。著作権関係で被害者となったこともあり、意匠申請中したが。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたにも分かり易い講義は定評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。22日で記念すべき150回を迎え、2014年4月で9年目になります。

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