『アメリカン・ハッスル』――カジノの経済的意味 宿輪純一のシネマ経済学(27)

個人的に不思議なのは、いろいろな背景には明るくないので、はっきりとは言えないが、競馬、競輪、パチンコが合法であってカジノがダメである点である。宝くじの位置づけはどうなのであろうか。

本年度第86回アカデミー賞で作品賞はじめ"最多10部門"にノミネートされている作品であり、確かにハラハラして面白い。「ハッスル(Hustle)」とはこの場合、詐欺の意味。1979年に実際に起こった実話を基にしたフィクション(最近のアメリカ映画は実話系が多い)で、カジノタウンとして開発中であったアトランテッィク・シティをめぐる政治家などの収賄スキャンダルであったアブスキャム事件の映画化。

「アブスキャム(Abscam)」とは"アブドゥールのスキャム(詐欺)"ということで、アブドゥールという名前は西洋人がアラブ人の名前で思いつく最も一般的なものなので「アラブの詐欺」といったところであろうか。なお、オバマ政権の現職司法長官エリック・ハンプトン・ホルダーが、司法省在籍時に実際に担当した事件としても有名である。

FBIや司法省が仕掛ける悪徳政治家の一斉検挙を狙ったおとり捜査に、無理やり協力させられる詐欺師たちの紙一重のドタバタした姿を描く。監督などの製作者のこだわりだろうが、主人公の風貌が皆個性的で、髪型にかける熱心さが異常なほどである。また70年代を生きてきた音楽が映画にとっても効果的で、個人的にも非常に心地よい。

詐欺師アーヴィン(クリスチャン・ベイル)と、その相棒で特に色っぽい愛人のシドニー(エイミー・アダムス)はFBI捜査官リッチー(ブラッドリー・クーパー)に逮捕されるが、米国によくありがちであるが司法取引で、無罪放免を条件に当局のおとり捜査への協力を持ち掛けられる。それは、アラブ人富豪の架空の投資会社をでっち上げ、カジノ利権に群がる政治家やマフィアを一網打尽にしようとするものであった。

ネタバレになるのであまりかけないが、アーヴィンとシドニーは、標的のカーマイン市長(ジェレミー・レナー)に近づくが、二人の仲を嫉妬するアーヴィンの妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)がおとり捜査の邪魔をするなどして、紙一重の中で作戦が進行していく・・・。

監督は『ザ・ファイター』『世界にひとつのプレイブック』などで人気急上昇のデヴィッド・O・ラッセル。いままでの彼の映画の出演者を多く登用し、癖のあるスターを使いこなしている。脚本の良さもあろうが、実際、5人の俳優は全員、大変色っぽく魅力的に映る。また、ロバート・デ・ニーロも出演している。

本作はニューヨークに近いニュージャージ州のカジノであるアトランティック・シティに関わる事件である。再開発のために76年にカジノを合法化したのである。その後、西のラスベガス、東のアトランティック・シティとなった。実際、筆者もニューヨークに長くいたが、何回も訪問した。

筆者も個人的にはカジノが好きで、海外の都市ではパスポートを持って訪問することが多かった。共産圏の影響が大きかったのかフィンランドのヘルシンキで、カジノに行ってみると一番安いチップが1枚当時5000円からで、これには驚いた。

このカジノ、日本でも検討されている。アトランティック・シティと同じ様に再開発というか経済活性化ということであろう。しかし、観念的にも訝しむ声も多い。

近年は、マカオがアジアや中国の経済発展を背景に規模でラスベガスを抜いた。真面目な国であるシンガポールも、大っぴらには宣伝しないが、カジノを作った。

個人的に不思議なのは、いろいろな背景には明るくないので、はっきりとは言えないが、競馬、競輪、パチンコが合法であってカジノがダメである点である。宝くじの位置づけはどうなのであろうか。もちろん、本作品に出ているように、悪事や犯罪を働く輩は、ガンガンおとり捜査でもして取り締まっていただきたい。

最近では、ラスベガスもアトランティック・シティも、子供も遊べるファミリーリゾートになっている。日本は、経済低成長が続くし、税収不足は目も当てられず、そのせいでいうわけではないが、このような方向性はいかがであろうか。東京ではなく、地方の再開発の一つのきっかけにもなるかもしれない。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたにも分かり易い講義は定評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。22日で記念すべき150回を迎え、2014年4月で9年目になります。

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