『火花』―"自分"という商品(104)

お笑いコンビ:ピースのボケ担当である又吉直樹の小説家デビュー作で、なんと第153回芥川賞を受賞した『火花』が映像化された。

(2016年)

お笑いコンビ:ピースのボケ担当である又吉直樹の小説家デビュー作で、なんと第153回芥川賞を受賞した『火花』が映像化された。原作を2時間の映画では描き切れず、動画配信サービスNetflixのオリジナルドラマとなった。500分の映画制作のイメージである。10本に分かれている。「見たくなったら、すぐ見れる」のがウリである。

ドラマといいながら、すべて映画監督と映画スタッフで作り上げている。これがNetflix "初"の本格的日本発のコンテンツで、しかも、日本映画(ドラマ)が、世界中で見れるのも"初"というなかなか歴史的な作品である。

お笑いコンビ:スパークスの徳永は、熱海の花火の営業で、4歳上の先輩芸人・神谷に出会う。この二人が主人公。自分にはないものを持つ、常識破りな神谷に憧れ、徳永は恋人のように親交を深める。スパークスは少しずつ売れてきて、お笑い番組などにも出演するようになったところで、相方が彼女の妊娠をきっかけに芸人を辞めコンビを解散。徳永も芸人を辞め、仕方なく不動産屋で働くことになる。

その後も神谷は相変わらず働かず、後輩に奢りまくるといった生活を続け、膨大な借金を背負うことになった。お約束であるが、結果的に自己破産する。再び会うと、神谷は自分ではウケると思って、女性のような豊胸手術を受けFカップになっていた。さすがの徳永も呆れ果てる。徳永と神谷は、恋人の様に最初出会った場所である熱海へ二人で温泉旅行に出かける。神谷は、素人参加型の漫才大会が開催されることを知り、自然に盛り上がる。徳永も「これから続きをやろう」と心に決めた。

ドラマの多くの部分は"漫才"で占められる。ネタを考え、練習し、舞台に立つ。日々"悪戦苦闘"しながらの努力が続く。しかし、お客様にウケるのは大変難しい。

この作品を見ていると、まさに人間、自分自身が"商品"であると痛感する。講義でも教えているのであるが、漫才師同様、我々一人一人が商品なのである。状況に合わせて経営的に、激しい競争の中で、自分を売れる商品にしなければならない。就職活動はその最たるものである。さらに企業経営と同じように、日々、状況に合わせ、自分の弱みをカバーし、強みをより強くしていくしかないのである。もちろん、短期的・長期的に経営計画を立てることも必要になってくる。

経営的に見るということは大事で、自分自身を"客観的"に見ることができるようになる。客観的に自分を見るということが大事で、"冷静"に対応できるのである。この感情抜きということが、筆者はプロの条件とも考えている。

しかも、企業の経営と人の人生の違いは、企業は社長であるのはある一定の期間だけであるが、人生は死ぬまでこの肉体の社長であり続けるわけで、逃げるわけにはいかない。この点では人生の方が"辛い"のである。不祥事があったとしても、途中で降りることはできない。

実は講義ではもう一つ、"国の経済"というものも、企業の経営、人の人生と本質的に同じであるとも教えている。現実的には、日本経済は、成長率が非常に低く、借金も非常に多く、経営とすると誰が見ても良くない経営ということも分かる。量的金融緩和や増税延期といった小手先の現状維持政策をしたところで、逆に病気の経済をそのまま放置するために悪化させる。現在、蔓延している"将来不安"を軽くするためには、経済を改革しないといよいよダメなのである。

『火花』はすでにNetflixで配信中。

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