『マレフィセント』―ヨーロッパ中世の仕組みが経済を強化する 宿輪純一のシネマ経済学(48)

本作の主人公は、ヨーロッパ中世童話「眠り姫」つまり「眠れる森の美女」の"魔女"である。

(2014年アメリカ/Maleficent)

本作の主人公は、ヨーロッパ中世童話「眠り姫」つまり「眠れる森の美女」の"魔女"である。魔女らしく名前も「マレフィセント(Maleficent)」と、英語の形容詞であり、意味は、まさに「悪意に満ちた」である。黒いドラゴンに変身するが、それはディズニーランドのアトラクションにも登場している。

『眠れる森の美女』は、第16作目のディズニー長編アニメとして59年に製作された。チャイコフスキーがバレエ組曲をベースにしている。

今回の実写版ダークファンタジーでは、この魔女マレフィセントが主人公であることからもわかるように、逆サイドから描かれている。ネタバレになるのであまり書けないが、この魔女に惹かれるのは筆者だけではないはずである。幻想的で美しく、ダークな映像世界に引きまれる。

とあるヨーロッパの王国の王女:ローマ神話の女神(アウロラ)にちなんで名づけられたオーロラ姫の誕生祝賀会パーティーが開催される。華やかで幸せな雰囲気の会場に、招かれざるマレフィセントが参加し、オーロラ姫に永遠の眠りにつく呪いをかける。しかしその理由は、実は深く、謎に包まれたマレフィセントの過去にあった。

元々は美しく心清らかな妖精マレフィセントであったが、彼女はひどい裏切りに会って石のような心を持ことになり、敵国の王女オーロラに呪いをかけたのである。しかし、マレフィセントはオーロラこそが自分の"真の幸福"をもたらすものと気が付く。そして、本当は・・・・。

マレフィセントがアンジェリーナ・ジョリー(アンジー)が演じているのも話題だが、名子役だった女優ダコタ・ファニングを姉に持つエル・ファニングや、アンジーの娘ヴィヴィアン・ジョリー=ピット(5歳!)が共演しているのも見どころ。(ちなみに、アンジーの新作『Unbroken(切れ目のない)』(2014年)では監督専念、今年公開予定。これは日本軍の捕虜になりつらい目にあったアメリカ人の陸上選手の話)。

さて、この「眠れる森の美女(眠り姫)」は、民間伝承されていた童話を、グリム兄弟よりも早く、フランス人のシャルル・ペローが纏めたものが日本でも広まっている。彼は「赤ずきん」、「長靴をはいた猫」、「青ひげ」、「シンデレラ」などもまとめている。この「眠れる森の美女」のモデルとなったお城も、フランス中西部にあるユッセ城(世界遺産)といわれている。

物語はヨーロッパのとある国、それも王様がいる封建制の時代であり、城があり騎士がいる。このような封建制がそもそものベースとなって、現在のドイツなどの連邦制があり、ドイツは地方分権が進んだ国となっている。ドイツではいわゆる大企業の本社も、首都ベルリンではなくて、地方都市にあることが多い。ルフトハンザはケルン、フォルクスワーゲンはヴォルフスブルク、ベンツはシュツットガルト、BMW、アリアンツ保険とシーメンスはミュンヘン、ドイツ銀行はフランクフルト・アム・マインである。

一方、社会主義的な色彩があるフランスは中央主権の進んだ国となっている。他に地方分権が進んだ国にはアメリカがある。現在、このドイツとアメリカが、他の先進国と比べて経済状況が良い。地方が権限を持って独自の政策・施策を打つことができることもその一因かもしれない。

日本の地方は人口減少などの経済力が落ちて来ている。筆者はアメリカにも住んでいたが、州ごとに消費税をはじめ当局の行政が違う。たとえば消費税を下げて消費者を呼び、企業を誘致するにも様々な方法がある。日本は、中央集権的に税金は一定で、最近では工場の海外移転も進めている。そうではなくて、分権化して競争原理のもとで工夫をさせ、(いろいろあるにせよ)まずは工場の地方移転をすすめるべきではないか。当然のことながら、経済状況は良くなり、雇用も税収も安定する。

たとえば、人口が0.5%減少している岐阜県を見てみよう。たとえば消費税を下げると、近隣県から消費者が訪問するであろう。大垣、岐阜、関などの歴史的な資産、そして日本第2位の森林率82%という自然を認識し、県魚アユ(鵜飼)や県花のレンゲの蜂蜜などの名物の売上げも伸びることになろう。さらに法人税も自ら決めることができれば誘致もしやすくなろう。

県ごとに競争原理を導入することが大事なのである。筆者がFTAなどの自由貿易協定に賛成なのは、国ごとに政府間の競争原理が導入されることである。少し悲しいが、今の経済学では競争こそ経済成長のベースなのである。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月2日の第155回のゼミで"9年目"に突入しました。

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