『情愛中毒』―韓国と中国との深まる関係 /宿輪純一のシネマ経済学(64)

今後、韓国は経済の面で中国陣営に入っていく可能性があり、ある意味、米国との関係も含め注意が必要である。もしそうなると、さまざまなバランスが崩れていく可能性がある。ロシアと中国が手を組む「新冷戦」も予想されているが、韓国の動きはさらに複雑化する要因の一つであり、世界経済に与える影響もでてこよう。

(OBSESSED/2014)~Obsessとは「取り付く」の意味

 日本ではあまり知られていないからもしれないが、1964年から1973年まで、韓国軍はベトナムに派兵され、ベトナム戦争を戦っていた。そういった時代が舞台の韓国映画である。

 その戦時中の1969年、韓国軍の上流階級が暮らす軍官舎に居を構える、教育隊長キム・ジンピョン(ソン・スンホン)とその妻であるイ・スクチン(チョ・ヨジョン)。妻の父は軍の幹部で、主人公は将来が嘱望されていた。

 そんなとき、部下であるキョン・ウジン(オン・ジュワン)と彼の妻チョン・ガフン(イム・ジヨン)が同じ官舎で暮らすことになった。この彼の妻は中国人(華僑)であり、韓国と中国との距離の近さも感じる。

 ジンピョンはガフンに取り付かれるように熱中する。次第に、二人は思いあう中になり、お互いを激しく愛し合う。その後、ガフンは秘密を抱えており、彼らが重ねる逢瀬はさらに大胆になり、軍官舎を大きく揺さぶるスキャンダルが発覚する。その後、主人公は人生を転げ落ちていく。

 韓国映画に必要な、いじめや階級社会、そして突然の死といった要素も織り込まれており、そういった意味からも満足する。

 韓国はこのベトナム戦争に米国との関係から派兵した。韓国は経済的にも米国との関係が深く、キリスト教信者も多い。

 最近、その韓国と中国との結び付きが深まっている。貿易相手国の1位も、日本でも米国でもなく中国である(最近、日本との関係は微妙であるが)。さらに最近では、中国が設立を進めている中国が主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)」にも、韓国(とオーストラリア等)が参加の意向をしめした。その後、米国がマッタを掛けたといわれているが、今後は分からない。

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定:Trans-Pacific Partnership)は、米国が主導している対中国を意識した貿易・経済協定である。様々な理由があるが、韓国もはっきりしない微妙な立場を取っている。

 今後、韓国は経済の面で中国陣営に入っていく可能性があり、ある意味、米国との関係も含め注意が必要である。もしそうなると、さまざまなバランスが崩れていく可能性がある。ロシアと中国が手を組む「新冷戦」も予想されているが、韓国の動きはさらに複雑化する要因の一つであり、世界経済に与える影響もでてこよう。

 そんな歴史に翻弄される韓国の一つの姿を見ることができる映画である。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月の第155回のゼミで"9年目"に突入しました。

Facebook経由の活動が中心となっており、以下からご参加下さい。会員は6500人を超えております。https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/

次回は第171回の宿輪ゼミは12月3日(水)開催です。

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