『ふたつの名前を持つ少年』―平和のためのユーロ/宿輪純一のシネマ経済学(82)

ユーロは一歩一歩進めている。そのような欧州の大きな流れの中で、最近のギリシャが自分でも言っていた「ユーロからの離脱騒ぎ」は禁じ手をいうか、失礼千万であった。
2013 Bittersuess Pictures

(LAUF JUNGE LAUF/RUN BOY RUN /2013)

© 2013 Bittersuess Pictures

今年は、第2次世界大戦後70周年ということで、日本でも戦争関連の大作が公開される。本作品は「ポーランド」を舞台にしたユダヤ人の少年の話。実話を基にした児童文学「走れ、走って逃げろ」を実写化したものである。ユダヤ人強制居住区(ゲットー)から逃げ出した少年がナチスの迫害から逃れるために、ポーランド人を装い、ポーランド名(2つ目の名前)を使う。非常に過酷な運命をたどりながらも希望を捨てない少年の姿に胸を打たれる。

8歳の少年スルリックは逃亡したものの、寒さと飢えに襲われてしまう。あるポーランド人の夫人に助けられたり、心優しい一家と出会って一時の安息を得るが、ユダヤ人であることがばれてしまい、大事故にもあってしまったり、と不幸が続く・・・・。

ポーランドの美しい風景の中、少年が過酷な運命を勇敢に生き抜いていく。欧州のユダヤ人の方々は本当にご苦労された。最後は幸せを得て、筆者自身も本当に良かったと思った。

ポーランドは「映画」も有名である。『地下水道』、『灰とダイヤモンド』、『大理石の男』『ワレサ 連帯の男』アンジェイ・ワイダ監督は1926年生まれ(89歳)でご存命。また、若くしてポーランドを離れてしまったが、『チャイナタウン』、『戦場のピアニスト』、『ゴーストライター』のロマン・ポランスキー監督も、1933年生まれ(82歳)でご存命である。

ギリシャ問題で揺れる欧州の通貨ユーロであるが、このユーロも本当の狙いは「欧州の平和」である。欧州は2回の大きな戦争を経て、大きく国土が荒廃した。このような戦争は2度と起してはいけないということで、統合への道を固めた。欧州統合は具体的には1952年の石炭鉄鋼同盟からスタートしたが、最終的には国境をなくし、欧州合衆国を目標としている。

そのステップとして、通貨を統合して単一通貨ユーロを発行するなど一歩一歩進めている。そのような欧州の大きな流れの中にあって、最近のギリシャが自分でも言っていた「ユーロからの離脱騒ぎ」は禁じ手をいうか、失礼千万であった。ユーロ離脱をいう方も多いが、そもそもユーロ離脱がEUの条約にはない。無理な離脱はEUを離脱するしかないが、それで生きて行ける可能性は低い。

しかし、欧州統合における不安要素も無いことはない。英国のEU離脱に関する国民投票が2017年末までに行われる。他ならぬポーランドも、EUから個々の加盟国にもっと権限を戻すことを要求している。再交渉を試みているデビッド・キャメロン英首相と同じ主張だ。終戦記念日の15日から公開。

※ユーロと映画の関係については、弊書『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)をご一読頂けたら幸甚である。

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