(THE JUDGE /2014)<1月17日公開>
シカゴで悪徳弁護士として活躍するハンク・パーマー(ロバート・ダウニー・Jr)は、インディアナの田舎町に住む清廉な判事(Judge)の父ジョセフ(ロバート・デュヴァル)とは絶縁状態。父はなんと殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう。父は、判事として42年間にもわたり、法廷で正義を貫き、世の中からの信頼も非常に厚く、尊敬されていた。そんな父が殺人を犯すはずがない、と弁護を引き受けるハンクだったが、調査が進むにつれて不利な証拠が次々に浮上してくる・・・・。そして、父と子が互いに反目しながらも裁判に挑んでいく。そして、映画は法律を超えて大事なものを指し示す。
『アイアンマン』でブレイクしているロバート・ダウニー・Jrと『地獄の黙示録』が印象に残るオスカー俳優ロバート・デュヴァルが初めて共演。監督は、法廷で主人公と対決する検事を『チョコレート』のビリー・ボブ・ソーントンが渋く熱演する。
本作品は、様々な社会問題を指摘している。仲たがいする親子、都会と田舎、悪徳弁護士と清廉な検事、安易な離婚と添い遂げる夫婦、身体障害者と老いと病気、そして、正義と悪、それが絡まっていく。しかし、最後に本作品を引っ張るのは「親と子の絆」である。その思いやる気持ち、そしてこの殺人事件のベースには「道徳」というものがあり、本作品を支えているとともに、社会全体に訴えている。
最近、日本では道徳というか、社会の乱れというか、礼節のない人が増え得ているような気がする。電車に乗っていても、人に対する配慮のない無礼な大人が増えている。モンスターといわれる大人も増えている。このような道徳というか常識的なことは、本人のためにも、家庭でも学校でも勉強すべきである。そもそも経済においては「道徳を忘れた経済は、罪悪である」と二宮尊徳(金次郎)もいっているように、本来、前提である。また筆者は道徳的な行いは「前向きな気持ちの裏側」であるとも考えている。犯罪行為の取り締まりはもちろんだが、その道徳は、かつては日本人の強みだったはずであり、英語よりも、この面の教育の強化を強く望む。
ちなみにもっと大きい意味では、最近、注目されている「格差」の問題も道徳的ではない。昨年、IMFはセミナー「所得格差のマクロ経済学」で「世界で最も裕福な人々上位85 人が、世界の富の約半分を占めている」と指摘した。「何百万という人々が絶望的な貧困のなかにある一方で、この85人が1,000回人生を生きても使い切れないような富を保有しているという状況は正しくない」とし「道徳的に誤り」だと述べている。なかなか刺激的な内容であった。
映像的には、この作品はインディアの自然がふんだんに感じられる。映像が森林を中心にして「青緑色」を中心としており、日本とは違った田舎の雰囲気がとても素敵である。街には滝もあって、その風景で筆者は『ツインピークス』を思い出した。
筆者も長くアメリカに住んでいたが、その中でも一番長く住んだのが、ハンクが住むシカゴであった。あまり時間的に長くは登場しないが、筆者が働いていたビルが出てきて、個人的には非常に嬉しかった。
アメリカの抱える社会的問題をフルカバーして、アメリカの自然も十分に感じさせ、道徳的で、アカデミー賞最有力というのも分かる気がする。
「宿輪ゼミ」
経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生達がもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月で9年目に突入し、来年4月にいよいよ10年目に。開催は"170回"を超えております。
Facebook経由の活動が中心となっており、以下からご参加下さい。会員は6800人を超えております。https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/
次回第174回の宿輪ゼミは1月21日(水)開催です。