崩壊した最初のバブル『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』

歴史を遡った許されざる愛を描くロマンスであると同時に、世界最初のバブル「チューリップバブル」が描く、経済・金融映画でもあり、味わい深い。

TULIP FEVER2017/米英合作)

歴史を遡った許されざる愛を描くロマンスであると同時に、世界最初のバブル「チューリップバブル」が描く、経済・金融映画でもあり、味わい深い。

スペインから独立し、東インド会社を通じて日本も含め世界中と貿易し、まさに黄金期ともいわれた17世紀のオランダ・アムステルダムが舞台。運河で活発な商取引の様子も良く出てくる。

冨を蓄えた市民の興味はチューリップと絵画への投資であった。オランダ人は元々、絵画が好きで一般市民も普通に収集していた。奇しくも、フェルメールやレンブラントがブームになっている。本作は画像をはじめ、フェルメールを意識した造りになっている。実は、筆者の家業は美術であり多くの絵画を見てきたが、オランダの海外の特徴の一つに"小さい"ということがある。それは市民の狭い家に合わせたものである。

主人公ソフィア(アリシア・ヴィキャンデル)は孤児として育ち、親子ほどの歳の差がある金持ちのコルネリス(クリストフ・ヴァルツ)と結婚した。二人は子供ができないことに悩んでいた。ある日、コルネリスは自分たちの肖像画を描いてもらうため青年画家のヤン(デイン・デハーン)を雇う。やがて、ヤンとソフィアは惹()かれ合うようになる。人妻と青年画家の許されざる愛におぼれていく。さらには、女中マリアと魚売りのウィレムとの愛が芽生えるが運命が味方しない。子供が欲しいソフィアはある策略を巡らすが・・・・。その大きな運命を握るのがチューリップバブルなのである。

17世紀のオランダでは絵画やチュ―リップが市民の収集の対象となり、また特にチュ―リップは投機の対象となっていった。当初はアムステルダム証券取引所で取引がされていたが、その後、飲み屋の奥の部屋で取引されるようになった。あたかも私設市場である。その様子も良く描かれるが、バブルの特徴であるが、お酒やドラッグも入り、群集心理でチュ―リップの価格が急騰していく。さらには出来てもいない球根まで取引されていた。それはあたかも先物取引であり、原題の金融に近いものがすでにある。

バブルとは崩壊するからバブルなわけで、その日が近づいていく。共に貧しい画家のヤンや魚売りのウィレムは、お約束であるが、なけなしのおカネをつぎ込む。163612月から翌年1月が、チュ―リップの価格のピークで、縞模様のモノや、さらに貴重なモノは球根一個で最高で家2軒分までなった。そして疫病や規制などで、バブルは崩壊し、おカネをつぎ込んだ人々の人生も崩壊し、そして悲劇に向かっていく。

バブルとその崩壊は約10年毎に繰り返すといわれている。ブラックマンデー、アジア通貨危機、リーマンショックときて、今年がその10年目である。米中貿易戦争の中、最高値を更新する米国株価や、上昇し続ける中国の不動産、日本の世界一の財政赤字とその裏返しの世界一の国債の大量発行、裏打ちの無い仮想通貨など不安要素はいくつもあり、注意が必要である。そのような経済情勢下で、ロマンスと絡めてバブルについて自然に学べるのは有益でもある。

監督は『ブーリン家の姉妹』や『マンデラ 自由への長い道』などのジャスティン・チャドウィック(英)。原作は『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』も書いたデボラ・モガー(英)。出演は主人公ソフィアが『トゥームレイダー ファースト・ミッション』などで乗っているアリシア・ヴィキャンデル(スウェーデン)。恋人ヤンに『アメイジング・スパイダーマン2』で主人公の親友役だったデイン・デハーン(米)。年老いて金持ちの夫コルネリスにアカデミー男優のクリストフ・ヴァルツ(オーストリア)。修道院の院長にアカデミー女優のジュディ・デンチ(英)など名優がわきを固めている。英語はもちろんイギリス英語である。

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