『君の名は。』―変わってきたマーケティング(115) 宿輪純一のシネマ経済学

企業戦略の観点から考えると、この映画(君の名は。)の"新しさ"が良くわかる。

(Your Name. /2016年)

本作品は、2016年8月26日に公開されたアニメーションであるが、日本の映画史に残る大ヒットを続けている。

時間を超えて、お互いに知らない、岐阜の田舎町で生活している少女と東京に住む少年が、不思議に関係が奇妙な夢を通じて、導かれていく。場面は1,000年に1度のすい星来訪が、1カ月後に迫る現代の日本。

山々に囲まれた田舎町に住む女子高生の"三葉(みつは)"は、町長である父の選挙運動や、家系の神社の風習などで気持ちは重かった。東京在住の男子高校生"瀧(たき)"は自分が田舎町に生活する少女になった夢を見る。やがて、その高校生の男女が入れ替わってしまう設定となっている。お約束であるが、最終的に災害に巻き込まれていく・・・。

筆者は映画評論家であるが、同時に先生でもある。経済・金融が専門と思われているが、実際は東京大学大学院で企業戦略を教えたのが最初の教鞭である。実は経営系も専門なのである。前職のメガバンクでも経営企画関係の部署にも長く勤務した。そういった企業戦略の観点から考えると、この映画の"新しさ"が良くわかる。

映画もそうであるが、マーケティング(モノを売る仕組み)で一番大事なのは「分かりやすいシンプルなコンセプト」であると教えてきた。お客様が分からないものは、買う気にならない。そのため、コンセプトはシンプルなものに向かっていく傾向がある。映画もそうであった。しかし、本作は違う。「コンセプトが多すぎる」のである。しかも、それを"魅力"としている点である。

非常に高度なアニメ(技術)、かわいい女子高生の生活、若者の正義への行動、親との反目、田舎とメガ都会の比較、時空を超えた関係、日本の伝統と考え方、日本の一般生活を超えた神秘、自然の大災害(とくに隕石は映画のテーマでは多い)など、コンセプトが非常に多い。結果的に1回見ただけでは、十分に理解できないかもしれない。だから、何回も足を運ぶのであろう。

しかし、もっとも言いたかったことは「さまざまなものは"一瞬"で終わるもの」であるということではないか。そうであるならば、日々時間を無駄に過ごしていられない。日々、後悔のないよう、精一杯努力して生きることが大事だと思う。そして、結果というものよりも、努力するその過程こそ大事であり、そこに本当の幸せがあると思う。

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