紛争地から紛争地へ逃げる 世界から注目されないアフリカ難民危機

戦闘や不安定な情勢から安全を確保するために母国を逃れたにも関わらず、難民たちは受け入れ国でも同様の恐怖におびえながら生活しなければならない。

海岸に打ち上げられたシリア難民の少年。昨年9月に撮影されたその写真は瞬く間に世界中を駆け巡り、私たちに大きな悲しみと欧州難民危機の深刻さを痛感させた。

100万人以上の移民・難民がヨーロッパへと渡った激動の2015年。2014年の280,000人と比較してみれば、この数字がいかに驚異的なものかが感じられる(関連記事:難民危機-何がシリア難民をヨーロッパへ「追いやる」のか)。

シリアやイラクといった中東、また北部アフリカからヨーロッパへと向かう難民の姿が様々なメディアによる報道を占める一方で、その影となり世界から注目されることの少ない難民危機が、紛争地から紛争地、もしくは更に生活環境の厳しい地へと向かうアフリカ難民の姿だ。特にサブサハラ砂漠以南の多くの地域では、戦闘や不安定な情勢がより深刻さを増しており、多くの人々が生まれ故郷を離れ、別の紛争地へと「より安全な生活」を求めて移動し続けている。

2011年7月に独立を果たした世界で一番新しいアフリカの国、南スーダン。2013年12月15日、アフリカ北東部に位置するこの南スーダンで軍の一部が反乱を起こし、他の部隊との間で戦闘が勃発。これをきっかけとして戦闘は国内各地に広がり、これまでに数万人が死亡、200万人以上が家を追われている。

今年1月からは、既に40,000人以上の難民が隣国スーダンの東ダルフール地方へと流入している。しかしながら、難民が流入しているこのダルフールは「世界最悪の人道危機」とも形容される地域だ。2003年2月から続く紛争では、これまでに30万人以上が死亡、250万人以上が避難民になり(今年だけでも10万人以上の避難民が生まれたと推定されている)、440万人が人道支援を必要としている(関連記事:スーダン・ダルフール地方で住民投票が開始-「世界最悪の人道危機」に終止符は打たれるか)。

また、頻発する飢饉や戦闘、不安定な情勢から逃れるため、昨年一年間で約100,000人ものエチオピア・ソマリア難民が、アデン湾を船で渡り中東のイエメンへと渡っている。

世界で最も貧しい国のうちの一つであるこのイエメンでも紛争が続いており、これまでに少なくとも6000人が死亡(半分が一般市民)、人口の8割に当たる約2100万人が外部からの支援を必要としており、1300万人以上が飢餓の危機に瀕している。

昨年7月には、イエメンは「最悪レベルの人道危機」に直面していると国連が宣言しており、これはシリアやイラク、スーダンと同じレベルの人道危機を意味する。UNHCRの広報担当エイドリアン・エドワーズ(Adrian Edwards)氏は、「(難民としての)旅路も、イエメン内で直面する事態も、極めて危険であることは明らかである。」と、今年1月AFP通信に対して語っている。

昨年には、イエメンへ向かう途中で95人が溺死する事故も発生しており、この事態が如何に深刻であるかが分かる。(関連記事:イエメン一時停戦で合意、クウェートで和平協議開始へ-追い詰められる国内避難民たち)。

第二次世界大戦後としては最大と言われるコンゴ民主共和国の紛争。これまでに540万人以上もの死者を出している同国の紛争から逃れるため、昨年一年間で約5000人の難民が隣国の中央アフリカ共和国へと逃げ込んだ。この中央アフリカ共和国でも、2013年末に激化した紛争により約90万人が家を追われ、更に国内では270万人が人道支援を必要としている(2015年4月時点)。

紛争地から紛争地へと難民が逃れることによって生まれる問題は様々だ。戦闘や不安定な情勢から安全を確保するために母国を逃れたにも関わらず、難民たちは受け入れ国でも同様の恐怖におびえながら生活しなければならない。

紛争によって経済的・社会的設備が破損している国での新しい生活は、子ども達から更に「子供時代」を剥奪し(教育機会の剥奪など)、またマラリアや下痢などといった感染症の蔓延率もなお高い。これらの本来防げるはずの病気によって、生後間もない子供たちは命を落としてしまうこともある。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)や他人道支援系・緊急支援系NGOの予算は、受け入れ国側の国内避難民などへの対応によって既に大部分が使われており、流入してくる難民を十分に受け入れるための準備が整っていることは少ないのが現状だ。

2013年のUNHCR報告書によれば、世界の難民のうち86%をアフリカや中東、アジアといった発展途上国が受け入れており、UNHCRの管轄下にある難民のうち約半分は、一人当たりGDPが5000米ドル以下の国々に暮らしているとされている。

アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官(当時)は、「難民、また国内避難民の面倒を見るためにかかる経済的・社会的・人的コストのほとんどは貧しい国々によって担われており、それらの国々にはそのための余裕は到底ない。」「より多くの脆弱な人々が、適切な支援無しに放置されてしまう事を避けたいのであれば、国際社会の結束力を高めることは必須である。」と述べており、また「国際社会が現在進行中の紛争に対する政治的解決の方策を見つけない限り、そして新たに紛争が勃発することを防がない限り、劇的な人道的結果(危機)に対処し続けなければならないだろう。」とも発言している。

記事執筆者:原貫太

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