ひと度紛争が起きれば、その国では多くの人々が傷つき、家を追われ、そして犠牲となる。2016年12月に勃発し、昨年7月に再燃した南スーダンの紛争では、現在約88万人が難民としての生活を強いられており、今月8日には国連児童基金(UNICEF)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によって、故郷を追われた子どもの数が200万人を超えたことが発表されている。
南スーダン難民居住区の様子(photo by Kanta Hara)
紛争当事国での被害が甚大である一方で、時間・空間を超えた二次、三次の被害もまた甚大であることを、私は一つのニュースから痛感した。
南スーダン生まれの「元少年兵」(元子ども兵)であり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えるカナダ在住の男性が、働いていたファストフード店のレジから現金253ドルを盗んだ疑いで逮捕された。3年間の執行猶予付きで、懲役80日間の判決が下されている。カナダの地方紙Medicine Hat News(MHN)が報じている。
MHNの報道によれば、男性は他にも詐欺の疑いで逮捕されているが、弁護人は"犯行の動機は紛争が続く南スーダンで苦しい生活を送る家族を支えるためだった"旨を指摘している。男性は幼い頃、南スーダンで強制的に少年兵にさせられ、その後難民となってカナダへとやって来ていた。子ども時代に紛争を経験したことによって患った精神疾患が、彼を今回の犯行に駆り立てた一つの要因になったとみられている。
私がウガンダ北部で出会った元子ども兵たちも、そのほとんどが幼い頃、ある日突然誘拐されたことで強制的に兵士にさせられている。人生で初めて出会った元子ども兵アイーシャさんは、2000年12月に反政府組織「神の抵抗軍」に誘拐され、"少女兵"になった。
元少女兵アイ―シャさんにインタビューをした際の様子(写真:原貫太)
1980年代から活動を開始した「神の抵抗軍」は、ウガンダ北部で殺害や誘拐を繰り返し、3万人もの子どもを誘拐して兵士へと仕立ててきた。地元の村を襲撃させたり、新たに子どもを誘拐させたり、家族を殺害させたりなど、司令官たちは子ども兵たちに残虐な行為を強要してきた。中には、最初の任務として母親の腕を切り落とすことを強いられた子ども兵もいた。
(関連記事:『子ども兵(少年兵)に家族殺害を強要―世界から恐れられた男「コニー」の探索が終わる』/『"初めての任務として母親の腕を切り落とす"少年兵・少女兵問題は、大学生の私にとって目の前の解決したい問題になった。』)
西アフリカのシエラレオネという国でも、子ども兵問題は深刻だった。ゲリラ組織は村を襲い、子どもの目の前で親を殺害。ショックを受けた子どもをそのまま拉致して基地へ連れて帰り、訓練を受けさせて兵士へと仕立てていった。洗脳教育や麻薬によって人を殺すことの抵抗感を無くさせ、まだ「純粋」な子どもたちは、ゲーム感覚で人を殺す「殺戮マシーン」へと変貌を遂げていった。
しばしば、「少年兵(子ども兵)は加害者であり、そして被害者でもある」と言われる。少年兵によって襲撃された地元の人間や家族を殺害された人間にとっては、たしかに少年兵は加害者だ。しかし、その一方で「ある日突然誘拐された」子どもたちは、そのほとんどが自分たちの意志で兵士になったわけではない。反政府組織やゲリラ組織に従うしか生きる道が残されていない時、自分で選択を下す権利がない時、私たちが彼らを責めることなどできるのだろうか。彼らは、間違いなく被害者なのだ。
昨年10月のBBCニュースによれば、現在の南スーダンでは1万6千人もの子どもが「武装勢力」に所属しており、また昨年12月には、2016年だけでも約1300人の子どもが武装勢力に徴用・徴兵されたとユニセフが発表している。
南スーダンでは反政府組織のみならず、政府軍でも子ども兵を徴用・徴兵していることがヒューマン・ライツ・ウォッチによって報告されている。わずか13歳の子どもまでもが、「兵士」になっている。
紛争はその場における一次的なもののみならず、二次、三次と時間・空間を超えて甚大な悪影響をもたらす。今の南スーダンには、どれほど「被害者」である子ども兵がいるのだろうか。南スーダンの紛争は終結する兆しが見えないが、仮に紛争が終わったとしても、二次、三次と悪影響を受ける人々はどれくらいいるのだろうか。
私がウガンダ北部で出会った南スーダン難民の人々。彼らのこれからを、どうしても考えてしまう。
ウガンダ北部のパギリニヤ難民居住区で出会った南スーダン難民の女性。写真右は筆者(photo by Confront World)
(2017年5月8日 原貫太公式ブログ「世界まるごと解体新書」より転載)
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<子ども兵問題の「真実」と「リアル」を知りたいあなたへ>
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誰だって、一度は思ったことがあるだろう。今この瞬間にも、世界には紛争や貧困で苦しんでいる人がいるのはなぜなのだろうと。その人たちのために、自分にできることはなんだろうと。
僕は、世界を無視しない大人になりたい。 --本文より抜粋
ある日突然誘拐されて兵士になり、戦場に立たされてきたウガンダの元子ども兵たち。終わりの見えない紛争によって故郷を追われ、命からがら逃れてきた南スーダンの難民たち。
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記事執筆者:原貫太
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