自衛隊が撤退しようがしなかろうが、南スーダンの人々の「苦しみ」は変わらない

南スーダンからの自衛隊の撤退。南スーダンからの難民が流入している難民キャンプに入り、難民の方々から直接話を聞いてきた。

この記事を読んでいるあなたに、忘れてほしくないことがあります。

先月10日、日本政府は国連の南スーダン派遣団に参加している陸上自衛隊の施設部隊を、5月末で撤退させる方針を決めました。撤退する自衛隊の第1陣約70人は、今月19日に帰国すると発表されています。

自衛隊派遣や「駆けつけ警護」の問題もあり、南スーダンの紛争は日本社会でも度々取り上げられています。しかしながら、南スーダンの国内避難民や難民"ひとり一人"が置かれている状況、また彼らが今直面している課題について報じられることは、ほとんどありません

「PKO5原則」を満たしているか否か。そんな論戦ばかりでは、其処で起きている紛争の「リアル」は分かりません。

何百人が亡くなった。何千人が避難した。何万人が飢餓で苦しんでいる。そんな数値やデータばかりでは、其処で生きている人々の「顔」は見えません。

私は今年1月~3月、南スーダンからの難民が毎日のように流入しているウガンダ北部に滞在し、難民キャンプ(難民居住区)に合計5回入って、難民の方々から直接話を聞いていました。

目の前で両親が銃殺された女の子と出会いました。逃げる途中で政府軍に夫を誘拐された女性と出会いました。厳しい環境にも関わらず孤児7人を引き取り面倒を見ている女性と出会いました。

逃げてくる途中で政府軍に見つかり、夫を誘拐された女性。「今は夫が生きているかさえも分からない」。写真右は筆者。(photo by Kanta Hara)

紛争で両親を失った姉妹。難民居住区の厳しい環境の下、子どもたちだけで生活を送っている。(photo by Kanta Hara)

生後6か月の難民。多くの子どもたちが十分な食事や教育機会を得られていない。(photo by Kanta Hara)

孤児7人を引き取って面倒を見ている女性。(photo by Kanta Hara)

難民居住区内で水を飲む子ども(photo by Kanta Hara)

難民居住区での食糧や水の配給は、決して十分だとは言えません。現地スタッフが「一日に一回しか食べられない家族もいる」と語るように、栄養失調なども数多く報告されています(関連記事:「一日一回しか食べられない」南スーダン難民居住区の食糧事情レポート)。

また、南スーダン難民のほとんどには生活費を稼ぐための安定した仕事がないため、多くが配給された食糧の一部を転売することで、僅かな収入を得ています。薪木拾いや水汲みの仕事をしたとしても、一か月の収入はたったの300円にしかなりません(関連記事:「政府軍に夫を拉致された」一家の主を失った南スーダン難民の女性たち)。

私は、心配になってしまいます。自衛隊が南スーダンから撤退した後、この国の紛争について、そこで苦しんでいる人々の存在について、日本で取り上げられることは少なくなるのではないかと。南スーダンの紛争はいつしか、「どこか遠くの国の出来事」としてしか捉えられなくなるのではないかと。

なぜなら、自衛隊が撤退しようがしなかろうが、南スーダンの人々の「苦しみ」は変わらないからです。その事実には、賛成も反対もありません。「右」も「左」もありません。

自衛隊が撤退した後でも、南スーダンの紛争は続いているでしょう。国内避難民は190万人を、難民は170万人を超えています。其処には、多くの人々の悲しみや苦しみが広がっています。

現場に足を運び状況を目の当たりにしている人間として、日本政府による南スーダン難民・国内避難民への人道支援や和平の働きかけなどに期待します。

そして、南スーダン難民ひとり一人と関わっている人間として、自衛隊が撤退した後でも、日本の皆さまがこの国の紛争やそこで傷ついている人々の存在を気にかけ、そして「無視」しないでいることを希望します。

(2017年4月13日 原貫太ブログ「世界まるごと解体新書」より転載)

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誰だって、一度は思ったことがあるだろう。今この瞬間にも、世界には紛争や貧困で苦しんでいる人がいるのはなぜなのだろうと。その人たちのために、自分にできることはなんだろうと。

僕は、世界を無視しない大人になりたい。  --本文より抜粋

ある日突然誘拐されて兵士になり、戦場に立たされてきたウガンダの元子ども兵たち。終わりの見えない紛争によって故郷を追われ、命からがら逃れてきた南スーダンの難民たち。

様々な葛藤を抱えながらも、"世界の不条理"に挑戦する22歳の大学生がアフリカで見た、「本当の」国際支援とは。アフリカで紛争が続く背景も分かりやすく解説。今を強く生きる勇気が湧いてくる、渾身のノンフィクション。

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記事執筆者:原貫太

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