イエメン一時停戦で合意、和平協議開始へ-追い詰められる国内避難民たち。平和は訪れるか?

「これが本当に最後のチャンスだ。イエメンでの紛争に必ず終止符を打たなければならない」(アフメド国連特使)

今月23日(水)、国連のイエメン担当であるアフメド事務総長特使は、内戦状態にあるイエメンで対立を続ける政府軍と反体制派が、国連の仲介で4月10日から一時停戦に入ることで合意したと発表した。和平協議は18日からクウェートで始まる。イエメンでは、ハディ暫定大統領を支持する政府軍とイスラム教シーア派の武装組織フーシ派との間で戦闘が続いており、同国の人道危機はますます深まっている。

イエメンは「最悪レベルの人道危機」に直面

イエメン内戦では、これまでに少なくとも6000人が死亡(半分が一般市民)、人口の8割に当たる約2100万人が外部からの支援を必要としており、1300万人以上が飢餓の危機に瀕している。また、5歳以下の子供約32万人が深刻な栄養不足に苦しんでおり、240万人以上が故郷を追われ避難民と化している。昨年7月には、イエメンは「最悪レベルの人道危機」に直面していると国連が宣言しており、これはシリアやイラク、スーダンと同じレベルの人道危機を意味する。

昨年3月には政権側を支援するためサウジアラビア主導の連合軍が空爆を開始。サウジアラビアなどスンニ派各国は、勢力を増すフーシ派の背後にはシーア派の大国イランの支援があると見ており、同国の内戦は宗派対立を続けるサウジアラビア・イランの代理戦争の様子を呈している。

和平協議の注目点

今回のクウェートで開かれる和平協議では、軍隊や武装組織の撤退、一時的安全保障体制の構築、また国家機関の復元方法などに焦点が当てられる。アフメド国連特使は、「これが本当に最後のチャンスだ。イエメンでの紛争に必ず終止符を打たなければならない。」と意気込みを表している。またアフメド特使によると、政権側を支援しているサウジアラビアも、今回の和平協議に協力する姿勢を見せている。

追い詰められる国内避難民たち

紛争で故郷を追われるも、国外に脱出することのできない国内避難民(Internally Displaced People=IDP)がますます追い詰められている。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、イエメン内戦によって267,173人が難民となっており(2015年12月31日時点)、その多くがソマリアやエチオピア、スーダンに避難している(最も多いのはソマリアの253,215人)。しかしながら、この難民の数は深刻なイエメン情勢を考えると非常に少ない(イエメンの人口は2013年時点で約2500万人)。同じ中東に位置し、今年で6年目を迎える内戦が続くシリアでは、既に400万人以上が難民と化し国外に脱出している(シリアの人口は2013年時点で約2300万人)。

この理由としては、国境を接している国がサウジアラビアとオマーンだけ、そして砂漠と海に囲まれた国であるという地理学的な要因が大きい。また、以前はイエメンからの難民を受け入れていたヨルダンも入国にVISAやその他の規定を課すようになってきており、故郷を追われた人々は国外に脱出することが難しくなっているのだ。

イエメン周辺。Google Earthより。

イエメンの事態は、国内避難民がいかに深刻な事態に直面しているかをよく表している。現在の欧州のように難民として国外に流出すれば「目立つ」が、国内に止まり続ければ世界から目を向けられる機会も少ない。

こうした「最悪レベルの人道危機」に対し、アフメド・イエメン担当国連特使は今回の和平協議に対して強い意気込みを見せている。しかしながら、過去一年の間に実施された数回の和平協議や一時停戦はいずれも本格的な和平へとは繋がっておらず、今回の和平協議も難航することが予想される。また、石油産出国であるサウジアラビアとの関係からアメリカはイエメン内戦には積極的に関与しておらず、解決までの道のりは険しい。

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