しつけか虐待かを決める、親の"一貫性"とは?

置き去りが明らかになったとき、「しつけは、そのときの衝動でやるものではない」とか、「しつけじゃなくて、ただの感情の爆発でしょ」だの、批判が相次いだ。が…

北海道の山中で置き去りにされた小学2年生の男児が、6日ぶりに保護されたニュース。昨日(編注:7日)、無事退院したが、いまだに置き去りは「しつけ」か「虐待」か? 国内外に波紋を広げている。

置き去りが明らかになったとき、「しつけは、そのときの衝動でやるものではない」とか、「しつけじゃなくて、ただの感情の爆発でしょ」だの、批判が相次いだ。

が......、親も人間。衝動的になってしまうこともあれば、感情が理性を凌駕することだってある。

私は子供を産んだことも、育てた経験もないので、「独身女に何がわかる!」と言われてしまうかもしれないけど。

......頭でわかっていても、心が言うことをきかないことって、人なら誰でにもあると思うのだ。

そこで、「しつけ」を、「物事の善悪を教えるために親が子供に行う行為」ととらえ、しつけについて感じていることを、健康社会学的視点から少しお話します。

赤ちゃんはこの世に誕生してから、「自分の世話をする人」と、「『生きる力』の土台をカタチ作る人」に出会う。

たいていの場合、この役割を担うのが「親」。

生きる力は、SOC=Sense of Coherenceと呼ばれ、自分を取りまく環境の中で育まれる力。もっとも影響を受けるのは幼少期で、この時期に「質のいい親子関係」を経験することが、成人期にも影響を及ぼす。

ここでキーワードになるのが、「一貫性」と「負荷のバランス」だ。

「自分は信頼できる人に囲まれている」と確信できる一貫した感覚と、ものごとの善悪(=負荷のバランス)を、親子関係で築いていくことが求められ、これらをいかに成功させるかが「しつけの効果」にも影響する。

例えば、子が「お母さん、来て」とサインを送ったとき、親はいつもいつも「どうしたの?」をやさしくすぐにやってくるわけじゃない。

お掃除や洗濯をしているときには、「お母さん~」と駄々をこねても「あとでね」と待たされるかもしれない。

仕事に出かけているときには、どんなに「お母さん~」と泣き叫んでも、親にそのメッセージは届かない。

あるいは、お母さんも仕事などで疲れ果て、子どもの声が聞こえているのに聞こえないふりをしてしまうこともあるかもしれない。

だが、最後には必ず「どうしたの?」とちゃんとやってきて、「自分」と向き合ってくれる。どんなことがあろうとも、必ず最後は「あなたは私の大切な人」というメッセージを送ってくれる。

この一貫した親の行動が、一貫性、すなわち「信頼できる人たちに囲まれている」という確信を持らし、その感覚を持続した経験が、「私の人生、捨てたもんじゃない」という、厳しい社会を生き抜く、たくましさを作るのである。

一方、負荷のバランスは、今回の事件で考えると分かりやすい。

親は子どもが言うことを効かないので、「今、言ってることややっていることはダメなこと」(=負荷のバランス)をわからせるために、「置き去りにする」(=しつけ)という行為をとった。

置き去りにされることは、子には恐怖だ。

ひとりぼっちにさせらた途端、大抵の子は、「お父さん、お母さん~」とSOSを出し、「もう悪いことしません。お父さん、お母さん、来て!」をメッセージを送る。

すぐには親はこなかもしれない。だが、「もうこれ以上がんばれない。お母さん来て~!」と、究極のSOSを出したとき、それを親が受け止め、やってきて子と向き合う。

つまり、置き去りが「しつけ」か否か、ではなく、肝心なのは「あと」。物事の善悪(=負荷のバランス)を教える行為のあと、きちんと「子と向きあい」、一貫した行動をとることが大切なのだ。

子の欲求に対し、親は4つの応答を持つとされている。

1つ目が「無視」。2つ目が「拒絶」。3つ目が「方向付け」。そして、4つ目が「承認と激励」である。

この4つの応答のバランスのとれたパターンが提供されることが、「生きる力」には必要不可欠。

無視、あるいは拒絶が、「しつけ」とするなら、そのあとは、方向付けと承認でしめくくらなければならない。

しつけをしたあとは、「あのときはね、こうしなきゃダメなのよ」と方向付けをし、「がんばったね。こわかったでしょ」と子のがんばった行動を認め、激励する。

この繰り返しが、負荷のバランスを養い、しつけがしつけたる意味をなし、子の社会で生きていく力が作られていくのである。

子は産まれながらにして、「親を動かす力」を持つとされている。

子が泣けば、親があやし、子が微笑めばかわいくて抱きしめる。実は子は親を動かし、親の行動を確かめているのかもしれないのだ。

子を甘やかすだけでは、子の生きる力は育まれない。

子を褒めるだけでは、子のたくましさは身に付かない。

親が子を信頼すれば、子も親を信頼する。

「あなたは私にとって大切な人」ーー。このメッセージの繰り返しが、子が存在意義を感じる源泉となる。

今回の事件は、いくつもの奇跡が重なり、助かって本当に良かった。男児はものすごくがんばったし、ご両親もきびしい6日間を過ごしたことだろう。

どうかこのあと、100%の信頼関係を、改めて築いて欲しいです。今回の奇跡が未来の希望になることを、心から願ってます。

注目記事