"自粛狩り"が、地震ストレスを増大させる!ー「心の防災手帳」より

震災のストレスは、ストレス状態がドミノ倒しのように続いていくのが特徴である。

震度7を記録した14日夜以降、震度1以上の地震は600回を超えた。18日夜に阿蘇市や大分県竹田市、19日夕方には八代市で震度5強の揺れを観測した。熊本県内の避難者は、19日現在で約11万7000人。熊本市内では、エコノミークラス症候群により、車中泊していた女性が死亡。避難生活の長期化で震災関連死や、ストレス症状の顕在化が懸念される。

そこで「心の防災手帳」と称して、震災とストレスについてお話しようと思う。

震災のストレスはストレス状態がドミノ倒しのように続いていくのが特徴である。

まず、基礎的な理解として、ストレスは「雨」と考えて欲しい。

ストレッサー(ストレスの原因)雲から落ちてきた雨に、心がびしょ濡れになる。今回の場合でいえば、「大地震」というまるでゲリラ豪雨のような激しい雨にびしょ濡れになった。

今後は(既に今も)家の問題、経済的問題、仕事の問題、大切な人の死、人間関係 etc,、次々と「ストレッサー雲」が雨をまき散らす。

最初の震災豪雨で、激しく心がびしょ濡れになっているので、ちょっとした雨でも疲弊する。

まるでドミノ倒しのように、ちょっと力が加わっただけでストレス状態が慢性化し、"心の復興"が遅れてしまうのである。

そこで重要となるのが、「心をいかに元の状態」に戻すか、である。いわゆる、ストレス対処、それを適切な時期に、適切なカタチでやっていくかが今後の心の状態の鍵をにぎる。

下記の表は、「心の防災手帳」と称して、まとめたものだ。(出演した番組で使った映像しか、ここにアップできなかったので見づらくて申し訳ない)

心の防災手帳 河合薫作成

最初の第一段階の「急性期」(避難して3ヶ月後位まで)。

最初のストレス状態が起きるこの時期は、'''恐怖心、無力感、不安'''をもっとも感じるので、ストレスを発散がポイントとなる。心にたまった雨を吐き出し、元の状態に戻すのである。

既に、イベントなどの"過剰な自粛"が進んでいるが、これはもっとも間違った対応である。皮肉なことに、イベントなどの自粛が心の復興を遅らせるのだ。

'''「楽しい」というポジティブな感情が、心のへこみをもとに戻す'''。私たちが日常から非日常(=イベントなど)を経験するとストレス発散ができるように、被災者の方にもそのいった時間と空間が必要なのだ。

加えて、遊ぶ、運動する、といった遊戯も、効果的だ。これまでの調査でも、「子どもを遊ばせる」といった取り組みが、子たちの恐怖や不安の解消に役立ったことがわかっている。

「保育園児の散歩が不謹慎」と批判があったようだが、むしろこういったときだからこそ、散歩すべき。青空を見て、小鳥のさえずりを聞き、新緑の元で気持ちのいい空気を吸うことで、へこんだハートが少しだけふっくらする。また、声を出すのもストレス発散に役立つので、「大声コンテスト」などの企画もプラスとなる。

さらに、この時期は「無力感」に苛まれるため、誰かの役にたつ行動が大切である。是非ともボランティアなどに行かれた方は、「自分たちがやってあげる」のではなく、「一緒にやる」を実行して欲しい。

「おじいちゃん、ちょっと手伝ってもらえませんか?」とか、「これをお願いします!」と仕事を頼むのがいい。

「おばあちゃん、これってどうしたらいいですかね?」といった具合に、おばあちゃんの知恵袋を借りるのも、無力感の解消に大いに役立つ。

もっとも注意していただきたいのが、「心のケアの押し売り」だ。たとえ善意であっても、ストレスの専門的な知識のない方が、心のケアに乗り出すのは得策ではない。ケアする人は、「被災した人たちは悲しくて、不安でたまらないだろう」とネガティブな感情の暴露を期待するが、人間の心というのは、実に複雑である。

とんでもなく悲しいときに、笑ってしまったり、ジョーダンを言ってしまったり。そういった言動は、人間の本能に宿る治癒力でもある。

ところが、「心のケア」と銘打った人たちがくると、悲しい顔をしなくちゃいけないんではないか? 困ったふりをしなければいけないんじゃないか? と、ネガティブな感情を演じなければいけないという「ストレス」にさらされる。

例えば、東日本大震災のときある地域では、震災から3カ月たったときに、ボランティアやメディアを一切シャットアウトして、カラオケ大会を開いた。

「○○町の◎◎太郎です。オヤジと弟が目の前で津波に流されていきました! 兄弟舟歌います!」

「▲町の○×花子です。あそこの電信柱に、ジイさんがぶつかって死にました! 花、歌います!」

と、泣き笑いしながら大声で歌った。

実にシュールで、誰にも見せられない内緒のカラオケ大会が、ストレス発散になったそうだ。

次の段階が「中期」(1~3年目ぐらいの時)。この時期は普通の生活に戻れず、喪失感(人・家財・地域)と向き合うことになり、不眠が続き、うつ傾向なども顕在化してくる、

自分の心身の状況にうまく向き合って、それに対処するのがとても重要で、ポイントは「一人きりで抱え込まない」こと。家族、友人、ボランティアなど、他者のサポートがとても重要になる。

被災者に関わる人は、「寄り添い」「見守り」「忘れない」の三原則を守って欲しい。降り続いているストレスの雨をしのぐ、"傘"の役目をすればいいのである。

また、中期には「つらい経験」を語るのも心の復興につながる。が、その一方で、経験がつらければつらいほど、「言いたくても言えない」といった状態に陥るので、関わった人たちは気長に見守り、ひとたび語りのきっかけを被災者の方が掴んだら、とにかくじっくりと耳を傾け、ただただうなづけばいい。

そして、何か声をかけたいと思ったら、'''心のそこから沸き立った言葉'を、'ストレートに伝えればいい。カッコいい言葉はいらない。過剰な気遣いもいらない。私自身、東日本大震災の一年後に、仮設を訪問したときに、「『がんばってください』と言ってはいけない」とわかっていながら、「がんばって」という言葉しかでなくて、つい言ってしまったことがあった。

そのとき「ありがとう。がんばってって言って欲しかった。本当にありがとう」と感謝された。大切なのは「言葉」ではなく、そのメッセージに込められた意味が、心の底から沸き立ったものかどうかだ。関わる人は真っ正面から向き合い、心の言葉を大事にしてほしい。

そのひとことが、次の段階の「長期」で、

ああ、あのときああ言ってくれた。うん、ふんばろう」と、被災した方の元気な力になるのである。

中期に上手く対処できないと、その後、PTSDの症状につながったり、長引くリスクが高まる。実際、阪神淡路大震災の15年目の調査で、半数の人たちが「PTSDハイリスク群」だった。特に「女性」の場合は、リスクが高いこともわかっている。

最後の段階「長期」(3年目以降)では、専門医の"傘"を借りて欲しい。これまでの知見から、PTSDの治療には「認知行動療法」の中の暴露法(Exposure)が最も多くの対照研究から、有効であることがわかっている。

震災ストレスはドミノ倒しなので、まずは今の時期である「急性期」に、雨を吐き出し、ヘコんだ心をもとに戻す取り組みを徹底して、中期、長期につながらないようにすることが肝心である。

最後に、個人的な話しになるが、私の両親は九州出身で、父が熊本、母や湯布院である。そのため親戚や知人も被災した。幸い自宅の倒壊などは免れたが、今も続いている余震で、不安な日々を送っている。

今回、私のできることとして、このコラムを書きました。少しでも役立てていただければ幸いである。自然災害はどこでもおきる。「心の防災手帳」として心の本棚に追加してください。(河合薫yahoo news より転載)http://bylines.news.yahoo.co.jp/kawaikaoru/20160420-00056818/

注目記事