060 | カラダにいい映画 第3回。映画の主人公が走るワケ

BRUTUSで主に映画ページを担当するライター・門間雄介さんが選ぶ、「カラダにいい映画」をご紹介。

BRUTUSで主に映画ページを担当するライター・門間雄介さんが選ぶ、「カラダにいい映画」をご紹介。

今回は「走る」映画についてご紹介したいと思います。古今東西、挙げてもきりがないほど、たくさんの走る映画が作られてきました。そんな中でも名作の誉れ高い一作が1981年のイギリス作品『炎のランナー』です。おそらく40代以上の人なら、ヴァンゲリスが手掛けた有名なテーマ曲、あの「♪チャンチャララチャンチャン」という荘厳な響きがすぐさま甦ってくることでしょう。

舞台は第一次大戦後のイギリス。男子100mのライバルとしてしのぎを削るふたり、エーブラムスとリデルがやがて英国代表として'24年のパリ五輪に出場するまでを、本作は彼らの対照的な走り方とともに描き出していきます。ユダヤ人として偏見にさらされながら、プロ・コーチの指導を受け、あくまで"自分"のために走るエーブラムス。一方、敬虔なキリスト教徒のリデルは、家族のため、国家のため、そして何より恩寵を与えてくれる"神"のために走ります。劇中、「走ることは彼の人生」というセリフがあるように、ふたりにとって走ることはすなわちみずからの生き方そのもの、自身を捧げるものだったのです。

「走」という言葉がタイトルに使われている作品だけでも、『犬、走る』『単騎、千里を走る』『嵐の中を突っ走れ』『南へ走れ、海の道を!』などさまざまありますが、劇場未公開だった『ラン・ファットボーイ・ラン』(2007)はあまり知られていないかもしれません。副題は『走れメタボ』。『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』('13)などのサイモン・ペッグが脚本・主演したこの作品は、別れた女性とヨリを戻すため、運動とは無縁のメタボな警備員がマラソン大会に出場するコメディーです。走るための秘策が「ものすごい速さで足を交互に出し続ける」ことという運動音痴の彼にとって、目標はとにかく走り切ること。精神力と忍耐力を鍛錬すれば完遂できる長距離走は、映画でも小説でも、主人公の成長を描く物語に最適なテーマなのでしょう。

人が走るのは、当たり前のことですが、陸上競技においてだけではありません。映画史上に残る「走る」名場面を描いた作品、『フレンチ・コネクション2』('75)で主人公のドイル刑事が走るのは、麻薬密売組織のボスを追い詰めるためです。映画のラスト、路面電車に乗り、果てはヨットで逃亡を図るボスを、ひたすら走って、走って、追い続けるドイル。足はもつれ、「ハアハア」という彼の荒い呼吸が画面を満たす中、彼の目線の先には遂にボスの乗るヨットが......。何度観ても掌をギュッと握りしめてしまう、本当にスリリングな作品だと思います。

■『炎のランナー』

監督:ヒュー・ハドソン、出演:ベン・クロス/第54回アカデミー賞で作品賞を始めとする4冠を達成した名作。CMを手掛けていた監督らしく、スローや音楽を効果的に用いて、浜辺や五輪での走る場面を感動的に演出した。'20年代初頭の英国社会も見事に再現。

■『ラン・ファットボーイ・ラン 走れメタボ』

監督:デヴィッド・シュワイマー、出演:サイモン・ペッグ/人気TVシリーズ『フレンズ』のD・シュワイマー初監督作。何をやっても途中で投げ出してきた男が一念発起、愛する女性のため、仲間の協力を得てマラソン大会での完走を目指す。ギャグのつぶてに抱腹。

■『フレンチ・コネクション2』

監督:ジョン・フランケンハイマー、出演:ジーン・ハックマン/アカデミー賞5部門を制覇した前作に続く刑事アクションの傑作。第1作が映画史に残るカー・チェイスを作り上げたのに対し、こちらは屈指のラン・シーンを。あまりに鮮やかな幕切れも必見。

門間雄介

●もんま・ゆうすけ

編集者、ライター。「CUT」元副編集長。08年「T.」創刊。編著書に「実験4号」伊坂幸太郎×山下敦弘など。BRUTUSをはじめ、多数の雑誌で編集執筆。イオンシネマ「シネパス」の作品選定などにも携わる。

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(「からだにいい100のこと。」より転載)

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