勇気ある性暴力被害者たちの告発と努力で実現した法改正。しかし更なる大胆な改革が必要だ

日本政府は今すぐ次なる改革に着手すべきだ。
BEHROUZ MEHRI via Getty Images

イギリスBBCが6月に放送したドキュメンタリー番組「Japan's Secret Shame(邦題:日本の秘められた恥)」。2015年に知人からレイプされたと名乗りをあげた伊藤詩織さんに焦点を当てた約1時間の番組で、日本内外で大きな話題となった。

レイプ被害がまだまだ「恥」とされる日本社会。政府統計によると、警察に被害届を出す性暴力被害者は5%にも満たない。さらに、被害者がバッシングされることも少なくない中、レイプ被害を公表することはさらに難しい。しかし、伊藤さんをはじめ沈黙を破った勇敢な女性たちがいる。

例えば、小林美佳さん。2000年のある夏の夜、帰宅途中に見知らぬ2人組の男に車の中に引きずり込まれ、性的暴行を受けた。被害を受けて8年後、このレイプ事件そしてその後の悪夢のような体験を本にまとめて出版した。

オーストラリア人のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんは2002年、神奈川県・横須賀市で、在日米兵にレイプされた。警察に助けを求めたが、被害者であるフィッシャーさんはまるで犯罪者かのような理不尽な対応を受けた。そして事件に自分自身で立ち向かうことを決意。加害者に訴訟を起こし、性被害の体験も併せて公表した。

伊藤さん、小林さん、フィッシャーさんの被害体験には15年のひらきがある。しかしその体験は驚くほどよく似ている。全員が、人権を無視した警察の捜査手法・性暴力に対する理解不足、被害者支援の欠如を経験している。被害者バッシングも少なくない。

BBCが放送した「日本の秘められた恥」の中では、等身大の人形を使った被害状況再現の捜査も取り上げられた。警察が、被害者に等身大の人形で被害を再現させつつ質問も行い、その様子を写真撮影する手法だ。性犯罪被害者の人権を侵害し、必要性に欠けるこの捜査手法が、二次被害をもたらすことは言うまでもない。

一方これまでに前進もあった。刑法の性犯罪規定は20176月、110年ぶりに大幅改正された。それまで刑法上処罰可能なレイプは陰茎の膣内への挿入のみとされていたため、レイプ被害を受けた男性・少年が、泣き寝入りを余儀なくされていた他、多くの女性・少女被害者もまた壁に阻まれていた。改正刑法では、「肛門性交又は口腔性交」も併せて「性交等」として処罰対象となった。

その他にも、レイプは被害者の告訴がなくても起訴できる非親告罪となり、法定刑の下限も引き上げられ厳罰化が実現した。

勇気ある被害者たちの告発と努力によって実現した法改正だが、更なる大胆な改革が必要だ。

まず法律面。昨年の法改正をもってしても、現在の法制度はいまだ性差別的で時代遅れだ。大きな問題点がいまだ刑法上レイプは、原則として「暴行又は脅迫」があった場合に限られるとされている点だ。この要件は、はっきりとした力づく、あるいは脅しがあるレイプばかりではない現実に沿っていない。たとえば恐怖心や極度のショック、薬物やアルコールなどの影響で被害者が抵抗できない場合や、加害者と被害者の間に上下関係が存在している場合など。

しかし世界は進んでいる。性暴力に対する社会的認識の変化に対応し、スウェーデンドイツを含む世界各国で、レイプの定義が改正されているのだ。力づくや脅しを要件とせずに、同意が不存在の場合、レイプに該当するという定義だ。

一方の日本では、検察側は「被害者の同意の不存在」以上に難しい、「暴行又は脅迫」の立証を法廷で求められている。その結果、レイプとみなされてしかるべき多くの事件が法の裁きの場から除外されている。日本政府も世界の流れにそって、暴行脅迫を不要とする法改正を行うべきだ。

そして実務面の改善メニューも長い。まずは性被害の現場で被害者に人形を使って被害再現をさせる手法の全面廃止など、捜査を人道的かつ適切なものにするとともに、そのための警察官や検察官に対する更なる研修も必要だ。

さらに、女性20万人に1か所という国連の提言にそって、レイプクライシスセンターへのアクセスを抜本的に改善しなくてはならない。そしてすべての警察署、ワンストップセンター、病院に、専門的基準・手続に基づき迅速に法医学的証拠を採取できるキット(いわゆる「レイプキット」)を配備すべきだ。また、ソーシャルワーカーと連携しながら性暴力に対処する特別な研修を受けた女性警察官へのアクセスを十分確保することも急務といえる。

加えて、性感染症のスクリーニングおよび治療、HIV予防の投薬、妊娠検査、および人工妊娠中絶手術など、即時および継続的な保健医療サポートなど、被害者のための支援サービスを今後も改善していかなければならない。被害者にはまた、法的支援、カウンセリングへの長期的なアクセス、および(被害者同士の)ピアサポートなどが必要だ。

こうした改革メニューは以前から示されていた。

1985年に日本が批准した国際条約、「女性差別撤廃条約(CEDAW)」の専門家委員会が何年も前から勧告していたことも多い。日本弁護士連合会が勧告したものもある。内閣府男女共同参画会議の専門調査会も、24時間対応のワンストップセンターの設置などを提言している。

日本政府は今すぐ次なる改革に着手すべきだ。追い詰められたさらなる被害者たちがこうした改革の要求を余儀なくされる前に。

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