「私たちはみんな途上国なんだね」〜持続可能な開発目標の登場

「誰も取り残さない」。国連持続可能な開発サミットでは、世界で貧困や人権侵害状態にある人々すべてに尊厳のある生活を保障するためのアジェンダが採択されました。

ニューヨークの国連ビル周辺はお祝いムードに包まれている。9月25-27日の国連持続可能な開発サミットにおいて、国際社会の2030年までのガイドラインとなる「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、SDGs)」が国連加盟193カ国の全会一致で採択されたからである。そのキャッチフレーズは、「誰も取り残さない」。世界で貧困や人権侵害状態にある人々すべてに尊厳のある生活を保障することをうたっている。

SDGs については、採択を契機に各メディアで紹介され始めているほか、すでに当サイトにおいても、私が代表を務める日本の国際協力NGOネットワーク動く→動かす、およびセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのブログ(執筆者は稲場雅紀さんと堀江由美子さん。ともに一緒にニューヨークを訪れた仲間です)でも解説されている。

私自身、これまで3年以上、この交渉過程に市民社会の立場から参加してきた。そこでその立場から、3回に分けて、この新しい開発目標について私なりの見解を加えてみたい。まず、今回は、SDGs がどれほどのインパクトをもつものなのかについて。

ローマ法王対SDGs

今回SDGsが正式に採択されるのに先立って、英国紙ガーディアン(6/23)は、「法王と国連〜どっちが先に世界を救う?」という見出しで記事を出し、文句なしの軍配をフランシスコ・ローマ法王に上げている。ちょうどその頃、法王が出した「回勅」が話題となり、そこに込められた特に気候変動に関する力強いメッセージが多くの人の心をつかんでいた。いわく、回勅が「先見の明に富み、大胆、妥協せず、急進的」なのに対し、SDGsは「面白みもなく、及び腰で、『いつも通り』の態度にはまっている」と手厳しい。

ちょうど今回、フランシスコ法王が訪米し、米国議会と国連で演説した。ニューヨークではマジソン・スクエア・ガーデンでもミサを行うなど、交通規制で市街地は交通マヒ状態。その様子はメディアで大きく取り上げられ、「気候変動の最大の被害者は貧困に苦しむ人々」などのメッセージが広く行き渡った。

一方のSDGs。17の目標と169のターゲットをもっている。昨年、その草案が発表されると、「誰も取り残さない」に引っかけて「何のターゲットも取り残さない」と揶揄されるなど、なんでもありの目標設定になっていて焦点が伝わらないという声が聞かれた。確かに、開発と環境の目標を統合し、2年以上にわたる市民社会や民間セクター、学術関係者などを巻き込んだ広範な協議を経て、政府間交渉で作り上げられた産物であり、目標のてんこ盛り状態であることは否めない。

SDGsの主眼

だが少し整理すると見えてくるものがある。広範な協議を経たSDGsの結論は、人々が求めているのは「変革」であるという点だ。改革(reform)がそれまで積み上げてきたものの延長、軌道修正で成り立つのに対し、変革(transformation)は、それまでの積み上げを一度壊して、新たなものを確立することを含意している。「抜本的なやり直し」と言ってもよいだろう。すなわち、世界はこのままでは存続できない。貧困、環境破壊、格差、教育機会、健康、都市問題、海洋資源、等々。どんな問題をとっても状況はひっ迫しており、待ったなしの状態になっている。そしてそういった状況にメスを入れるのに必要なのは「平和で包摂的な社会の促進」や「効果的で説明責任のある包摂的な制度の構築」(目標16)であり、「実施手段の強化」や「グローバル・パートナーシップの活性化」(目標17)を通じてこれらを実現していかなければならない、と。内容は決して悪くない。

SDGsのもうひとつの大きな特徴は、普遍性(universality)、つまり2015年までのミレニアム開発目標(MDGs)がおもに途上国を対象にしていた開発目標であったのに対し、SDGsの対象には先進国も途上国も同等に含まれる点だ。途上国の課題には引き続き取り組まなければならない一方、先進国の国内課題や途上国と先進国の関係にも大胆にメスを入れていかなければならないという発想である。その気持ちを端的に表したものとして、今回ニューヨークで何度か聞かれたフレーズがあった。「私たちはみんな途上国なんだね」。そう、先進国に住む私たちも、自分の社会は問題だらけ。中にも外にも助けを求めて、自分で声を上げて、立場の違う人も一緒になって、なんとかしていこうよ、という感情を表現しているように私には聞こえた。

実施体制とモニタリングの必要性

SDGsにおいてもっとも大事な点の一つが、国レベルでの実施体制をつくることである。日本などの先進国を含め、世界のすべての国におけるSDGsの履行が求められる。各国政府、特に自国の政府がアカウンタビリティーを果たし、来年から2030年までの15年間、 17の目標達成のために政策を展開していくよう、市民社会は監視していかなければならない。そのために必要な手段として、それぞれの目標とターゲットにおける指標が、来年の3月にまとまる予定である。また、アカウンタビリティー確保のためのデータづくりをマルチセクターで行っていこうという動きや、市民の手でIT技術革新と連動し、貧困や社会開発に関する客観的データを作っていこうという動きもすでに出ている。

SDGsが世界を救うかは、市民がこれをいかに活用するかにかかっているのである。

SDGsのメッセージを世界に届けようと開かれた action/2015 のニューヨークでのイベントの様子(9/24/15)

*稲場雅紀さんの漢字が間違っておりました。お詫びして訂正いたします(10/4)。

注目記事